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インプットは投資であり、インプット量を確保し続けることが生命線である

インプットが減って将来的なアウトプットが先細りする構造

仕事で求められることは、常にアウトプットである。インプットは、求められるアウトプットを創出するために必要なものに限り正当化させる。

仕事を始めたばかりの頃は、出せるアウトプットが少ない。だから一生懸命勉強して、知識をインプットする。周囲も「育てる」期間はインプットしないとアウトプットが伸びないことを理解しているから、少ないアウトプットを許容し、インプットすることを推奨する。

しかし、仕事に習熟し十分なアウトプットを出せるようになると、そのアウトプットを出すのに必要な水準以上のインプットをすることは許容されにくくなる。それ以上インプットを増やしてもアウトプットが増えるわけではなく、一言でいえば「無駄」と見做されてしまうからだ。

しかし、これは奇妙なことだ。キャリアの初期には、将来的に花開くことを想定した「投資としてのインプット」が許容されていたのに、ひとたび一人前になるとそれは許容されなくなる。「投資」をしなければ、将来、より大きい果実を得ることができないという点では全く変わらないのにも拘わらず。

周囲の要望に応え、周囲が許容する範囲でのインプットに留めてしまうと、今は十分なアウトプットが望めても、将来的に必ずアウトプットが先細りしてしまう。重要なのは、その構造を理解し、意識的に新しいインプットをし続け、自分を継続的にアップデートする仕掛けを施しておくことだ。

意識的にインプットし続ける仕掛けの好例:スペインのレストラン「ムガリッツ」

長い期間に亘りトップを走り続けるプロフェッショナルは、この構造を直感的に理解しており、無理にでもインプットし続ける環境を作ろうとする。

ミシュラン2つ星を獲得し、「世界のベストレストラン50」にも選出され続けている「ムガリッツ」というレストランがある。この店は、1年のうち4か月間休業し、料理の研究と開発に集中する。ムガリッツのオーナーシェフであるアンドニ・ルイス・アドゥリスは、インタビューでこう語っている。

──店を休む4カ月間は、何を?
僕たちにとっては問いかけと、考える時間です。常に新しいことに挑戦し、新しいことを得る期間。店を閉めている間に、ひとり1日8時間から10時間、週に5日間、それを4カ月。スタッフ15人で延べ15000時間ぐらいです。常にキッチンにいる人間もいて、120の新しい料理を創造する。ひと皿にかける時間は延べ125時間になる計算です。

世界が注目するレストラン「ムガリッツ」のシェフに聞く。レストランのあるべき姿
https://cuisine-kingdom.com/andoniluisaduriz/

ムガリッツが提供する料理はその革新性で高い評価を得ている。あまりに革新的なので、食べる人によって大きく評価が分かれてしまうと言われているほどだ。ミシュランガイドにおいても、料理を根底から問い直すスタイルが賞賛されており、説明文だけ読んでも容易には想像がつかないような経験をムガリッツが提供していることが伺える。

ムガリッツは単なるレストランではなく、食通に他とは異なるダイニング体験を提供します。ここでは、あらゆることが問い直されるため、シェフの言葉を借りれば、「ここでの体験は料理の楽しさと同じくらい遊び心に満ちている」のです。規則を破ることを好むアンドニ・ルイス・アドゥリスの意図は、テーブルに置かれた小さな用語集にも表れています。これは、シェフ、スタッフ、さらには顧客によって定義された用語を詳述し、ダイニング体験に意味を追加する協力的な試みです。料理は古典的な順序に従わず、味やシングルテイスティングメニューの流れの両方の境界を超えることを常に目指しています。特に目立つ一品は「De frente: la piel que habito(正面:私が生きる肌)」と呼ばれるもので、これはシードルゼラチンの偽の皮膚が顔に追加され、ペッパーエマルジョンを添えた揚げパンのピースが伴うという概念的な創作料理です。

ミシュランガイドにおける「ムガリッツ」の説明文を翻訳
https://guide.michelin.com/jp/ja/pais-vasco/errenteria/restaurant/mugaritz

アンドニ・ルイス・アドゥリス氏は、閉店している4か月間も「ムガリッツ」をフルに営業することで、より多くの顧客をもてなし、価値を提供し、結果として更に多くの収入を得ることができる。短期的視点に立てば4か月間閉店することは損失でしかない。

しかし、長期的視点に立ち、シェフ自身と「ムガリッツ」のアウトプットが先細りせずに、むしろ自らをアップデートし続けていくために必要な仕掛けとして、4か月という長期に亘る休業と、その期間における徹底的な料理の研究を行っているのだ。

高級レストランは、プロフェッショナルが世界レベルで鎬を削る激烈な競争環境に置かれている。一時は注目され、非常に流行っていたレストランが、5年経ったら見向きもされなくなるというケースは珍しくない。そんな中で、1998年に開業し、2000年にミシュランで1つ星を獲得した後、長きに亘高い評価を獲得し続けていることは偉業であり、「ムガリッツ」の場合にはその根底に「意識的に多量のインプットを確保する仕掛け」である4か月間の休業があると考えられる。インプットが、その革新性を支えているのだ。

アウトプットが出せるようになってからのインプットは強制的に確保しに行くしかない

冒頭で触れたように、アウトプットが満足に出せるようになると、インプットは先細っていく構造にある。そしてこの流れに逆らうのは至難の業だ。短期的にはアウトプットを優先した方が、周囲だけではなく自分にとってもプラスなので、わざわざアウトプットに割ける時間を削ってまでインプットを確保することに労力をかけるインセンティブがないためだ。

故に、インプットの確保を「意志力」や「努力」の問題として捉えることは危険である。考えるべきことは、どうしてもアウトプット優先になってしまう構造にあることを認めたうえで、それに抗うことを自分に強制するような仕掛けをいかに構築していくか、ということだ。以前紹介した、ビル・ゲイツの「Think Week」もその1つの方法と言える。

アウトプットとインプットのバランス。これを如何に実現していくかが長期的に自分をアップデートし続け、価値発揮し続けるポイントである。

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