カナダ臨床留学 クリニカルフェロー編

今回の記事では、医師がカナダでクリニカルフェローとして「臨床」留学をする方法について記載しようと思います。

まずクリニカルフェローとは何か、というところから始まるわけですが、これは専門医を持っている人を対象に、さらなる追加トレーニングを短期間で行うプログラムのことをさします。

カナダではレジデント(専門医を取得する基礎となるトレーニング)は大多数がカナダの医学部卒業者(あるいは中東の医学部卒業者、この辺はちょっと複雑な話で、カナダ医療界の闇的な部分でもあるので今回は立ち入りません)で占められており、その他外国の医学部卒業者が入り込むのは極めて困難です。

一方、クリニカルフェローは専門医のトレーニングを終えた医師を対象としており、基本的にはカナダで専門医のトレーニングを受けた医師、海外(日本含む)でトレーニングを受けた医師の両方に門戸が開かれています。

クリニカルフェローの特徴として、実際に州の仮免許を取得するので、指導医の下で実際にHands-onの臨床行為が可能なことです。期間は一般的に1-2年が多いですが、少し専門(sub-specialty)を変えてもう少し長く居座る人もいます。

給料が払われるかはプログラムによりますが、一般的には払われる事が多いです。というか、払われないと就労ビザの関係で手続きが少しややこしくなるようで、採用側もあまり好ましくはないと考えてることが多いようです。給料が払われる場合、基本的にはレジデントの最終学年と同程度の給料となり、州やプログラムによりますがざっくり年70000$-80000$(日本円で700-800万円くらい、$はカナダドル)です。この額は単身であれば手出しなしで比較的楽に生活できる額ですが、大きめの都市で子連れの場合は生活スタイルによって0-500万円程度の手出しになる印象です。

カナダはアメリカと比較すると高所得者に対する税率が高く、その分社会保障が充実しているため(例えば医療費は基本無料、保育園も州によっては格安)、上記の額は世帯収入とした場合は低いですが、意外と負担感は少ないような気がしています(あくまでもアメリカと比較してですが)。

また、カナダのクリニカルフェローの特筆すべき点は、

基本的に日本の専門医資格を保持していればよく、USMLEやカナダ版の試験であるMCCQEを受験する必要はないという点です。これは必要なエフォートを考えると大きなメリットだと思います。

また、基本的に仮免許の申請要件は州によって異なり、州やプログラムによっては英語試験すら必要ありません。実際私は2年クリニカルフェローを行いましたが、英語の試験の結果証明を求められることは結局ありませんでした。

また、英語試験の場合は現在はIELTSに比べてOETも使える州がほとんどで、ある程度準備すればまあ何とかなるレベルです。詳しくは以下の記事をご参照ください。

このように比較的気軽に応募できるカナダのクリニカルフェローですが、何点もいくつかあります。

一つ目は、もちろんプログラムによりますが、基本的にはポジションを得るのが難しいです。上記のようにカナダではアメリカと違い、USMLEなどの試験を受験する必要がないため、特に語学的障壁がないイギリスの医師やオーストラリアの医師に人気が高いです。また、特に南米の医師からはカナダは魅力的な移住先のようで、南米からの応募もかなり多いようです。私がフェローとして働いていたプログラムでは倍率は大体10倍程度とのことでした。

また、そもそもカナダは人口がアメリカの10分の1程度しかなく、その分プログラムの数も少ないです。そのため基本的にはカナダ中の応募できるすべてのプログラムに応募している人が多いと思います。

また、クリニカルフェローを終えた後にスタッフ(アテンディング、コンサルタント)として就職先を探すのがかなり難しいです(科にもよりますが)。これにはいろいろな要因があるのですが、ほぼすべての科でアメリカの方がアテンディングとして残れる可能性が高いと思います。このため、もし長期的にアテンディングとして働きたいのであれば、USMLEを受験し最初からアメリカでクリニカルフェローを行う、あるいはカナダでフェローを終えたのちにアメリカでのアテンディングの仕事を探すことも考慮したほうがよいのではないかと思います(もちろん実際カナダに残る人もいるので、あくまで比較論の話です)。

ポジションの見つけ方ですが、カナダ全土の大学病院のホームページから自分が応募できそうなプログラムをピックアップし、要件に沿って片っ端から応募する感じです。大体CV(履歴書)と推薦状を送り、Shortlistされるとオンラインインタビューに招待されるというパターンが多いです。一般的にはスタートする1.5-2年前くらいに採用活動が行われることが多いですが、急なキャンセルなども発生するようでもっと直前にインタビューが来る場合もあると思います。とにかく数を打つことが大事と思います。

晴れて採用されると、州の仮免許、就労ビザの申請になります。これは州にもよりますが気が狂いそうなほどめんどくさいです。が、基本的には書類作業であり、最終的には何とかなります。

私は、海外で臨床を行う場合、基本的には以下の3つの条件(①ビザ②免許③就職先)に分けて考えるのが良いと考えています。クリニカルフェローは上記のように比較的Straightforwardですが、他との比較の為にもまとめてみようかと思います。

①ビザ
基本的にはLMIA exemptedのWork permitになると思います(ポスドク研究者などとおなじカテゴリーです)。これは短期間の特殊なトレーニングなどのため、面倒なLabor market assessmentという手続きを免除されるというカテゴリーです。フェローの免許がGrantされれば後は流れ作業で申請できます。必要でしたら移民コンサルタントに相談すると良いでしょう。カナダクリニカルフェローのもう一つ良い点は、このWork permitがある限り永住権保持者やカナダ人と同等に近い社会保障を教授できる点です。また、アメリカのJ-1ビザのようなGreen card申請のために数年間帰国しなければならないなどの制約も現在のところはありません。

②免許
これはプログラムが存在する州の厚生労働省的なところ(オンタリオ州ならCPSO、ブリティッシュコロンビア州ならCPSBC)に申請することとなり、州によって微妙に違いますが、基本的には日本の専門医資格(+英語試験の結果)があればいけます。基本的にはレジデントと同じカテゴリーのライセンスとなり、スタッフの指導の下医療行為ができるというライセンスになります。大学病院のPost graduate medical officeがフェローのポジションをオファーしますというような書類を発行し、手続きが開始されます。基本的には州の厚生労働省的なところから必要書類の指示があり、それを提出していく感じです。

③就職先
フェローシップの特性上、働く病院は大学病院或いは大学の関連病院となります。カナダはMedical Schoolの数がアメリカや日本と比べて多くはなく、またフェローシッププログラムを募集できる規模の大学病院はかなり限られます。現実的には、
University of British Columbia
University of Calgary
University of Alberta
University of Manitoba
University of Toronto (SickKids含む)
McMaster University 
Western University
University of Ottawa
McGill University
University of Montreal (ただしフランス語)
Dalhousie University
といったところです。これらのホームページから自分の専門がクリニカルフェローを募集しているのか検索するとよいでしょう。

以上、カナダクリニカルフェローに関するまとめでした。カナダは治安もよく、寒いですがファミリーには比較的住みやすいように思います。またクリニカルフェローは基本的に日本の専門医があればよくUSMLEなどは必要ありませんので、割と応募する敷居自体は低めです。興味があればぜひ調べてみてください。

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