『きみの色』を観て

 『きみの色』を観終わったあなた。あなたは必ず劇場を出た後、このフレーズを一度は口ずさんでいるだろう。
「水金地火木土天アーメン 昨日のご飯はあったかそうめん」
 そう、主人公・トツ子が作詞した楽曲『水金地火木土天アーメン』である。この曲、完全なスルメ曲である。聴けば聴くほど、中毒性のある楽曲なのである。この曲はトツ子が二人目の主人公とも言っても過言ではない作永きみと出会い、とあるシーンにて唐突にひらめきの末に完成したものである。
 歌詞が非常にキャッチーなフレーズを使っており、頭に残りやすい。きみの声優である髙石あかりさんの透明感あるボイス。バンド曲ながらも4つ打ち曲でリズムにも乗りやすい。そしてこの曲を聴いた時、自分は軽く衝撃を受けた。歌詞に限らず音楽を作る際、ありふれた日常で感じたことから音楽を作ってもいいのだと。自分も音楽を作ってみたくなった。
 他にも楽曲面でいうと、バンドでありながらテルミンという非常に珍しい楽器が採用されており、また作品背景としてミッションスクールが登場し、バンドの練習場所が教会にちなんでオルガンが出てくるが、全く曲調は古臭くなくむしろ三人目、最後の主人公でもあるルイがDTMで楽曲制作をするなど、むしろ最新の楽曲制作をしていてなかなかどうして面白い。
 さて音楽面についてはこのあたりにして、この作品のテーマを考えた際、個人的にはこうではないかと思う。

「異なる境遇に置かれている3人が<音楽>を通し、自身の生活の中で様々な葛藤や悩みに向き合い、そして成長していく群像劇」

 ネタバレになってしまうので多くは語らないが、作中主人公3人は自身の境遇やトラブルで悩み、そして葛藤する。それは進学へのプレッシャーや学生特有のヤンチャから発生するトラブル、更にその中には若干ではあるが恋模様もあった。
 しかし、この作品はシナリオ展開として恋愛事情に振り切らず仄かに残る、「切なさ」を感じるラストで幕を閉じる。学生時代の青春の一幕を思い起こさせるが、大人になった私たちはもうこの感情をどうしたって味わうことができない。学生でもこの作品はもちろん楽しめるとは思うが、青春時代を駆け抜けた私たち大人が観ると何かを感じさせるような作品だと思う。個人的にはとてもきれいな作品であると思っている。ラストのバンド演奏シーンはとても明るく、そしていかにも楽しそうので皆さんも観てみてはいかがだろうか。そして、最後に上映が終わった時、あなたはきっとこう口ずさむだろう。
『水金地火木土天アーメン』と。(ただこれが言いたいだけ)

補足:山田尚子監督×吉田玲子脚本がとてもよかった。お二方が関わった作品は何作か観たが、どれも好きな作品だったのでwikiで調べて観ることをオススメする。 以上


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