自己紹介カードが苦手


好きな色は?動物は?趣味は?特技は?
特になし
それじゃダメだ。

だから隣の席を盗み見た
友達に何て書いたか聞いた
そういうことしか覚えてこなかった。

『クラスのみんなに一言!!』
1年間よろしく!!



この手の質問が苦手で でも好きだった。
自分について問われるのが好きだった。
でも、問われる度に答えれないのが嫌だった。

だから日々考えるこう質問されたら、こうなったら、あーなったら、、、

考えていくにつれて他人の反応や自分の反応についてよく考えるようになった。

考えずにはいられなくなった。
特になしと書かないために考える。

考えるな など何もない人間からしては不可能
その場でさぁ答えろと言われてもすぐに答えは出てこない。

特になしで許されるのであればそれでいい
しかし、そうでは無い
回答欄は埋めなければならないもので特になしは無回答と同じ
何かを書かなければ許して貰えない



考えていく中で考えは顔に出ることが分かった。目で見て分かるのはありがたい

楽しそうだな
喜んでくれてる
今の話面白かったかな
あぁ今退屈なんだな
怒ってるな、
あ、これ嘘の笑いだ

何かしたかな
気を遣わせたな
ごめんね
恥ずかしい

自分の顔は表情は大丈夫かな

最初は笑う度笑い終わるのが怖くなった。
どのタイミングで口角を下げようか
顔の力を抜こうか
そんなことを意識した瞬間顔が強ばって笑っていられなくなった。

楽しくても面白くてもその恐怖は急に襲ってきて、笑えなくなった。

怒ってると思われたかな
退屈にしてると思われたかな
ちゃんと笑えてたかな
こんな顔誰にも見られたくない。

全てが怖くなった。
マスクが手放せなくなった。
真顔の時も話している時もずっと自分の顔は変じゃないか上手くできているか
マスクをしていても気になった。
その恐怖で人の顔が見れなくなった。

自分からしてみればマスクは鎧のようなもの
防犯ブザーのようなもの
メイクのようなもの
酸素のようなもの

持てば強くなれる
安心できる
なくてはならない

それでも給食の時はこの鎧を外さなければならない。
仲の良い人とは班になりなくなかった。
話したくなかったから
顔を見られたくなかったから

下を向く、首が痛い
みんなが楽しそうに話している。

話しかけられるのが怖かった。
顔を上げる時は手で口元を隠す
笑う時は目に力を入れる

友達とお菓子を食べる時はマスクを引っ張り取らずに食べる。

夏は暑くて息苦しい
冬は吐いた息が水滴になりマスクが濡れる
それでも無くては学校に行けない

どうしてマスクつけてるの?
暑くない?
食べにくくない?

心臓が跳ねた
マスクをじっと見るその目が怖い
これも変なのか

風邪気味だから
給食係で必要だから
つけてると暖かいから

外せない
なかったらもっと変になる


『何か一つ超能力を手に入れるなら?』
透明人間

透明人間なら顔もない体もない表情もない

誰にも見られない気にされない
笑っても泣いても怒っても真顔でも
誰も見てない気にされない

この質問もされない


自己紹介カードが苦手だ

好きな色 特になし
好きな動物 特になし
趣味 特になし
特技 特になし


何もない
何もないから全部なくしてくれ

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