過保護な彼氏(レン×舞)




舞はそっと腕をかばいながらソファにもたれかかった。

——絶対にバレたくない。

私が怪我したのをわかったら、彼は心配性だから、何から何まで世話を焼こうとするに決まってる。

「自分のことは自分でできるし、大丈夫……とりあえず今週のデートは断って…」

そう自分に言い聞かせながら舞はレンに連絡をした。


ガチャガチャ パタン

「舞、いる?」

玄関のドアが開く音とともに、聞き慣れた声が響く。

「えっ……!?」

心臓が跳ねた。
どうして? 今週は遅くまで仕事だから会わないはずだったのに。

「ちょ、ちょっと待って!」

慌てて立ち上がろうとした瞬間、折れた腕に衝撃が走る。
顔をしかめる暇もなく、レンが部屋に入ってきた。

「……舞?」

彼はじっと私を見つめる。

「え、なんで……?仕事は?」

「ちょっとだけ時間できたから。
最近ずっと連絡そっけなかったし、
なんか嫌な予感がしたから」

そう言いながら、レンは一歩、また一歩と近づいてくる。
私は咄嗟に腕を後ろに隠した。


「別に、なんでもないよ?」

「……そうか?」

レンは疑わしそうに目を細めた。

「じゃあ、なんでずっと左腕動かしてない?」

「……っ」

「舞、隠してることあるなら、今のうちに言えよ」

その低い声に、誤魔化すことなんてできるはずもなかった。

次の瞬間、レンは私の手をそっと取り、優しく引き寄せた。

「腕どうしたの?痛い?」

「……ちょっと」

「ちょっと、なわけないでしょ?」

彼の声が僅かに震えた。

「……いつから?」

「昨日」

「 なんで言わなかった?」

「……忙しそうだったし、迷惑かけたくなくて……」

その言葉に、レンの表情が変わる。

「……舞」

低い声で名前を呼ばれる。

「お前さ……俺の彼女だろ?迷惑なんかじゃないから言い方も悪いことも全部いえ。わかった?」

「うん、」

「どれくらいでこれ取れるの?ご飯は?」

「2週間くらいとは言われた。ご飯はさっき食べた」

「そっか…」

レンは私の肩をそっと抱き寄せ、包帯の巻かれた腕に優しく手を添えた。

「……とりあえずお風呂入ろっか?」

「え?」

「俺もゆっくりしたいし。今日から俺が看病するから。全部任せて」

「いや、でも——」

「ダメ。絶対安静。俺の言うことは絶対ね」

拒否権なんてなかった。
その瞳が、そう言っていた。

「俺にもっと頼れよ、舞」

その言葉に、張り詰めていた心がほどけるのを感じた。

——最初から素直に言えばよかった。



「はい、ドライヤーするからここ座って」

ブォー
「熱くない?俺適当だから上手にできるかあんまわかんないけど」

「大丈夫。乾けば充分だよ、ありがとう」

カチッ
スイッチを切って手櫛で整える

「こんなもんか。舞の髪っていつもサラサラ〜触りごこちいいよね…
ていうかロングヘアって大変だよな。俺、自分のこの長さでさえめんどくさいもん」

「ありがとう、まぁ好きだから続けられてるかな」
 
「明日は俺朝早いけど、舞は寝ててね」

「うん、おやすみ」

何日も続くレンの献身的な看病は嬉しかった
だけどそれと同時に忙しい合間をぬって家に来てくれて、心苦しくもあった

彼のために何か私ができること…

……………………

この髪切ったらドライヤーの時間なくなって少しは楽になるかな?

舞にとってロングヘアは当たり前で
切ることなんて考えたこともなかった
でも迷惑かけたくない!レンためなら。

鏡の前でハサミをもつ

「片手だけでうまくできるかな…」

ジョキジョキジョキ

顔を傾けたり横にしてみたりして、ザグザグと切っていく
とにかく短く、楽になればいいと思い長い毛を見つけては切っていった

床には黒い塊が落ちてちょっとしたホラーだ
頭を振って余分な髪をおとしては軽くなるのを感じた

「片手だとこんなもんかな…まぁ引きこもるだけだし」

1時間近く過ぎたころ、玄関の鍵が開いた

「ヤバっ片付けなきゃ」
急いで床に落ちた髪を手でかき集めた…


「舞ー?ただいまー   ってその髪!!」

レンは驚き過ぎて言葉がでてこない


「えへ、邪魔だから切っちゃった。短いの
変かな…」

だんだん近づいてくる彼から逃げたくなる
照れ笑いをしても隠せない
怒られるかな、なんか自分で切っといて今頃泣きそうかも…

彼の胸に軽く引き寄せられ髪を触られる

「……自分で切ったの?なんで泣きそうなの?」

「うん、レンの負担減らしたくて。ドライヤー大変かなって。でも片手だと思ったより上手くできなくて…」

「そっか。短いの変じゃないよ、むしろ幼くなって可愛い」

髪を触ってポンポンとされ少し落ち着く

「ホントに?」

「ホントに。でもまぁ、手直しは必要かな(笑)
少し俺が切ってもいい?」

舞はコクリと頷いた

「しかしよく自分で切ったよね、最初から俺に言えばいいのに」

持ってきた椅子に座るように促される

「だって絶対止めるかなって」

「まぁ俺はドライヤーの時間も楽しかったしね?
でもショートヘア好きだから止めないよ」

「そうなの?何となくロング派かと思ってた」

櫛で髪を溶かしながらガタガタに切られた髪の長さをチェックしていく

「ここが1番短くて、それに合わせると全体的にかなり短くなるけどいい?」

「おまかせします…」

「じゃあ切っちゃうね」 

後ろを耳上と耳下にブロッキングする
片方の耳裏の毛にあわせてハサミを入れる
チョキチョキチョキ
真っ直ぐ慎重に耳下のラインで襟足を揃える
残っていた半分の髪を下ろし、下の髪と同じ長さに揃えていく
ジョキジョキジョキ パサっ
サイドもそのままぐるっと一周繋げて切っていくとリップラインのボブができた
 
「すごい短くなってるきがする…」

あとはボブラインからはみ出した襟足を処理するだけのところでレンは気付いた

「舞ってバリカンもってる?多分ないよね?」

「ないよ、シェーバーならあるけど」

「それどこ?」

場所を教えるとレンはカミソリとシェーバーを持って帰ってきた

「刈り上げようと思ったんだけど道具もないし、少しだけだし、ちょっと剃っちゃうね、下向いて?」

「え、剃るって何」

ヴィーん バリバリ

「動いちゃダメだよ、くすぐったいけど少し我慢して」

舞の頭を下に向けるとシェーバーのスイッチをいれ、襟足を綺麗にしていった

「こんな感じのミニボブにしたよ」

完成した姿を手鏡で見せる

「なんか襟足に髪がないのが落ち着かないしスースーする」 

「慣れれば大丈夫だよ。
それにドライヤーの代わりに毎日お風呂で剃ってあげるからツルツルなままだから安心して」
 
その後、恥ずかしいからとの抵抗も虚しく
お風呂に連行されたいった


数ヶ月後

「舞、風邪ひいちゃうよ」
そう言って首にマフラーをまきつける

そこには怪我は治ったけど襟足は綺麗なままの舞がいた

おわり






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