見出し画像

黒髪の乱れも知らず_和泉式部と藤原定家の和歌 2

星きらめく天空での逢瀬

皆さん、こんにちは今日の6時限目は古文の時間です。
先週に引き続き、千年前の恋の歌がいまも
私たちの心を震わせることについてお話しします。
2つ目の歌は藤原定家が1の和泉式部の歌を本歌取りした作品です。
定家は式部より200年後の歌人です。
後鳥羽院の宣旨により藤原俊成・定家が中心となって新古今和歌集を編纂した1205年はすでに東国では鎌倉幕府が設立されていました。
定家のこの歌が詠まれたのは平安朝の末期の時代になります。
亡くなった帥宮敦道親王に代わって、藤原定家が詠んだ
和泉式部の「黒髪の乱れの歌」への返しの男歌です。

② かきやりしその黒髪のすぢごとにうち臥すほどは面影ぞ立つ

和泉式部の本歌1も、並べて、もう一度見てみましょう。

① 黒髪の乱れも知らずうち臥せばまづかきやりし人ぞ恋しき

「かきやりし」は男が自分の動作として、女の髪をかき分けます。
*かきやるとは、撫でる、指で撫ぞる、掻きあげて顔をのぞき、かき分けて肌に触れる。どれもこれも恋人たちのなまめかしい仕草である。
(長谷川櫂(はせがわ・かい)さんの訳です)

「その黒髪の」はあなたの黒髪の、あなたを強調して顔をクローズアップ。
「すぢごとに」は、貴方の黒髪の感覚がこの手に一筋一筋
くっきりと残っています。
男には、黒髪は視覚だけでなく手の触覚として残っているのです。
「打ち臥すほどは」ここで場面が変わります。男が女の黒髪を一すぢ一すぢかきやっていた愛の時間は過去のこと。今、男は一人寝です。
一人で横たわる夜ごとに、あなたの記憶(視覚・触覚)が
まざまざと目に浮かんできます。
「面影ぞ立つ」 は、女歌の「人ぞ恋しき」に呼
応しています。恋しいという思いが面影となって
男の側に出現した状態です。
面影は夢と現の間の幻の様な存在でしょうか。
帥宮はその恋しい気持ちを受け止めます。
 
夭折された敦道親王は何処かの星で独寝をされています。
敦道親王より30年後、この世を去った和泉式部もまた別の星にいます。
200年後、定家は地球に立って夜空を見上げて、
別々の星にいる二人の恋人を結びつけて
天空での逢瀬の時間を再現させてあげているのです。
この男歌により、敦道親王は和泉式部の恋しい気持ち
をしっかりと受け止め、
二人は永遠の愛の思いで強く結びつけられました。
本日の授業はこれでおしまいです。宿題はありません。
そうそう一点追加させていただきます。定家は自分で詠んだこの歌を新古今和歌集の恋歌五に採用しました。勅撰和歌詩集の部立に関しては後日勉強の予定です。恋歌の五の歌に分類したことだけ覚えていてください。
ではまた、ごきげんよう。


いいなと思ったら応援しよう!