三次元の推しが好きだけど嫌いな話。
わたしはオタクだ。しかも多趣味なオタクだ。
アニメ、漫画、ゲーム、映画、ドラマ、特撮、観劇とあらゆるジャンルに手を伸ばし、ファッションやメイクにもお金を注ぎ込む浪費家である。ランダムグッズの缶バッチやアクキーを買い漁り、ツイッターで交換相手を探したりコラボフェで推しのコースターがくるまでドリンクファイトの地獄を味わい、同じ映画や舞台に何度も通うとてもアクティブなオタクだ。
しかもこういったイベントは必ずと言っていいほど都内開催である。わたしは地方住みなので余計に交通費が発生する。時間と体力の都合上、高速バスより新幹線を利用する。
交通費で万単位のオタクだ。あまり深くは考えないから痛手とは思っていない。言うなれば推しの新規絵などが出ようものならそれだけのために遠征する。そういうオタクは私だけじゃ無い。推しのためにここまでお金をかけるわたしすごい!ファンの鏡!などマウントをとるつもりは一切無い。
わたしはそれが楽しくて仕方ないオタクなのだ。推しのぬいぐるみやアクスタをアニメイトカフェで推しのメニューとドリンクと緒に並べて写真を撮り、帰りの新幹線の中でツイッターに投稿する。これが本当に楽しい。推しのコースターなんて引けた日にはもう幸せ過ぎて生きる喜びを噛みしめる。
そんなオタクにコロナが襲ってきた。
新型コロナウイルス。現時点で(2020年9月)でワクチンはなく明確な治療法が無い恐ろしい感染病。緊急事態宣言が発令されお店は休業に追い込まれ、倒産、失業、減給、休校と悪いことばかりが起きている。
幸いにも仕事はある。むしろ増えたぐらいだ。だがコロナの影響はあり、ボーナスはない。それでも普通に働けるのは有り難いことだ。ボーナス無いのはほんと辛いけど。
ただ一番辛いのは都内に行けない、イベントが無いということだ。
3月に参加予定だったライブは中止。延期の予定はない。配信があったので救われたけど生で見たかった!!!!!!発売されたであろう缶バッチを上限まで買い現地で交換を探したかった。毎年4月に公開される国民的アニメの劇場版はなんと来年まで延期。まじかよ。
そのほかにも発売延期、未定とあらゆる推しの供給がストップした。
なんということだろう・・・。日々増えていく感染者のニュースにコロナなんて知らない日常があったことが懐かしくすら感じてしまう。
だがオタクはオタクだ。わたしというオタクは脳天気だ。
交通費が浮いたから円盤買っちゃおう!好きなブランドを応援したいから新作の服を買おう!食べて応援しよう!とお金を使うことはとても良いことだとさらにお金を使った。やばかった。ほんと何回もクレカの番号を決済のページで打ち込んだ。クレカ情報を登録しないのが最後の理性である。あと馬鹿なのでクレカの番号は何度打ち込んでも覚えられない。馬鹿でよかった。
あまり遠征していた時と出費が変わらないなぁと日々を過ごしていた時、あるものにハマるようになった。
3次元である。正確に言うと再燃だ。
わたしというオタクはもちろん2.5次元を履修済みだ。初めて見たのはVHSで見たアニメ「テニスの王子様」に収録されていた宣伝用のプロモーション映像だ。今思い返すとめちゃくちゃ拙い。正直ミュージカルってなんだよ!と母と笑って見たのをよく覚えている。しかし、数年後には現場に赴き観劇デビューを果たす。当時見ていた若手俳優の多くは今では立派な俳優さんたちだ。彼らの活躍は本当に誇らしい!
会社の昼休みにパートさんが見ているTVで彼らが出ようものなら「私は彼のデビューから知っていますから!」とマウントをとっている。ドヤ顔で早口で語る。オタクだから。
しかし沼というほどまではハマらないですんだ。多くのジャンルを渡り歩くため、好きだけど今は別の作品とキャラにお金を使いたい!と離れたのだ。嫌いにはなっていません。ほんとに。私のカラオケの十八番は「あいつこそはテニスの王子様」です。台詞もばっちり。下克上のポーズはテニスを通ったオタクみんな出来ます。
3次元の推しは今までもいた。ゲーム原作の推しを演じた若手俳優が本当にかっこよくてキャラを最高のクオリティで演じてくれたことに感動し彼の個人ライブに行った。そこでランダムブロマイドを直筆サインが出るまで買った。その彼からも今は離れているが、その時買ったブロマイドを手放す気は微塵も無い。彼も今や人気作品に続々と出演が決まり目覚ましい活躍をしている。とても嬉しい!!
そんな私が久しぶりに出来た三次元の推し。三次元に推しが出来たという意味で再燃である。
2.5次元なんて言われる前から漫画アニメ原作のミュージカルに出演しとても人気がある人だ。卒業してからはドラマ、映画主演、出演を多く務め、音楽活動も行っている。さらに今では舞台中心に活動しながらもバラエティ番組にたびたび出演し多くの人に愛される人だ。
作品に対する情熱と役作りはすさまじく並々ならぬ執念を感じる。それも人気俳優となるまでの彼がこれまで味わってきた多くの挫折があるからだ。雑誌やネットで読めるインタビュー記事で当時の苦しみや辛さを切々と語っておりそれらを余すことなく読んでとても感動した。
前述した通りわたしはお金をかけて推しを買うという行為が大好きなオタクだ。彼が出た雑誌の切り抜きやブロマイド、生写真、CD、写真集と厳選しながらもかなり買い集めた。フリマアプリと駿河屋とアマゾンありがとう。配送業者さんありがとう。
推しは本当に素晴らしい。最高。好き。彼はさらなる高みへと昇るべく、様々な取り組みもしている。コロナ渦と呼ばれる今でもエンターテイナーとして出来ることを日々発信しているのだ。
私はハマるとそれしか見えない。何度も言うが一直線にお金を使う。彼が出ている作品をチェックし、彼の演じる役をひたすら見る。そこだけを見るなんてこともした。ごめん。作品全体を見ると睡眠時間が無くなり仕事に響く。
たった1分しかないシーンも最高に好きだ。その目を細めた表情が好き、横顔がかっこいい、笑顔は可愛いと見ているだけで幸せだった。
コロナで激務となった中、昼休みを車の中で過ごす際には再生したDVDをスマホのカメラで動画撮影しそれを見て癒やされていた。
そんな中、あるインタビュー記事が「好き」という気持ちしかなかったオタクの手を止めた。
デビュー●年を記念した写真集のゲスト対談の記事だ。
「まだ読み切れていないファンレターが何千通とある」
それはそうだろう。人気俳優で休みなんてほぼ無いに等しいと思う。プレゼントも手紙も山のように届くはずだ。
ただ、それを言ってしまうのか?と思った。
自分が送った手紙は読まれずに段ボールの中に仕舞いっぱなし。開けてすらいないと言われてファンはどう思うだろう。デビューしたての頃にもらったファンレターなら別格だろうか。たくさん届くようになったそれにもう何も感じなくなったのか。
わたしはこの推しに手紙を書いたことはない。しかし手紙を書いて送ったことがある立場だったらすごく悲しい。そんなこと言わないで欲しかったと思う。
彼はインタビューでもTVでもよく言っている。嘘は言いたくないし、言えない。本当のことしか言わない、と。
彼は大家族で育ち、家族をとても深く愛し尊敬している。自分も早く結婚して子供が欲しいとよく言っている。ファンにはそれで一喜一憂して欲しくないとも言っている。
私はする。すごくする。ああ、わたしはいわゆる「リアコ」なんだなと気づいた。
推しと並ぶ女の役者が嫌いだ。推しは舞台によく出るので出演する女性は某歌劇団出身の方が多い。ベテランの方ならともかく今度主演する舞台の相手役はまだ若い女性でわたしと同世代だ。あ、無理。同世代であんなに美しく華がある女性が推しと並ぶなんて見たくない。しかも夫に尽くす妻役。推しそんなの絶対好きなになるでしょ・・・。惚れっぽいから・・・。もう彼を知り尽くしたつもりでいるから謎目線である。
対談インタビューで妻役の役者さんはめちゃくちゃ可愛らしくて守ってあげたくなるような繊細さを出しながらも舞台に対する意気込みは熱く芯から燃えているようだった。歌声はもちろん演技も抜群に美しいに違いない。
彼は人気俳優である前に1人の人間だ。人間としての幸せを望むのは至極当たり前のことだ。わたしというオタクは推しの結婚を祝えないオタクなんだと自己嫌悪した。
明日推しは熱愛報道が出るかもしれない、結婚するかもしれない。
病気になるかもしれない、もしかしたらコロナに感染するかもしれない。
推しが「生きている人間である」ということが嫌になった。
勝手にイメージしてそのイメージと違うからと幻滅したのだ。
そうなると彼の言葉に共感出来ないことが増えていった。考え方、ファンへのメッセージ、役に対する姿勢といろいろなモノが好きより「違和感」が勝っていくようになる。
彼は自分に厳しく、周囲には分け隔て無く優しい、よく出来た人間だ。どの共演者も彼ほど素晴らしい人間はそういないと口を揃えて言う。彼自身もそうありたいと常日頃言っている。
清廉潔白。
なんだが出来すぎた。それでいて発言には遠慮が無い。本当のことしか言わないからそれが高く評価されている。ある大御所芸人が彼との対談を経て好感度が爆発的に上がると言わせていた。そんなことあまり言わない大御所が、だ。
ただ彼が演じる役は好きだ。それは変わらない。
DVDをコマ送りして見るのがマイブームになっている。さらにそれをスクリーンショットで画像にして光沢紙を使用して印刷しオリジナルのアルバムを作っている。最高に楽しい。
よくよく考えると若い頃のインタビューから歴代彼女とのエピソードを赤裸々に告白し、
明らかに女性ファンが多い筈なのに恋愛や結婚に関する話はNGではない。
若手俳優なら恋愛が絡んだスキャンダルなど炎上しかない。
いや男女関わらず結婚・恋愛禁止は強制すべきはないとは思うけど、
(イメージ崩壊の防止策、事務所の方針としてあるならそれは守って欲しい。つーか恋愛するなら上手に隠してくれ!文●砲なんかされるな!)
夢を見ているからそれに徹して欲しい。役者、アーティスト、演出家、原作者といった肩書きしか見たくない。●●の旦那、嫁、子供なんて情報はどうでもいい。少なくともわたしのはどうでもいいことだ。
いつまでも理想と夢でいて欲しい。ファンの一方的な欲望を押しつけて最低だと思う。ただ本当に夢を見たい。演じている彼を、歌っている推しを見ていたい。
だが推しは「若手俳優」の枠をとっくに超えて「実力派俳優」なのだ。
事務所も彼の意思を尊重し、仕事は彼のペースに合わせてセーブしているという。
そういえば出演ドラマの本数明らかに違う。いくら若手が続々と出ているからとはいえ彼と同期は映画、ドラマに引っ張りだこだ。決して推しの人気が同期に劣るという訳では無いオタクの欲目をもってしても推しは高身長で顔は端正にも程があるのだ。スタイル神です。パリコレにも出たので。
オタクに、ファンに媚びるなんてことはしない。
あるがままを見て応援して欲しい。
推しはそう言っているんだと、解釈している。
今までの推しの大半は二次元で永遠に変わらず居続けるからこそ、
今を生きている推しがいることは嬉しくもあり、生きていれば変化するのは当たり前でそれが天国であり地獄だと勝手に絶望している。
そしてこんなめんどうなオタクになったのかと自分に一番嫌気がさしている。
今度推しを初めて生で見ることが出来るかも知れない。
それが叶った時、「好き」はどうなっているのか。
人生の半分以上をオタクとして生きているのでこれ以外の生き方を知らない
オタクじゃない人はもちろん、オタクから見ても面倒で馬鹿な人間だと思う。