
日々読書‐教育実践に深く測りあえるほどに
BOOKGUIDE:佐藤学『専門家として教師を育てる』 岩波書店、2015年。
教職は、私的な利益や好みを追求する職業ではない。教師が献身的に仕事をし、自らの専門的能力の向上に絶えず務めるのは、その仕事が子どもの幸福につながり、社会の発展に貢献していることを認識しているからである。
しかし、専門家は、使命だけでなく、高度な知性によって担われる職業である。知識が複合化し流動化する社会の中で、教師として職務遂行するためには、生涯にわたって学び続けなければならないが、日本の教師に対する教育水準や教師が学び育つ環境は、国際的に見ると最低レベルだと、佐藤さんは指摘する。
さらに、教師の仕事は、誰にでもつとめることができる容易な仕事として誤解されているという。誰もが生徒として教師の仕事を一万時間以上も観察している。「あの程度の仕事なら誰でもつとまる」「人間性さえ良ければよい教師になれる」「数学さえ理解していれば数学教師になれる」このような外観の印象から誰もが教師の仕事について「わかったつもり」になっている。教職は、イージワークではない。佐藤さんは、教師の仕事は、言わば、誰もが不十分にしかなしえない、高度な知性的実践であるという。
ところで、通常の校内研修で、授業を観察して、どこが良かったか、どこが悪かったかという見方で評価する教員は、限りなく素人に近いという。「質問」と「助言」に終始し、自らは何も学んでいないからである。
授業という実践は、「見えない実践」である。授業研究は、教室の出来事の見えない意味を明らかにし、見えない関係を浮き彫りにし、見えない物語をあらわにするものである。授業における有効な教え方は、一つではない。専門家としての教師は、メンターに学びと成長を支えられ、自らの実践をひらき仲間と互いに学び合って成長する、そうした関係の豊かさを構築している。教師は学びの専門家であり、教職は一人では成長しない職業なのである。