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日々読書‐教育実践に深く測りあえるために
教師の当事者性とは、教師が実践体験を積み重ねながら、そのリフレクションを通して形成していく経験知であり、教師自身が置かれた状況の中で意味を見出せる実践を創り上げていこうとする教師の自律性の内実でもある。
教師の実践体験に即したイメージから実践のストーリーが紡ぎ出され、そこから実践のルールが導き出される。語り手=教師に体験の語りを促しつつ、聞き手=研究者が共同的にその意味を探究していくことを中心的な方法とするアプローチを、ナラティブ・アプローチと呼んでいる。ナラティブ・アプローチは、実践知をどのように育成していくかという教育方法も意味している。ナラティブ・アプローチでは、実践にとっての規範的な意味を明確にしつつ、体験を出来事としてまとめていくような試みが求められる。こうした実践経験の物語テクストを手がかりに、テクストから読み取れるほかの教師の経験に触発されて、自分の経験を想起しつつ自他の実践知の比較検討や自身の実践知のとらえ直しが生じることが期待されている。ナラティブ・アプローチにおける実践知の育成は、体験のリフレクションという直接的な方法とともに、ほかの教師の経験と自身の経験の重ね合わせという間接的な方法が期待されているのである。
藤原顕「教師の実践知の研究動向と課題-ナラティブ・アプローチを中心に」日本教育方法学会編『教育方法44 教育のグローバル化と道徳の「特別教科」化』図書文化、2015年、123‐133頁。