VALIS二次小説 理想が欲しくて 深脊界市編Main Story -023(Case of FEI)
(オイコラふざけんな)
2ヶ月後、フェイは深脊界市復興公社が行う、『現実世界』へ放送する深脊界市のPRライブの警備に参加する.............はずだった。
だが実際には、深脊界市の何処かにある“S”の拠点と思われる建物の地下施設で立ち往生していた。
元はと言えば復興公社に原因がある。 フェイはVALISの洗足護衛だ。当然今回の警備には参加する必要があるし、そうでなくてはVALISに何かあった時に護ることが出来ない。加えて、今回は存流も護衛対象だ。いつもより一層集中しなければいけない。
にも関わらず、復興公社からは「あっ、今回はこっちでやるので来なくて良いですよ」という理解不能な発言をされたのだ。
勿論反論した。「そっちはそっちで勝手に警備してて良い。俺は“元々の”護衛だからそんな理屈に従う理由は無い」と。 そんな押し問答を繰り返すと、「そんなことを言われても下っ端の自分達は困る。文句なら上に言ってくれ」その言葉と共に、彼らの上層部が居る場所を教えられて追い払われた。―――が、その場所は嘘だった。
フェイが教えられた場所は明らかな廃墟。というか、先日フェイが爆破しまくった所の1つだった。 それに気付くとすぐさまとんぼ返りをしたのだが、突然発生した乱気流によってかなりの距離を飛ばされてしまった。.............何回も。 地図アプリで確認するも、流石は広大な深脊界市。自分が何処にいるのかさっぱり判らない。
仕方なく宛ても無く彷徨っていると、偶然にも“S”の拠点と思われる施設を発見する。 年甲斐もなく迷子になったことの苛立ちによる腹いせと、ここを襲撃すれば何か情報を掴めるかもしれないという判断に加えて、人の負担を考えずいの一番に依頼を承諾したくせに、今朝から姿を見せないソートへの怒りによって“S”の警備ロボを蹴散らし、現在に至る。
腕時計を見る。VALISのPRライブまで間もない。ただでさえ押し問答で時間を食ったうえに、デマやら乱気流やらで迷子になり、偶然見つけた“S”の拠点には何も無い。そして極めつけには、VALISのPRライブには間に合わない。本当に最悪だ。
「で、お前はいつまで監視してるつもりだ」 「《あちゃー、やっぱりバレてた?》」
天井付近に取り付けられたスピーカーから、プルノの声が流れる。この建物に入った時から気付いていたが、警備ロボだけを出して何もしないという不気味さにムカついたのだ。
「《それにしても、きみってやっぱり面白いよねぇ!》」 「あ?」 「《だってさぁ、1人でいろんなことが出来るんだよぉ!見てて楽しいじゃん!よっ!流石はVALISの護衛さん!》」 「何かと思えば、やっぱりただのバカ発言かよ。―――――今日も人の邪魔しかしねぇのな」 「《................へぇ、気付いてたんだ》」 「そりゃあ、こんだけあからさまならな。...............そろそろ辞めにしねぇか、深脊界市復興公社?」
そう、フェイがずっと追っていた組織“S”の正体は、深脊界市復興公社だったのだ。
「考えてみりゃあ単純なことだったんだ。“S”ってのは、復興公社の頭文字だ。深脊界のな。 流石に都合良すぎるんだよ。仕事の邪魔をされ、嘘をつかれ、何度も乱気流に流された挙げ句、偶然にも敵対組織の拠点を見つけるとか出来すぎだろうが。これで気付かない馬鹿はいねぇだろ」 「《きみすっごいよぉ!満点すぎてびっくりしちゃった!》」
スピーカーから、大好きな玩具に喜ぶような声が流れる。
「《正確には、深脊界市直属の武装組織なんだけどね。主な仕事は復興公社本部の警備に職員の護衛。『現実世界』からの“スカウト”なんかもやってるね》」 「スカウトねぇ。誘拐の間違いだろ」 「《ひっどいなぁ。ちゃんと納得してもらってるよ?》」 「嘘つけ」 「《嘘じゃないよぉ!まーいいや。今日はきみを相手に実験がしたかったんだ》」 「お前と遊んでる暇はねぇよ」 「《VALISのこと気にしてるのぉ?あっちはわたし達に任せておけば良いんだよ》」 「ざけんなテロリスト」 「《違うもーん。じゃ、スイッチおーん!》」
すると、周囲の壁や天井が一斉に広がっていき、遠くの床から何かがせり上がって来た。
「タランチュラ...........」
巨大な空間に様変わりした床から上がって来たのは、巨大な蜘蛛を模した機械兵器。その全長は3メートルを超える。
「《TypeTプロトタイプ。言っておくけどー、ただ糸を吐くだけだと思ってると―――死んじゃうよぉ?》」
8つの単眼から発光する不気味な緑が、フェイをじっとりと見つめていた。