フードバンクへの寄付が減ってるなら、自分たちで野菜を作るしかない!〜1年で1トン以上の野菜を自分たちで生産した学生たちの挑戦〜(笠原沙織)
はじめに
2024年、フードバンク仙台から食料がなくなりつつある。食料を保管している棚は、しばしば空っぽになった。企業からも、個人からも、食料の寄付が大幅に減ったからだ。お米の在庫は、2024年7月24日現在、900kgしかなく、8月の末にはお米の配布を止めざるを得ない可能性まで出てきた。2020年の5月にフードバンク仙台は発足したが、発足してから1度も経験したこともないほどの、未曾有の食料危機である。
本稿では、日々、フードバンク仙台の食料支援の現場で活動している筆者が、フードバンクの食料危機の実態とともに、どのようにこの危機を乗り越えようとしているのかについて記そうと思う。確かに、支援が継続できない危機感を目の前にしてはいるのだが、2023年4月から始めた農地での食料生産をきっかけとして、フードバンク活動の新しい方向性が見えてきているのである。確かに困窮世帯に配布できる食料、例えば米、レトルト食品やカップラーメンは減っており、寄付を増やすことは紛れもなく急務だ。しかし同時にフードバンク仙台は、危機にもかかわらず、私たちは熱意と自信に溢れている。なぜなら、これまで玉ねぎやじゃがいもといった作物を育ててきて、かなりの量を自給することができるようになっているからだ。昨年は約1トンのじゃがいもを、今年は1.5トンの玉ねぎを収穫し、フードバンク利用者に配布した。冬には、人参や大根の収穫もまっている。今後も続く食料危機に対処していくために、こうした自律的な取り組みを仙台だけにとどめずに、各地に広げていきたい。自律的な農地運営の取り組みをつうじて集まった人々が、貧困者の生存を守り、権利行使を下支えするだけでなく、その先の社会のあり方を創っていくはずだ。
フードバンク仙台の食料危機の状況
わたしたちの食料支援は、あわただしい朝から始まる。事務所の棚から食料を選び、活動日ごとに約30世帯分の食料をパッケージする。ひとり1箱(1週間分の食料)にしているので、作る食料パッケージは40〜60個にものぼる。
そんなあわただしい朝でもここ最近は、パッケージをするボランティアの手がよくとまる。箱にいれる食料がなくなってきているからだ。少し前まで、棚のケースにはたくさんの種類の食料品があったが、いまでは底が見えてしまっている。コメはひとりあたり3kgから2kgに変更せざるを得なくなった。おかずになるような食料品も減ってきており、栄養の偏りが心配となっている。
そのうえ、夏休みに入り子育て世帯からの食料支援依頼も増えている。子どもを3人育てている30代のシングルマザーからは、「去年も夏休み期間中の娘たちの食費がなく、一日二食と軽食でしのぎました。普段は副業も含め何とかやりくりできていますが、1ヵ月だけお助けいただけないでしょうか。」という相談があった。子育て世帯に限らず、「1週間ほとんど何も食べていません」といった相談が日常的にきており、フードバンクの食料支援がなければ、いったいどれだけの人が餓死してしまうのだろう、と考えざるをえない。
困窮者に食料支援を行うフードバンクの6割が食料寄付減少の衝撃
食料寄付減少にあえいでいるのは、わたしたちフードバンク仙台だけではない。全国のフードバンクへの食料寄付が減少していることは、今年の春以降に各種メディアで報道があった。その理由は大きく分けて2つある。一つは物価高騰による個人・企業寄付の減少。もう一つは、昨年の異常気象による米などの不作で、例年は寄付に回る古米等が市場に流通するようになり、寄付量が減少していることだ。しかし、具体的にどのくらい寄付が減っているのか、そして寄付の減少がどれだけ支援に影響を与えているのか、といった点は未だ不明瞭な状態であった。もしかしたらフードバンク仙台だけでなく、全国のフードバンクの食料支援の現場では支援ができなくなっているのではないかと強い懸念を抱いた。
そこで、2024年7月、フードバンク仙台は、農林水産省のHP掲載の全国のフードバンク団体に対して、寄付の減少と支援への影響に関する実態調査を行った。困窮状態にある貧困者が増えるなか、食料支援を行うフードバンク団体の食料備蓄が尽きそうになっている現状を可視化することが狙いだ。全国66のフードバンクが調査に協力してくれた。
調査から見えてきたのは、衝撃的な結果だった。66団体中、約6割の42団体のフードバンクが、食品寄付が減少していると答えたのだ。
【図1:食品寄付の増減に関する調査結果】
(補足:「減少した」が27団体(40.9%)、「大いに減少した」が15団体(22.7%)で、合計では42団体(63.6%)。)
さらに、食品寄付が減少したと答えた42団体に、食料提供活動への支障を質問したところ、16団体が「支障がある」、18団体が「大いに支障がある」と答えた。36の団体が「渡す食料の量が減少した」、13の団体が「食品を渡す人数や支援団体・機関数を以前よりも減らさざるを得なかった」と答えた。食品寄付の減少が、いかに生活支援に深刻な影響を与えているかが分かる。
【図2:食料の寄付の減少により、食料提供活動に支障が出ているか、調査結果】
フードバンクの食料危機を乗り越えるために
生存を守る食料支援を継続するためには、フードバンクへの寄付を増やすことが非常に重要になる。
一方、わたしたちフードバンク仙台は、寄付を募ること頼るだけでなく新しい取り組みも行っている。農地プロジェクトだ。フードバンク仙台では、2023年から仙台市若林区に5aの農地を借り、自分たちで野菜作りを始めた。2023年当時から、食品の寄付は減少傾向にあり、寄付を募るのと同時に、なにか抜本的な策を考える必要が生じたからだ。そこで案に上がったのが、寄付減少を、自分たちで食料を生産することで補うのはどうか、という案であった。
実現に向け、まずは協力してくれる農家から畑を借りた。そして、ボランティア皆に呼びかけて農地ミーティングを開催し、栽培する野菜を議論し、まずはじゃがいもから育てることが決定した。参加者のほとんどが農業初心者であったが、家庭菜園をやっているボランティアが積極的に自分の経験と知識を共有することで、無事収穫までたどり着くことができた。2023年度はじゃがいもを1.5トン生産することができ、600人以上に直接配布することができ、その他にも移民支援や女性支援を行っている連携団体にも配布することができた。
フードバンクの事務所の食料ストックが極度に少ないときは、食料パッケージの1/5ほどを畑で生産した野菜が占めていることすらあった。自分たちで作った野菜がなかったら食料支援の数を減少させなければならなかった可能性すらある。
さらに、私たちが農地運営を始めたのは、食糧価格の高騰や寄付の状況に左右されない食料生産の拠点を地域につくるためだけではない。「量」の安定的な確保だけではなく、配布をする食料の「質」を考えてのことだ。「肥満」と「飢餓」が表裏一体であるという話を聞いたことがあるだろうか。困窮している人ほど、出来合いの安い惣菜や、カップラーメンなど、経済的な理由でカロリーが摂取できるものを食べるしかない。値段の高い肉や魚、野菜を買うことはできず、栄養がまったく足りていない食事になってしまう。お金がない人ほど、十分な栄養の担保された食事はできず、食事が「カロリーチャージ」にならざるを得ないのだ。ゆえに、食事の量の担保だけではなく、栄養ある食料を配布することが、生存権を守るうえで必要不可欠だと考えた。生存権とは、ただ生きていられることではなく、健康的な生活を送ることも、もちろん含まれるべきものだろう。
私たちが生産している野菜は、農薬も使っていないため安全であり、収穫後はなるべく早く配布をしているので保存時に添加物も使用しない。生産を開始した当初は1種類のみの生産であったが、今年からは多品種生産にチャレンジしている。2024年度は、既に玉ねぎ、じゃがいもの収穫を終え、冬には人参、大根が収穫できる予定である。
「フードロス依存」ではなく、自律的な生産による「食の正義」実現を
日本のフードバンク団体の多くは、「もったいないをありがとうに」を掲げて活動している。この意味は、フードロスが捨てられてしまうのは「もったいない」から、それを困窮者に渡して「感謝」に繋げよう、ということである。そもそもフードロスは発生しないほうが良いし、フードロスを集めて食料支援を行うフードバンク活動は、フードロスが少なくなると食料支援を行えなくなるという、構造的な矛盾を抱えている。
そもそも、お金がなく食事ができずに「飢餓」状態になっていること自体が人権侵害である。それに対して、「恩恵」として食料を渡す支援に留まれば、なぜこれだけ大量に食べられない人がが生じるのか、という問題を覆い隠すことになる。
世界の取り組みを調べてみると、自分たちで野菜を作り、食料支援を行うという取り組みは、実は世界中に存在した。とくに参考になったのは、カナダのトロントで活動を行っている「フード・コミュニティセンター」の「The Stop」であった。The stopは、フードバンクの限界を突破する取り組みであった。限界を突破するだけでなく、自ら生産を担い、農地や食料支援の現場で培われた人間関係をもとに、食料へのアクセスが補償された新しい社会を構築しようというものである。
わたしたちの農地でも具体的な食料の生産をしているだけでなく、そこでは支援/被支援を超えた関係が構築され始めている。食料支援を利用していた困窮当事者が農地の運営に参加しているのだ。「食べられない状況にあるのは自分だけではない。次は自分が貧困をなくす力になるんだ」という思いで鍬を持ち、汗を流して畑に立っている。「食べられない」状況にあった背景には、生活保護の窓口で追い返されたり、未払い賃金があったりなど、様々な社会的な要因がある。こういった理由で生存・生活がままならなかった当事者自身が、「貧困は自己責任ではない!」となる場となった。
これからのフードバンク活動は、安全で栄養価があり、文化的な食品をすべての人が適切な量を入手できる「食の権利」を実現する「食の正義運動」に刷新していく必要があるのではないだろうか。農地の実践も、人々の生存よりも、売れる食品を大量に生産し売れなければ捨てるといった経済的利益が追求される市場に委ねるのではなく、食料ニーズを地域の中で把握し、廉価・無償で食料を得ることができる社会を構築していく一つの契機になると言えよう。
この夏、フードバンク仙台の現場で飢餓をなくすために共に活動しませんか?
農地運営を始めたのも、現場で活動する中で、考えつくし、食料の生産も担うしかない、と考えたからです。「仙台から絶対に餓死者を出さない」という思いをともにした仲間たちと、日々農地の運営を行っています。
今後も食料価格は、気候変動の影響で傾向的に上昇していくため、寄付もさらに減っていくでしょう。飢餓をなくすためには、農地の運営に限らず、多くの人のアイディアや実行力を必要とします。
そこで、この夏フードバンク仙台では、食料危機に立ち向かうために活動する仲間を全国各地から募集します。具体的な活動内容としては、食糧梱包・配送、生活相談、社会調査、野菜生産、外国人支援、食堂開催、勉強会…など多岐にわたります。これ以外にも、集まった仲間とともに、有効な支援の在り方を構想し、実践していきます。
また、仙台で夏の期間ともに活動して得られた経験やノウハウを、参加者自身がそれぞれの地元・地域へと持ち帰って活かせるようにしたいと考えている。地元でフードバンク活動を始める、新しくNPO法人を立ち上げる、地域食堂を始めてみる、など様々な新しい取り組みを、全国各地で拡げてもらいたいです。
地方から社会を変える新しい挑戦を一緒に始めてみませんか? 私たちはこうした挑戦を応援し、協力したいと考えています。地方から社会を変えるために何ができるか実践したい・学びたいという方は、是非この夏、フードバンク仙台でのインターン・ボランティアにご応募ください。
申し込み・インターン詳細はこちら
https://foodbanksendai.com/news/2024-internship/
インターン体験談
https://foodbanksendai.com/news/2024-internship/
寄付のお願い
フードバンク仙台の活動は収益を目的としない無償のボランティア活動です。活動には、事務所家賃、食料配送 費、通信費などの活動費が必要です。支援活動継続の為に、どうか活動費の寄付を宜しくお願い申し上げます。
≪口座振込みでの寄付≫
金融機関:ゆうちょ銀行 口座名義:トクヒ)フードバンクセンダイ
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