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命を奪う「エネルギー貧困×熱中症」問題の広がり– 命を守るためにライフラインの無償化を –(田所真理子ジェイ)

筆者 田所真理子ジェイ 筑波大学大学院博士前期課程在籍。NPO法人POSSE、総合サポートユニオンボランティア。これまで、コロナ禍に雇い止めにあったフィリピン人家事労働者の問題や、妊娠を理由に強制帰国させられそうになったスリランカ人技能実習生の問題、エアコンもない劣悪な寮に住まわされたベトナム人技能実習生の問題など、外国人労働相談を中心に活動に取り組んでいる。現在は、外国人労働問題に限らずさまざまな労働相談・生活相談に取り組んでいる。

■ 増える熱中症死亡件数の背景にある「エネルギー貧困」問題 
 気候変動により記録的な猛暑が続く中、熱中症が原因で亡くなる人が年々増えている。総務省消防庁によると、今年の4月29日から8月25日の間に熱中症で救急搬送された人数は83,238人(速報値)、そのうち熱中症で命を落としている人は、東京23区内だけで少なくとも238人(速報値)にものぼる(東京都保護医療局HPより)。昨年の同時期(144人)(注1)よりも熱中症死亡者数は94人増加しており、被害は昨年を上回るスピードで広がっている(また、過去5年間の熱中症死亡者平均数は1300人を超えており、その被害規模は2000年初頭の4倍以上となっている)(注2)。
 今年、東京23区内で熱中症で亡くなった人の内訳を見てみると、屋内で亡くなった人は全体の238人中230人と9割以上を占めている。そのうちエアコンはあるが未使用だった人は152人、エアコンが設置されていなかった人は53人であり(いずれも速報値)(注3)、屋内で亡くなった人の89%が何らかの理由でエアコンを使用できなかった人たちであることが分かっている。加えて、熱中症で亡くなる割合は65歳以上の高齢者に多い(注4)。これらが重なって、東京都庁を中心に熱中症予防対策として、高齢者に対してエアコンの使用を求める啓発活動が目立つ。
 ただ、高齢者の多くは、エアコンを使いたくても使えない状況にあるのが現状だ。今年の7月27日に大宮で開催された「いのちと暮らしを守るなんでも相談会埼玉実行委員会」主催の「いのちと暮らしを守るなんでも相談会(注5)」埼玉会場の相談窓口には、熱中症対策をしようにも生活困窮状態にあるために「エアコン or 食料」という選択を迫られている高齢者からの相談が多数寄せられた。その相談の中身というのは、エアコンを買うお金がないためにエアコンを住まいに設置できない、またはエアコンはあるものの故障していたり・電気代を節約するために使用できていないという内容であった。また、私たちが受けた相談の中には、エアコンを使うための電気代を捻出するために極限まで食費を削った結果、体が弱り食料支援を希望する方からの相談もあった。
 このように、今日本社会には、熱中症対策をしようにもお金がないためにエアコンが使えず熱中症を発症する危険にさらされている人が高齢者を中心に広がっている。一方で、熱中症の背景にある「エネルギー貧困問題」は、ほとんど問題にされていないように思う。そこで私たちは、こうした状況を告発するため、9月4日に厚生労働省で記者会見を開いた。今月、そして来年以降も続く気候変動による酷暑から人の命を守るためには、広がる「エネルギー貧困」の問題と向き合い、社会全体で至急問題解決のために動き出す必要がある。このことを社会に対し要求するための記者会見でもあった。
 本記事では、記者会見で報告した内容に沿って、「エアコン or 食料」という究極の選択のもとで熱中症の危険にさらされている生活困窮者の実態を紹介するとともに、必要となる社会的な対策について検討していく。

■ 相談会に寄せられた「物価があがり生活が苦しい」という声
 
猛暑の中、大宮で行われた「いのちと暮らしをまもる なんでも相談会(埼玉会場)」には、対面(52人)・電話(63人)を含めて合計115件の相談が寄せられた。「なんでも」相談会ということもあり、窓口に寄せられる相談内容は様々であるが、その中でも特に多かったのが生活に関する相談だ。たとえば、来場者52人が回答したアンケートをみてみると、「今困っていること(複数回答可)」という質問に対して最も多かった回答は「物価が上がり生活が苦しい(28件)」であった。このことから、来場者のうち約半数以上が物価高で生活が苦しい状況に置かれているということがわかる。

【表1:0727なんでも相談会(埼玉会場)来場者アンケート回答一部まとめ】
■「生活が苦しい」「ライフラインの支払いが困難」
→「物価が上がり生活が苦しい」と回答したのは28件(54%)
→「家賃や公共料金の支払いが難しい」と回答したのは10件(19%)
※対面相談52件のうち(複数回答可)

2024年07月27日「いのちと暮らしをまもる なんでも相談会(埼玉会場)」相談票データより

・「エネルギー貧困」状態にある人からの相談
 そうした中でも、今年の7月の相談会で特徴的だったのが、猛暑の中でエアコンが使えないというような「エネルギー貧困」に関連する相談が多数寄せられたことである。「エネルギー貧困」とは一般的に、「生活する上での基礎的なエネルギー需要を満たすことができない状態」(国立環境研究所HPより)のことを言う。猛暑が続く中、生活に欠かせないエアコンを十分につかえない状態にある人はまさに「エネルギー貧困」に該当するだろう。全相談115件のうち、この「エネルギー貧困」状態にあてはまると思われるケースは合計8件にのぼる。この数は、決して少なくない。
 その8件の相談の内訳は、主に次の3種類に分類することができる(表2参照)。以下、それぞれの相談事例を見ていこう。

【表2:「エネルギー貧困」に関する相談の類型】
■エネルギー貧困状態に置かれたケース:8件(7%)
① そもそも自宅にエアコンが設置されていない:3件
② エアコンは設置されているが故障中で使用できない:2件
③ 食費などを削って電気代を捻出し、エアコンを使用している:3件
※全相談115件のうち

2024年07月27日「いのちと暮らしをまもる なんでも相談会(埼玉会場)」相談票データより

【1】そもそも自宅にエアコンが設置されていない

①北海道札幌市に住む50代女性Aさん
生活保護を利用している。札幌在住だが、気温が高く、エアコンを買いたいが、補助金はないか。ケースワーカーに相談しても貯金しろとしか言わない。血圧が高く、頭痛がする。物価も上昇していて生活に余裕はない。我慢するほかないのか。

②北海道在住の70代女性Bさん
現在生活保護は受給しておらず、作業所で働いて暮らしている。来年3月にエアコンを家に設置する予定ではあるが、お金のことを考えるとつかれてしまい、エアコンを買おうかどうかも迷っている。スーパーに涼みに行っている。

③北海道在住の50代男性Cさん
生活保護利用中。今の保護費では生活できない。家具什器費でガスコンロ、食器、炊飯器などは購入できたが、冷蔵庫、洗濯機、エアコンもない。自炊できる環境ではないため、外食に頼らざるを得ない。そのため、1日2食くらいしか食べられていない。ガスはどうせ払えないからと自ら契約を解除した。物価高騰で生活が限界である。

【2】エアコンは設置されているが故障中で使用できない

①埼玉県川越市に住む50代女性Dさん
生活保護利用中。今の住まいは古い。エアコンもついてはいるが古い。そのため夏は暑く冬は寒いが、ケースワーカーも社協も、家探し等の支援をしてくれない。

②埼玉県さいたま市に住む70代男性Eさん
生活保護利用中。部屋のクーラーが故障したままで、室温36〜37度で辛い

【3】 食費などを削って電気代を捻出し、エアコンを使用している

① 埼玉県川口市在住80代女性Fさん
 10年ほど前に、脳と心臓、腰を悪くし働けなくなった。夫も糖尿病を患っており働けない。現在は、80代の夫婦2人で生活保護と年金で暮らしている。月の収入は生活保護費12万+年金5万だが、そこから家賃、水道、ガス、電気、食費等を差し引いたらほとんど手元には残らない。
 以前は3食とれていたが、2年ほど前から苦しくなった。物価高と水光熱費の値上がりが原因だ。スーパーに行くと大根は1本300円、ネギは1本250円。節約のため特に野菜を避けるようになった。普段は冷房を控えているがさすがにここ数年の猛暑が続くなかで我慢ができないため、夏の時期は節約しながら冷房を使用している。熱中症になるリスクは分かっているが、電気代が一ヶ月18,000円のためどうしても「節約しなきゃ」という意識になってしまう
 また、水道光熱費を滞納せず支払っている結果、食費を極限まで切り詰めることになった。そのため、現在は1日1食、安いせんべいを買って水に溶かして食べたり、コッペパンを三等分して食べている。夫はレタスも噛めないほど衰弱してしまった。Aさん自身も4キロほど体重が落ちた。こうして今まで切り詰めてなんとか生活してきたが、今年は猛暑に耐えられなくなってきており、節約する回数も減らし、電気の使用量も増えた。
 そんな時に、たまたまNHKの昼のニュースでみた「なんでも相談会」に電話をし食料支援を受けた。フードバンク経由でお米は調達できたため、以前よりは生活状況が改善したが、野菜などはとれていない。

② 埼玉県川口市在住80代女性Gさん
現在、3ヶ月分の水道費と2ヶ月分の光熱費を滞納している。水道局や電力・ガス会社に交渉して、支払い日を延期してもらってる。なんとか給水停止・配電停止をまぬがれている。しかし、延期した日程までに支払いができなかった場合、給水停止・電力供給停止となると担当者から言われている。持病があり体調を管理するためにも冷房は欠かせない。給水停止・電力供給停止を回避するため、現在は食費を最大限節約して公共料金の支払いを優先している。以前は魚を焼いたりなど自炊していたが、今はガス代節約のために缶詰の魚で生活している。お風呂も週に数回のみ。食事は1日3食たべれているが、一回分の量はとても少ない。少量のお米に水を多くいれて量を増やしたり、白湯やお茶で空腹を紛らわしているが限界だ。

③ 埼玉県さいたま市在住40代男性Hさん
生活保護の医療扶助のみ受給し、のこりは障害年金と月1-2万円の自営業収入で暮らしている。油・乳製品・パンなどの食料品全般の値上がりと、電気などの値上がりの中、食事は1日1回にして節約している。物価高で生活が苦しく追い詰められているため、食糧支援をしてほしい。

・熱中症問題の背後には「貧困」問題が存在する
 冒頭で触れたように、今年の夏(8月25日時点で)、東京23区内で屋内で熱中症によって亡くなった人のうち、約9割が「エアコンがそもそもついていない」もしくは「エアコン未使用」の人たちであった。では、なぜ彼ら・彼女らの家にはエアコンが設置されていなかったのか。あるいは、エアコンが家にあったのにもかかわらず、エアコンが未使用だったのだろうか。
 実際の相談現場から言えることは、上記で触れた【1】【2】【3】のケースで見てきたように、金銭的な理由によって、エアコンを使いたくても使うことができないという状況に直面しているひとが多数いるということである。この実態に基づいて考えるならば、これまでに熱中症で亡くなった人のうち、少なくない人たちが貧困であるためにエアコンを使えない状況にあったと考えるのが妥当だ。

・「エアコン or 食料」=「熱中症 or 餓死」
 【3】(特にFさん・Gさん)のケースで顕著なのは、エネルギー価格が値上がりする中でも、酷暑から身を守るためになんとかエアコンを使用しようとしている点である。ただ、世帯の収入が増えているわけではないため、その矛盾が栄養不足という形で現れている。もともと生活困窮にある人が、生きるために必要な電気や水道の供給停止を回避するためには、食費を極限まで削って、水道・光熱費を何とか捻出するほかない。その結果として、食事の回数と量は減り、体は衰弱していく。Fさん・Gさんは、そのままの状態が続いていたら餓死していてもおかしくなかっただろう。
 一方で、餓死を回避するために食料を優先すれば、熱中症のリスクは避けられない(【1】と【2】のケースがそう)。「エアコン or 食料」という選択は、「熱中症 or 餓死」という究極の選択であることがよく分かる。

 熱中症の被害が生まれている背景には、金銭的理由でエアコンを使いたくてもつかえない、という貧困の問題があることが上記の相談事例から明らかだ。また、各行政や政府が熱中症予防対策として推進する「エアコンの利用」を無理にでもしようとすれば、【3】のケースのように、餓死のリスクに晒されることにもなる。
 年々、気候変動が深刻化し猛暑日が増え、温度も高まり続ける中、熱中症問題は今や大勢の人の命を左右する避けられない問題である。こうした事態に対応し、熱中症から人の命を守るためには、「貧困」によって熱中症の被害が深刻化している前提に立ち、必要な対策とは何かを議論・実行していくことが不可欠だ。

■「だれもがお金を気にせずにライフラインにアクセスできる」ことが必要

私たちが求める対策①:
➡️全国一律でライフラインの供給を止めない(最優先する)措置の実施・徹底

「電気代、ガス代を滞納してしまった人向けの支援を充実させてほしい。滞納してもすぐに止めないようにしてほしい。」

 これは、なんでも相談会に訪れた相談者の実際の要求の声である。
 この記事でみてきたように、気候変動による猛暑が深刻化するなかで電気が使えなければ、熱中症で人は次々と倒れていき、多くの命が危険に晒されてしまう(現に多くの命が奪われている)。この危機から命を守るためには、たとえ電気代の滞納があったとしても電気を止めずに供給を続ける措置を実行すべきだ。また、これは電気に限らず、水道・ガスなどのライフライン全般にも共通する。記事の事例でみてきたとおり、電気代が払えない状態にある人は、水道・ガスも払えない状態にあることが多い。水が止まれば水分補給が困難になるし、ガスが止まれば冬には暖を取ることが困難になる。いずれも、命に直結する問題だ。
 例えば、仙台の水道局・ガス局では、こうした事態に対処するよう「ライフライン無償化」を求める学生たちの運動によって、水道料金が支払えなかったとしても即座に給水停止をしない措置が講じられるようになった(詳細はnote記事「命のために水道を開けろ!―学生たちが守った困窮者たちのライフライン―」を参照)。また、「ライフライン無償化」を求める学生たちの支援したケースの中には、水道料金が払えず水道を止められていたものの、お金がない状態でも水道を使えるようにするよう水道局に求めた結果、水道の再開栓を実現したケースもある。こうした仙台の取り組みは、現行の制度の枠内においてさえ、支払いが難しくなったとしても即座に供給停止措置をする必要性は必ずしもないこと、お金がなくてもライフラインの供給を続けることが可能であることを示している。
 このように、ライフラインの供給を止めない措置は実際に講じることが可能であるはずだが、一方で、こうした対応は全国で一律で行われているわけではない。例えば、川口市の水道局では、水道料金を滞納した人に対して「上下水道料金納入誓約書(未納債務承認書)」に署名を求めるケースが存在する。実際に、なんでも相談会で繋がったGさん(上記事例【3】を参照)は、この誓約書にサインをさせられている。この誓約書に署名した者は、「滞納額がなくなるまで(中略)納入することを誓約」させられ、この誓約に違反した場合には、「事前通知なく給水停止の処分を受けても異議」を申し立てることはできなくなる。また、水を止められたことによって「いかなる損害をうけても一切の賠償請求」をしないことや、「給水停止後は、滞納料金を全額納入するまで解除されないこと」にも承諾した扱いとなる。つまり、この誓約書に署名した者は、水道料金が払えるようになるまで一生水道が使えなくなる、ということだ。それほどに、極めて厳しい処置を川口市上下水道局は講じている。2023年度、川口市で水道を止められている状態にあった人は、5334人にものぼる(注6)。そのうち、少なくない人たちがこの誓約書を書かされた可能性があり、その多くが命の危険に晒されながら生活をしていると考えられる。
 川口市の例のように、厳しく滞納金を徴収し、支払いが困難になった際には機械的にライフラインの供給を止める対応をとっている行政自治体は少なくないと思われる。一方で、気候危機が深刻化する中、ライフラインの重要性はますます高まっている。この危機だからこそ、命を優先するために、たとえ料金が払えなかったとしても、まずはライフラインの供給を優先する(止めない)という措置を全国で徹底すべきだ。

私たちが求める対策②:
➡️猛暑の危機から命を守るために「ライフラインの無償化」を
 記事で紹介した相談事例をあらためて振り返ると、生活保護受給者の「エネルギー貧困」割合の高さが目立つ。上記で紹介した「エネルギー貧困」状態にあてはまると思われる相談8件のうち、7件が生活保護受給者であった。その背景には、そもそも生活保護の支給額が最低限の生活を営めるだけの水準を割っているという問題がある。2000年代以降、生活保護の支給額は削られてきた。そこに物価高・エネルギー価格の高騰が重なり、家計圧迫に拍車がかかっているのだ。生活保護受給者のエネルギー貧困問題に対処するためには、生活保護の支給水準の引き上げが必要だ。
 しかし、記事で紹介した(作業所で働きながら月収12万円で生活する)Bさんのように、生活が苦しい状態にある・エネルギー貧困状態にあるのは、生活保護受給者だけではない。「いのちと暮らしをまもる なんでも相談会」は、2020年のコロナ禍以降、年に3−4回のペースで定期開催している。そこに寄せられる相談のうち多くを占めているのが、この間の物価高・エネルギー価格の高騰で生活が苦しくなっているという相談だ。その相談者の年齢層は、10代から80代と幅広く、生活保護受給者に限らない大勢の人からの「もう限界だ」という声がここ数年ずっと寄せられてきている。
 フードバンク仙台にて生活困窮者からの相談を日々受けている鴫原は、こうした状況を、「日本において生存維持がギリギリの「絶対的貧困」が発生している状況であると捉え」、分析を進めている(詳細はnote記事「年間5000人以上が貧困によって死ぬ社会(前編)(後編)−今こそ日本でも「餓死」に正面から向き合うべきだ」を参照)。左記の論考にて鴫原は、現在の日本における生存ギリギリのライン(「絶対的貧困」のライン)を導き出し、生存ギリギリの貧困がどれくらい広がっているのかを分析している。その分析によれば、仙台市の生存ギリギリの生活費は、月収20万円3936円、年収244万7232円となる。単純計算で考えると、日本で暮らす全世帯の4分の1が生活ギリギリのライン以下の収入で暮らしていることになる。これには、非正規雇用労働者や最低賃金でフルタイムで働く労働者、そして、生活保護世帯も含まれる(前掲記事の「表6」を参照)。つまり、生活保護受給者だけではなく、働く多くの人たちの間で「絶対的貧困」が広がっているということだ。そして、こうした「絶対的貧困」の問題は、猛暑がつづく現在、「熱中症被害の多発」という形で表出している。熱中症の被害の深刻化の背景には、「絶対的貧困」が横たわっているともいえる。そして、こうした状況にある人たちは、日本において最も気候危機による被害をうけやすい層だといえる。絶対的貧困で暮らす人々が、気候変動から命を守るためには、生活保護を受給していてもしていなくてもライフラインにアクセスできるようにすることが必要不可欠である。その具体的な案として、私たちは「ライフライン無償化」を真剣に議論し実行に移していくべきだ。
 ライフライン無償化ときくと、突拍子もないように聞こえるかもしれない。しかし、コロナ危機の際、実は、各自治体の水道事業者の約4割(498事業者)が、支援策として水道料金を無料にしたり減額をしていた(注7)。危機への対応として、一時的にライフラインの無償化が実行されていたということだ。また、海外ではライフラインの無償化を実現しているケースもある。たとえば、アイルランドでは水道運営資金を税金でまかない、住民は無償で水を利用することができている(注8)。
 いまや気候危機が常態化した社会に対応するためには、緊急時の臨時対応として実施されてきたライフラインの免除・無償化措置も常態化していくべきだ。

■最後に:「エネルギー貧困×熱中症」から人の命をまもるために
 上記で紹介してきた「エネルギー貧困」状態にあるケースは、全国で広がるエネルギー貧困の全体の一部だ。実際には、相談に繋がっていないだけで数えきれないほどの人たちが、この猛暑の中でエアコンもつかえないままで暮らしていると考えられる。9月も記録的な厳しい暑さがつづくと予想されている中で、そういった人たちの多くが、いつ熱中症で倒れてもおかしくない危険な状況にいる。
 そこで、私が所属するPOSSEでは、7月のなんでも相談会で繋がった「エネルギー貧困」当事者複数人が暮らす川口地域を中心に、公営住宅やアパートに相談よびかけのチラシを配布したり、食料を必要としている人に無料で食料を届けるといったアウトリーチ活動をおこなう。こうした活動を通じて、現在、ライフラインを支払えずに止められている人、エアコンを使えず熱中症の危険にある人、食費を極限まで節約していて餓死の危険にある人などに直接つながれるよう目指す。そして、繋がった当事者と共に、その後の行政やライフライン供給事業者に対し、命を優先するためのライフラインの供給を求めていく活動へと発展させていくことを目指していく。
 これからの活動に一緒に取り組みたいという人は、ぜひ次のリンクからボランティアに応募してみてほしい。具体的な活動の詳細は、こちらから確認可能だ。

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(注1)令和5年熱中症死亡者数【東京都23区(令和5年10月31日現在)】より
(注2)気象庁報道発表資料(2023年8月28日)より(https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/ic_rma/R0503/doc02-3.pdf)
(注3)令和6年熱中症死亡者数【東京都23区(令和6年8月25日現在)】よりhttps://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kansatsu/heatstroke/weeklyreport-heatstroke.files/heatstroke-report-R60825.pdf
(注4) 注3と同様
(注5)いのちと暮らしを守るなんでも相談会は、2020年のコロナ禍以降毎年、全国の弁護士・司法書士、労働組合、市民団体等が連携して、開催している取り組みだ。食料無料配布・無料相談を通して、広がる生活困窮の実態を可視化し、社会的な対策を求めていく活動を行っている。 (詳細は、いのちと暮らしを守るなんでも相談会HPを参照:https://inoti-kurasi-soudan.jimdofree.com/)
(注6)埼玉県議会議員中川ひろしオフィシャルサイトより
(注7)https://digital.asahi.com/articles/ASP1M74KTP15UUPI002.html 
 参照
(注8)アイルランドの家庭用水道事業を担う国有公共企業の「アイリッシュ・ウォーター」のHPによると、各世帯に年間の水道サービス利用量が割り当てられており、割当量のしきい値の範囲内であれば水道料金はかからない仕組みになっている。世帯の年間割当量は213,000リットルで、4人以上の世帯の場合はより大きい量が割り当てられる。ただし、しきい値を超えて水を利用した場合は、料金が課される場合があるという。


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