気道型アスピリン不耐症に対するオマリズマブの効果(AJRCCM)
気道型アスピリン不耐症(AERD)に対するオマリズマブの効果をみたRCTが国立相模原病院から報告されました。
Am J Respir Crit Care Med. 2020 Mar 6. doi: 10.1164/rccm.201906-1215OC. PMID: 32142372
Omalizumab for Aspirin-Hypersensitivity and Leukotriene Overproduction in Aspirin- Exacerbated Respiratory Disease: A Randomized Trial
P:アトピー素因のある20-79歳のAERD患者32人。AERDの診断はアスピリン負荷試験により行った。
I:16人にオマリズマブを3ヶ月間投与した。用法・用量は喘息に準じた(1か月あたりの投与量中央値とIQRは300 mg [150-600 mg])。
C:16人にプラセボを3ヶ月間投与した。
O:プライマリアウトカムであるアスピリン負荷時の尿中ロイコトリエンE4濃度(対数レベル表示)のAUC面積の差をみると、介入群16人はプラセボ群16人に比較して有意に低下していた(中央値[IQR]、51.1 [44.5-59.8])vs 80.8 [65.4–87.8], p<0.001)。介入群16人のうち10人は累積オマリズマブ投与量が930 mgとなった時点でアスピリンに対する寛容を獲得した。
<個人的コメント>
アスピリン不耐症はCOX阻害作用をもつNSAIDsに全般的に過敏症症状を呈する病態であり、症状発現臓器によって気道型アスピリン不耐症(AERD)と皮膚型アスピリン不耐症に分類されます。
AERDでは通常、喘息もしくは鼻茸・慢性副鼻腔炎(CRSwNP)がありNSAIDs投与によってそれらの症状の増悪が起きます。
全身性ステロイド投与を行ってもNSAIDsへの寛容は獲得されません。
皮膚型アスピリン不耐症の場合は慢性蕁麻疹がベースにあり、NSAIDs投与によって蕁麻疹や血管分腫の出現・増悪が起きます。
この病態の原因として考えられているのがシステイニルロイコトリエン(LTC4, LTD4, LTE4)であり、これらは好酸球、マスト細胞、好塩基球から産生・放出されて気道平滑筋収縮や血管透過性亢進を引き起こします。
本研究のプライマリアウトカムとなっている尿中LTE4はコマーシャルベースでは測定することはできませんが、システイニルロイコトリエン産生のサロゲートマーカーとして用いられ、AERDではそうでない喘息患者に比べて尿中LTE4が高いことがわかっている他(J Allergy Clin Immunol. 2002. PMID: 12063521)、AERD患者でのアスピリン負荷時の症状と尿中LTE4が相関するという報告もあります(J Allergy Clin Immunol. 1999. PMID: 10482828)。
また、本論文はUMIN000018777に登録された前向きRCTの結果の報告であり、https://upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr_view.cgi?recptno=R000021562
プライマリアウトカムとして尿中のLTE4の変動を試験開始前から定義していること、およびプラセボ対照をおいていることから、後ろ向きに情報を収集した研究に比べて質の高さが認められた形となっています。
「AERDに対する経口アスピリン負荷」という侵襲を伴うために大規模では実施できないことを踏まえ、プライマリアウトカムを「アスピリンへの寛容獲得率」ではなく、Nが少なくても差が出やすいサロゲートマーカーである尿中LTE4に設定したと思われます。
以前に鼻茸を伴ったCRSwNPに対するデュピルマブの治療効果についてまとめましたが、すでにデュピルマブはCRSwNPに対して欧州で承認を取得しています。
そして、CRSwNPの中にはAERDを合併する者も多いことから、AERD患者に対してデュピルマブが投与される状況も考えられます(重症喘息や重症アトピー性皮膚炎を合併している症例ではすでに本邦でも投与を受けている患者さんもいます)。
AERDに対してオマリズマブとデュピルマブのどちらがよいのかということに関しては、今後の研究の集積を待たなければならないと思いますが、
AERDの主病態すなわちシステイニルロイコトリエンの放出源が
・鼻茸(に含まれる細胞)にあるという場合にはデュピルマブないし手術が検討され、(CRSwNPの手術後に尿中LTE4が減少するという報告もあります。J Allergy Clin Immunol. 2004. PMID: 14767442)
・マスト細胞にあると考えるとオマリズマブが検討される。
と考えられるかもしれません。
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