弱シャーク誕生物語
弱シャーク誕生物語
むかしむかし、ある一匹のサメが母親から生まれました。その後すぐに弟のサメが生まれ、双子となりました。
父親と母親と姉と弟の4匹家族はずっと幸せに暮らしていけると思っていました。けれど、姉は何をやっても上手くできない子だったのです。弟は人並みにできるのに、姉は何をしても上手くできなかったのです。
ある日、悲しいお知らせが家族に入りました。父親が亡くなってしまったのです。家族はとても悲しみ、葬式をしました。そのあと、母親1人では育てられないので祖父母の元へと預けられました。しかし、すぐに祖父も亡くなってしまっために母親と祖母の2人で育てられました。
普段は姉と弟、2人とも仲良かったのですが、能力を比べるようなことをするとすぐ喧嘩になってしまいました。困った母と祖母は2人を学校に連れて行くことにしました。
学校では2人とも優れた成績を残せました。ただ、やはり姉は弟には勝てませんでした。どんどん、どんどんと、姉の中では自分がダメな人間なのかなという気持ちが強くなっていきました。
そして、弟はいつしかより優れた学校に行くことになり、姉のもとから離れていきました。姉は、ついにひとりぼっちになってしまいました。
姉は、自分が悪いから皆私から離れていってしまうのだと思っていました。なぜなら、学校で弟が友達を作っている間も私は友達を作れなかったからです。誰も悪くない、自分のせいだと思ってしまいました。
姉は、学校で他人と付き合うことがうまくできず、いつもひとりぼっちでした。サメということを恐れてなにもしてきませんが、周りのものにいろいろしてくるのです。言葉で攻撃したり、やること全てに笑ったり、ひどい言葉をかけてくるのです。おかげで姉は学校に行くと吐いてしまうようになりました。
姉はそれでも自身が悪いのだと思い続け、ついに家にあったナイフで自分のヒレを傷つけてしまいました。
姉は血まみれになったまわりを見て、すっとしました。最初からこうすれば良かったと思いながら、倒れました。
起きた時に目に入ったのは母の心配する顔でした。ボロボロになったヒレを隠すように体をよじるものの、うまく隠せません。そこに知らない人が入ってきたのでびっくりして布団の中に入ってしまいました。ただ、その人は安心していいよと優しい声で語りかけてくれました。
「幸せになれる生き方は人それぞれだから、比べなくていいよ。」
姉のサメはそれから自分の道を歩み続けました。しかし、まだ今までに負った心の傷は治りませんでした。まずは癒すことを考えようとなり、パソコンで色んな動画を見てみることにしました。そこには楽しくゲームをする人たちがいました。
「わたしもゲームをしたらたのしくなれるかなぁ」
そう思い、姉はゲームを始めました。
しかし、何もうまくできないサメがゲームを上手くできるはずがありません。負けて、負けて、負けて。でも、彼女は対等に人と戦えることを楽しく思いました。
彼女は色んなゲームを触り続けました。格闘ゲーム、射撃ゲーム、マルチオンラインバトルアリーナ、カードゲーム。けれど、どれも上手く勝つことはできなかったのです。ただ、負ける側の気持ちをよく聞いてきました。同時に勝っている側の気持ちもよく聞いてきました。
彼女は、心を痛めていました。ゲームが強い弱いでそこに勝敗の差があっても、生命としての差はないはずです。他人を馬鹿にしたり、笑ったりはしてはいけないはずです。学校での出来事を思い起こすようなことが、ゲームの世界でも起きてしまっていました。これでは、ゲームの弱い人は安心してゲームできないと思いました。
彼女は、そんな弱い人の味方になる、そして弱い人と一緒にいたいとして弱シャークと名乗り始めました。そして、ゲームの世界ではサメとして恐れられずに友達ができるようになりました。
ゲームで負けていてもあなたは1人の存在なんだから、と励まし続けました。けれど、弱い人たちの間にも問題はあったのです。
強い人と一緒に戦って自分のランクを変に上げたり、どうせ負けるのだからと真面目にプレイしなくなっていたのです。
どうしよう、と弱シャークは心を痛めていました。ズルはしてはいけないことというのは知っています。でも、どうやって止めたらいいのかわかりません。
弱シャークはゲームから少し離れることにしました。ゲームの話で学校でも少しだけですが、友達を作れるようになっていました。
ですが、いつか社会に出る時が誰にでも来ます。弱シャークも社会に出て働き始めましたが、何も上手くできません。毎日怒られてばっかりでした。次第に家から出られなくなるようになってしまいました。
「なんて私はダメなサメなんだろう。」
弱シャークは毎晩部屋で泣いていました。
その時、昔にゲームの動画で元気づけられたことを思い出してまた見てみることにしました。そこには昔と変わらない楽しい世界が広がっていたのです。いる人々は変わっていても、楽しい世界は広がっていました。
そしてまた弱シャークはゲームを始めました。しかし、弱い人が虐げられている状況は変わりませんでした。もちろん、昔よりは上手くなる方法がたくさん手に入ります。けれど、人には上手くできない人もいるのです。匿名の人格否定で病んでしまっている人もいました。
弱シャークはもう一度彼らに寄り添えられるような存在になりたいと願いました。その時、目の前に魔法使いが現れました。
「貴女の望む姿にして差し上げましょう。」
魔法使いはずっと弱シャークを見ていたのです。そして、弱シャークは人間のような身体を手に入れました。元の姿の弱シャークも頭の上にぬいぐるみとしてありました。
「いつか、幸せになれるといいね。」
魔法使いはそう言って去っていきました。
人間の身体に慣れるまでに少し時間がかかったものの、弱シャークは可愛い女の子としての姿を手に入れました。これで、弱い人たちの味方になりたいと思いました。幸せになれるそれぞれの生き方を見つけられるような味方になりたいと思いました。