国内MBA修了生が受講した全16科目を一挙振り返り ― 一橋大学大学院 経営管理研究科 経営管理プログラム
2022年に修了した一橋MBA(経営管理プログラム)の2年分・16科目の概要を年次・学期ごとにまとめました。シラバスも公開されているのですが、受講パターンを読み取ったり、それに沿った講義の内容を読み込んでいくのは大変な手間だったため、受験生・在学生の参考にしていただけるとうれしいです。参考になりましたら「スキ」をクリックいただけると励みになります。
1. M1春夏学期
1.1. 導入ワークショップ (必修)
必修のゼミ。隔週で経営学、社会科学、論文作成の基礎に関わる課題図書の要約と議論をする。パワポになれた体に文章中心の要約は正直しんどい。が、読む価値のある図書が選ばれているし、文章を書くことを通じて思考をまとめ、いろいろなバックグラウンドの人と堂々とディスカッションをするトレーニングができて、非常に良いスタートがきれました。
1.2. 経営戦略 (必修)
4つある必修の一つで、多くの人がThe MBAと思うであろうグループでのケーススタディで5forcesなどのコンサル的なフレームワークを実践する授業。レポートに対する辛口ながらものすごく丁寧なフィードバックや、議論を促す情熱的な授業は必聴。個人的に一橋MBAの看板授業と思う。
1.3. 財務会計 (必修)
4つある必修の一つで、簿記3級レベルの内容から徐々に実務で使う投資判断の内容へ入っていく。簿記3級レベルの内容の事前補習をはじめ、ものすごく懇切丁寧な指導がスゴすぎた。ですが個人的には馴染みがない、計算が多い、全科目の中で一番辛かった、、、。ただこれと。秋冬の企業財務がわからないとMBAらしさ半減と思うので諦めずに食らいつくべき科目です。
1.4. 企業データ分析 (選択必修)
選択必修の一つで、確率統計の分野を扱う。私は心理統計になじみがあるので復習でした。ひたすら数学なので苦手だと多分つらいが、経営データを読むために最低限必要な知識がまとまっている。数字を与えられて相関係数を求めるなどの課題は数学と実務のつながりを感じられるので、私のような数学苦手(嫌いではない)人間でも主体的に取り組めば面白いし、単位が取れないようなことはないはず。苦手意識や食わず嫌いは損ですし、ちゃんと勉強すると面白くなってきます。
2. M1秋冬学期
2.1. 基礎ワークショップ (必修)
必修のゼミ。春夏ははじめから決められた指導教員なのですが、秋冬から選べます。自分のテーマや性格に合いそうな教員を同期と情報交換して選びましょう。希望理由を書いて提出必須。定員を超えたら選考されます。授業は春夏に続き隔週での課題図書ようやくと議論ですが、指導教員ごとに多少違いがあるのと、ワークショップレポート(修論)の進捗提出も徐々に熱気を帯びてきます。一橋の少人数教育のいいところで、手厚い指導が受けられます。テーマ名くらいはこの学期で決めて、先行研究の蓄積がある状態にしたいところ。
2.2. 企業財務 (必修)
4つある必修の一つ。春夏の財務会計の続きという趣。春夏すでにヒーヒーいってた私にとってはむちゃくちゃ難しかった。投資回収モデルなど新事業や投資判断には欠かせない基礎知識ですし、適切な経営判断の方法の中で極めて重要な一つがよくわかるので、頑張りどころと考えて乗り切りました。私はテスト前に計算問題を解けるエクセルを作成しながら内容の理解を深めるとともに、それをベースにテスト当日も値を当てはめれば解けテンプレを作成してました。(オンラインテストで持ち込み可ということだったので、不正ではないですよ!)
2.3. マーケティング (必修)
4つある必修の一つ。アンケート調査(設計、見積もり、統計解析)、ペルソナ作成、プロモ計画、商品企画といったユーザーリサーチから事業・商品を世に出すまでのプロセスを一通り学べる(ただし製造を除く)。授業内でグループワークの時間が取られ、即実践するスタイルはとても効率的。私はこの領域(とくにUXリサーチ)のプロなのですが、改めて授業で教わったりグループワークで他社の方がどんな様子なのかを知るのも自分の立ち位置や知識を確認するうで役に立つと思いました。
2.4. Global Management
原則は英語で授業。海外企業のグローバル展開や日系企業の海外展開について、ハーバードビジネスレビューの記事やケースを使って理論を学び、実践する授業。今いる企業のグローバル化について色々思うところもあり、職場で役立ちそうだと感じた。海外のビジネススクール感覚が味わえたのも良かった。授業中のグループディスカッションや課外グループワークはメンバー次第でちょくちょく日本語の場面も。私自身は英語問題ない(TOEIC 900 over)のですが、英語力は不問とされているので大学受験レベルの英語力と参加意欲があれば単位は取れるかと思います。忙しくて毎日やってたオンライン英会話ができてなかったので、その代わりと単位を取る一石二鳥を狙い、結果とても満足でした。
2.5. マネジメント・コントロール (選択必修)
いわゆる管理会計の分野ですが、規則や事務手続き的なテクニックと言うよりも、制度と現場の人や組織の関係を紐解くアプローチ。社内取引の仕組みづくりなどに直接関わってなくて役に立つ。自分の組織が全社的な目標や仕掛けとどう関わるか、いまできることはなにか、と考えられる点が私にとって良い授業でした。ただ管理や折衝の事例を持ち寄って議論する方式なので20代・30代前半くらいの方や、チーム運営に馴染みがない方は辛そうでした。
2.6. テクノロジー・マネジメント
技術系企業の全社的なナレッジマネジメント、技術戦略といったいわゆるMOT(Management of Technology)の領域についてケースブックを元に分析し、ほぼ毎週レポートを提出。分析方法自身の説明はあまりないので、何を書いたらいいか最初は戸惑うかもしれない。毎週優れたレポートが紹介されるので、それを通じて「良い分析とは」が見えてくる。私自身はロジックツリー、因果図、時系列で分析するといいのかな?というのが後半にようやくわかってきました。私はハイテク企業で経営企画や商品企画っぽい仕事をしているので、仕事に即役立っています。
3. M1冬期集中講義
3.1. 経営者講義A
日産の元幹部の方の講義。トップメーカー経営の姿勢、経験を直接、長時間に渡って聞けるのはとんでもない贅沢。大きな企業でどうやってトップになっていくのか、どういう人がトップになっていくのか、、、。一橋MBAの学生のニーズに非常にマッチした講義で、私自身もかなり興奮しながら聴講した。
3.2. イノベーション・マネジメント
研究を事業化する分野の実例を産総研のスゴイ研究者がリレー方式で講義してくださる集中講義。体系化された理論というよりも、苦労話や工夫を聞くことがメイン。ややマニアックな研究の内容に入り込んだ部分は技術畑でない人には辛いかもしれない。自分が研究所に所属していたこともあり、とても興味深い内容だった。ハイテク企業で新事業に取り組む方にはお役立ち度が高い。
4. M2春夏学期
4.1. 経営哲学 (選択必修)
選択必修の一つ。一橋の設立に関わった渋沢栄一の「論語と算盤」を教科書に、経済と道徳の両立について学びます。哲学と聞くとうんちくばっかりで退屈なイメージがありますがこの授業はそうではありませんでした。現実的な経済と道徳のジレンマを事例と論理を反復しながら議論することで、経営者あるいは職場のリーダーとしてどう振る舞うべきか考えることができます。渋沢栄一が題材というのも一橋らしく、また日本企業にマッチしたMBAという感じもして、goodでした。
4.2. ホスピタリティ・マネジメント
観光や交通等のホスピタリティ産業を題材にした経営戦略とマーケティングの授業という感じ。経営管理プログラムと併設されているホスピタリティ・マネジメント・プログラムでは必修。実はM1春夏の経営戦略論の実践編、場数を増やすという意味で超有益。経営分析のフレームワークは汎用性が高いので業界を気にする必要なし。自分で経営戦略分析をする最終レポートも「ホスピタリティ業界じゃなくてもいい」という自由っぷり。MBAで学びたいことが経営戦略、マーケティングに力点のある方にはおすすめです。
4.3. ビジネス・デベロップメント
有名戦コン出身の講師による事業企画・評価・提案の「実戦」授業。グループで一つの事業を提案する。平易な用語で説明してくれますが、その実はデザイン思考、MVP、MVEといったリーンスタートアップ的なエッセンスと、投資回収といった伝統的なエッセンスがしっかり入った内容です。解説はシンプルに、課外時間でしっかり実践してみましょう、というスタイル。チーム内に各分野のプロがいるかどうかで学びの深さに違いが出るかも。私はプロダクト・マネジメント全般を理解しているのでいい影響を与えつつかなり高速に進行できたと思います。反対に一緒のチームメンバーだった商社の方の行動力や投資回収の見立て、UIデザイナーの可視化力、医薬業界の方のドメイン知識からはかなり学びがありました。土曜日・不定期という時間割が人によっては合わないかもしれませんが、そうでなければMBAの総括的な意味合いで取ると満足度高いと思われます。
5. M2通年 - ワークショップレポート(修士論文)
必修のゼミ。一部のゼミを除き課題図書はなくなり、ワークショップレポート(修論)の進捗を隔週で報告してフィードバックをもらうだけになります。どの先生も親身に指導してくれるのは少人数の一橋ならではのいいところ。当たり前ですが自分のテーマやアプローチにあった先生を選びましょう。「科学観」みたいなものが合う先生にするというのも大事です。現実と科学(実験室的・統制)のバランスなどが合わないとなかなかにつらい。
スケジュールとしては11月ころに口頭試問を兼ねた発表会があるのですが、夏休み中に一通り完成させておくとかなり楽です。講義で積んだトレーニングの成果を自分なりに駆使して研究方法の設計、データ収集・分析、アウト部っとするプロセスは大変ではありましたが、MBAの集大成にふさわしい経験になりました。
まとめ
2年間に渡って受講した16科目の情報を振り返ってみて、私にとっては自分で選べない必修を含めて大変な講義はあっても役に立たないものはなかった、という印象です。これから受験をする方には本記事を通じて合格後の姿をイメージいただき、学校選びの参考にしていただいたり、研究計画書に厚みを持たせる材料を提供できていたりすればさいわいです。また試験に合格されて講義を選ぶ皆様にとって、それぞれの観点から面白そう・そうでないの判断をするための助けになると嬉しいです。
もしも参考になりましたら、最後に「スキ」をクリックいただけると嬉しいです。