フェアライトCMI〜価格1200万円!80年代のドリームシンセサイザー
◆◇◆ フェアライト(Fairlight) CMIとは ◆◇◆
フェアライトCMIとは、1979年にオーストラリア政府のバックアップの元で開発されたワークステーション型のデジタルシンセサイザーである。
今から40年前に私が最も憧れた夢の音楽機材であった。
1980年の発売当初の価格は1200万円、後にバージョンアップされたものは1600万円だったと記憶している。
80年代の世界中の先鋭的なアーティストのアルバムに多く使われていたが、実は多くの日本人もこのフェアライトCMIの音を耳にしているのである。
◆◇◆ ジブリ映画のサウンドトラックほか ◆◇◆
おそらく日本人が最もフェアライトの音を聴いているのは、スタジオジプリの映画のサウンドトラックであろうと思う。
「風の谷のナウシカ」と「となりのトトロ」それに「天空の城ラピュタ」など久石譲の作品である。
わかりやすいものとしては、例えば、人工的なクワイヤー(人声コーラス)の音色やベル系の音色がそうである。
他には、マジシャンMr.マリックのテーマ曲。
これはイギリスの「アート・オブ・ノイズ」というユニットの曲で、フェアライトが多用されている。
コーラス系の音も有名だが、最もメージャーな音色は、80年代の楽曲によく使われた「オーケストラヒット」ではないだろうか。
オーケストラの音で「ジャンッ!」というキメ音のアレだ。
若い人たちにはイメージできないかもしれないが、40歳代以上の人であれば、すぐに思い浮かぶであろう。
これらの音色は、90年代以降のPCMシンセサイザーには定番音色として類似の音色がプリセットされている。
実は、私がフェアライトCMIの存在を知ったのは、アニメ「うる星やつら」のサウンドトラックであった。
これまでのシンセサイザーでは作り出せなかった、幻想的で不思議な音色に魅了されたものである。
◆◇◆ フェアライトCMIの音質 ◆◇◆
80年代の初頭では、世の中にはまだアナログ方式のシンセサイザーが主流で、前述した人声コーラスやリアルなオーケストラ音色、それから打楽器やシロフォンのようなアタックが強い音色、あるいはベルのような金属的できらびやかな音を出すことはできなかったのだ。
フェアライトCMIは、厳密に言えばこれはシンセサイザーではなく、サンプラーと呼ばれるものである。
原理を簡単に言ってしまえば、アコースティック楽器や自然音をサンプリングして、鍵盤を押すことによってそれらを再生している。
シンセサイザーは合成するという意味である。フェアライトは合成する機能もあるが、主となる音色は、合成ではなく録音しているのである。
ただ、サンプリング分解能が8ビットでサンプリング周波数がとても低く、それが自然界にあるリアルな音色に近いけれど異なる独特のローファイな音色を作り出していたのだ。
◆◇◆ 未来的な意匠デザイン ◆◇◆
このフェアライトCMIは、私が人生で最も憧れたシンセサイザーであり、高校生の頃にはいつかは絶対に手に入れたいと思っていた。
その憧れは幻想的な音色の他にも、筐体のデザインが魅力的だったことが大きい。
当時のアナログシンセサイザーといえば、木製のボディーに黒か青系パネルにつまみがたくさんついていた。
それもメカニカルでカッコイイのだが、フェアライトはコンピュータのような箱とパソコンKEYとペンライト付きのモニターディスプレイ、つまみのない白いキーボードがセットになっていて、未来的でいかにも凄そうなオーラがあったのだ。
実際にそれを意図して白いボディーにデザインされたようである。
◆◇◆ フェアライトCMIを使ってみた ◆◇◆
私が音楽の仕事を始めた頃には、既に時代は変わって、フェアライトよりも安価で優れたものに変わりつつあった。
それは主に、AKAI S1000(※1)やKORG M1(※2)であり、既に私も使っていた機材であった。
しかし、物事は想い描いていると、不思議と「引き寄せの法則」が働くかのように近くにやってくるものである。
1990年当時に関係した制作会社がフェアライトCMIを持っていて、クライアントの要望でなんと使うことができたのだ。
夢にまでみたフェアライトCMIが私の目の前にあった。
古くなって汚れや傷もついていたが、やはり本物を目の前にすると、強烈でノイジーではあるが、非常に印象的な音色を発していた。
とても個人で所有するものではなく、大きく、重く、無骨で、まさに業務用の機材であった。
その後は、フェアライトCMIの音色のライブラリーをAKAIのサンプラー「S1000」に移植したものを使っていた。
どうしても私のベースにある好みの音色がフェアライトCMIのものであり、制作に多用してしまう傾向があった。
しばらく経って、一度中古で200万円ほどで出ていたのを見かけたことがあるが、費用対効果を考えると、とても手が出せなかったのだ。
だが、少し後悔をしている。
◆◇◆ その他、フェアライトCMIを使ったアルバム ◆◇◆
最後に、ジブリのサントラのほか、日本の音楽でフェアライトが多く使われていたのは、坂本龍一の「未来派野郎」というアルバムである。
ライブラリー音色だけでなく、独自のサンプリングもふんだんに行って使用したものと思われる。
また、邦楽ポップミュージックのアルバムで、最もフェアライトの使用率が高かったのは、
「PSY・S」の1985年のデビューアルバム「Different View」ではないだろうか。
ギターなど一部のパート以外は、ドラムから何から、ほぼ全てフェアライトの音色だと思われる。
※1:1988年にAKAIから発売されたデジタルサンプラー 性能はフェアライトCMIを遥かに凌ぐ。
※2:1988年にKORGから発売された、PCMデジタルシンセサイザー 90年代初頭は世界中の音楽がM1の音色で埋め尽くされた。