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フィアットバルケッタとの出会い

90年代の半ば、バブル崩壊後間もない頃である。
振り返れば、それでもまだ日本は今よりもずっと豊かであったと思う。
ただ自動車については、日本車のデザインが劣悪になってきた頃である。
バブル期までの日本車は魅力的であったが、どのクルマも次のモデルチェンジから私にとっては魅力がなくなってしまった。

走り屋を卒業していたこともあり、性能だけを追求したような日本の所謂カルトカーへの興味はなかった。技術や性能の探究は素晴らしいことではあったが、どうしてもデザインが気に入らなかったのだ。

それに比べて輸入車のデザインが目立って美しく魅力的に感じるようになった。特に当時のイタリア車のデザインはとても斬新だった。
アルファロメオ スパイダーやGTV、145、クーペフィアット、そしてフィアットバルケッタなどである。

中でもフィアットバルケッタのデザインに惹きつけられた。
エクステリアデザインだけでなく、インテリアも斬新で美しく、惚れ惚れしていたのだ。また、オレンジやイエローの鮮やかなカラーリングがより一層魅力を醸し出していた。
クルマのカテゴリーも私が中高生の頃から憧れていた左ハンドルの外車のオープン2シーターである。

1998年の春、私はフィアット/アルファロメオのディーラーに向かった。
中古車も含めて、何軒か回ろうと思っていたところ、そのクルマは最初に通過したディーラーに展示されていた。
先に別の中古車店に行こうと思っていたところ、すぐに引き返した。
オレンジかイエローを注文しようと思っていたが、それはマーレブルーメタリックの個体であった。すぐに引き返したのは、クルマから私に買って欲しいと訴えかけられたように感じたからである。

インスピレーションで、これは私のクルマだと確信したのだ。

予定のカラーリングとは違っていたが、グリーンがかったメタリックブルーはなんとも美しく感じた。
ディーラーの営業マンに話を聞くと、なんと丁度、展示車を新古車で出そうとしていたところだと言う。
登録3ヶ月の走行距離1300kmで新車価格よりも50万円安かった。

即決!である。

新古車の良いところはほとんど新車であるのに、取得税等の関係でさらに乗り出し価格が安くなることである。

バルケッタの性能スペックは非常に低かったが、デザインの魅力の前にそんなことはどうでも良かった。
走行性能としては、高速道路では怖くて最高に出しても瞬間140km/hまででそれ以上は踏めなかった。そういうクルマではないのだ。

走りを楽しむと言うよりは、ファッションを楽しむクルマであった。
旧山手通りや表参道などのお洒落な街に路上駐車してオープンカフェからクルマを眺めて悦に入っていたものである。

ワインディングロードはオープンにして季節を感じながら走る。
秋の夜は、暖房をかけながらオープンにして走ると露天風呂に入っている気分でとても気持ちが良かったのを思い出す。

ちなみにだが、ミッションはMTしか選べない。フィアットバルケッタにATは存在しなかったのだ。
低速トルクが非常に薄い特性のエンジンであり、MTでコントロールすべきエンジンでもあった。本当に4000rpmから下のトルクが薄かった。
スペック上は130馬力あったが、当時の都会の交通のスピードは今よりも速く、流れについて行くには、1速、2速でエンジンを常にぶん回していなければならなかったほどだ。

そう言う意味で、フィアットバルケッタもなかなかスパルタンなスポーツカーなのであった。

手放してから20年以上経った今、時々、バルケッタにもう一度乗ってみたいと思うことがある。時が経つと、今度はシルバーなどの渋い色も魅力的だと思うようになった。

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