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公道上のヒール&トゥ

昔の私は、ヒール&トゥができなければ、3ペダルMTに乗る意味はないと思っていた。MTに乗る意味は、速く走るためであり、速く走るにはヒール&トゥが不可欠だったからである。
しかし現代では、3ペダルMTの立ち位置は大分違うものとなった。多くは2ペダルのスポーツATの方が速いからである。
もちろん変速プログラムがスポーツ向けでないものや、変速スピードが遅い2ペダル車はその限りではない。同じスポーツカーの同グレードのMTとATを比べた場合の話をしている。

そうなると、MTに乗る意味とは、速く走るためではなくなる。
ギアのダイレクト感が好きとか、クルマを自在に操作する楽しみのため、あるいはヒール&トゥそのものを目的とするなど、運転の様式美を追求するためのものとなった。

さらに、オートブリッピング機構つきならば、ヒール&トゥは、まるで無用なテクニックとなり、スポーツドライビングにおいても必須ではなくなった。
たとえオートブリッピングがついてなくても、速く走る目的がなく、MTのフィールだけを求めるのであれば、多少クルマは痛むかもしれないが、回転など合わせる必要はないかもしれない。
ブレーキを踏んでクラッチを切り、そのままアクセルを煽らずにシフトダウン。
半クラッチを長く使って、無理矢理回転を合わせる方法である。
様式美的な美しい姿勢の走りにはならないが、もともと教習所ではそのように習ったはずだ。交差点を2速半クラッチで曲がる方法である。

3ペダル時代のレーシングカーでも予選の時は、ヒール&トゥも使わずに5速から2速にぶちこむみたいなことを聞いたことがあるし、ヨーロッパのプロドライバーもヒール&トゥはあまり使わないようだが、それは数ラップさえ持てばクルマが壊れても良いからである。クルマを大事にするならば、やはりヒール&トゥは使えた方がベターであろう。

そもそも論だが、公道の峠道でヒール&トゥを行える時点でかなりの速度オーバーとなっているはずである。
現代のクルマでは制限速度でコーナーを曲がれないクルマなどないだろうから、コーナリング時の減速など不要だからだ。
直線を制限速度で走り、制限速度でコーナーに侵入し、制限速度を維持したままコーナリングして速度を変えないままステアリングを真っ直ぐに戻す。
制限速度内で最速走行するにはこの方法しかない。

しかし、昔は少々事情が違ったかもしれない。
そういえば、私は、免許取り立ての頃に、制限速度で事故を起こしたことがあるくらいだ。
昭和の時代、国産のカタログ下級グレードのクルマには、車重に対して、あまりにも細くしょぼいタイヤがついてきたものである。スポーティーモデルがすんなりクリアする中、30km/h制限の峠道を本当に30km/hで曲がれなかったのだ。アンダーステアが出て、切り足したらイン巻きしてしまったのだ。事故に至ったのは、運転が下手だったことをはじめ、下り坂だったり、
いろいろな要素が重なりあったからではあるが、それにしても30km/hである。その後、ドアの内側に記載されている上級グレードと同じタイヤに履き替えたら、50km/hで曲がれるコーナーであった。
そんなクルマが存在する時代までは峠道の30〜40km/hの速度設定は、妥当だったかもしれない。

話を戻して、ブラインドコーナーだからヒール&トゥを使って制限速度以下に落とすという言い訳もあるだろうが、日本は、交通ルールまでが、本音と建前でできているクレイジーな国だ。もちろん警察も重々承知の上である。
建前はもうやめて、論理的思考で現実的に運用できる数値に設定してほしいものである。
制限速度については、大分改善されてきてるとは思うが、法定速度の60km/hは時代に合わせて変えた方が良い。ちなみに住宅街の6m道路の30km/h制限は速すぎると思っている。20km/h以下か、減速バンプを設けるべきである。

キレイゴトと建前を前提に話すならば、公道でヒール&トゥを運用できる場所は、峠道ではなく、交差点を曲がる時である。もう一つは、高速道路のインターチェンジとジャンクションのコーナー侵入時、そしてETCゲートを通過する時である。
50〜60km/h制限の道を運よく信号が青で歩行者がいないか、右折の矢印が出ているタイミングで使える。
左折ならば、予め3速くらいに落とした上で、3→2→1とシフトダウンである。
右折は4→3→2か、3→2のシフトダウン。

だが、交差点のヒール&トゥは、サーキットで使うヒール&トゥよりもずっとシビアで難しい。
つま先でソフトにブレーキを踏んだ状態で、その踏力を一定のまま踵でアクセルを煽るのは、至難の技である。
サーキットや、昔のような非合法の峠道で、ブレーキを思いっきり踏んでいる時のヒール&トゥの方がずっと楽だ。
街中で運用する場合、厳密には、踵を床につけたまま、左半分でブレーキ、右半分アクセルを踏むトゥ&トゥのような形になる。
このような練習は、クルマの荷重変化や減速Gに対して超絶神経質にならなければならず、訓練としては最高のシチュエーションである。
クルマを様式美的に美しく走らせることは、サーキットを速く走る練習にもなるはずだ。
高速道路を降りるときやETCゲート前のヒール&トゥは、ある程度の踏力を使っているので交差点よりは楽にできるはずだ。
交差点については、私もほとんどヒール&トゥを使わないし、使えるタイミングも自体が少ない。それならば、ブレーキだけで減速し、アイドリング回転数と車速が合ったところで、ギアを押し込むとショックなくシフトダウンできる。

趣味としてのMTの楽しみ方は、まだあるということである。

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