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1341_人生にはぐれて
「今日、10年前の独身の時とまったく同じ休日のムーヴだったわ」
「ほう」
「朝起きて、ボケボケした感じ、洗濯して、洗濯物乾かしてから、お茶漬けとか適当に食って」
「お茶漬けまで20年前と同じだったの」
「そう。んで、うーん今日は何しよっかなあって、考えて、少しグダグダして、結局、下北沢来るっていう」
「それで街の中、ブラブラして何も買わずに。この喫茶店来てコーヒー飲むのが一連のルーティンってことか」
「そう。んで、今日はお前呼んだけどな」
「見てみろよ、これ。この店も載ってるけど、店長の言葉」
「この店には人生にはぐれた奴がやってくる、一人になりたい奴がこの店で時間を過ごすんだ、って」
「いやあ、本当にそうだなあ。俺、この店でずっと過ごしてたんだよ、明日仕事行くの嫌だなあとか思ってさ、ここにある本とか手にとって何時間もコーヒーを一杯だけ頼んで」
「人生にはぐれてたのか」
「はぐれてたんだろうな、30手前くらいで。このままどうしよう、東京でずっといるべきか、悩んでて」
「それでこの店で今の奥さんにプロポーズして、失敗して」
「そうそう、おまえ、よく覚えてるよな。奥さんとまだ付き合ってたころで、明日大阪帰るって日にこの喫茶店でプロポーズしたんだけど」
「私、この店にはなんの思い出もないんだけどって言われたんだろ」
「言われたねえ。確かにその通りなんだけど」
「独りよがりだったわけね」
「そのあとちゃんと、初デートの時に行った須磨海岸でプロポーズやり直したからね」
「よかったな、オッケーしてもらえて」
「ホントだよ」