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1069_ファミコンカセット

いつもどおり週末の朝のランニングのあと、公園の朝のフリマをブラついていると、大量のファミコンカセットとファミレーター(任天堂の正規品ではないファミコン互換機)が売りに出されているのが目についた。

5,000円と書いてあったので、てっきりファミレーターの値段かと思ったが、なんと数十本あるファミコンカセットも含めての価格だという。昔、夢中になってやってたドラクエ3にロックマン、忍者ハットリくんやゲゲゲの鬼太郎もある。これには思わず、心が動いた。

「安いなあ。買っちゃうかあ。あ、財布は家だな」
「えー、家でやるつもり?」
「いや、飽きたら売ればいいし。こういうの高く売れるんだよ、海外のオタクとかコレクションとかで買うからさ」

「もう、じゃあ、早く行ってきな」
「うん。あのこれ、財布持ってすぐに戻ってくるんで、このファミコン取り置きお願いできますか」
「はい、ありがとうございます」

呆れる妻の目をかわすように、財布とエコバックを片手に戻ってくると、ほかの客がさっそく取置されているファミコンカセットを物色している。危ない、危ない。さっさと買い取って家に持って帰る。

「ねえ、それ、ホントに動くの」
「わかんない、試してみないと」

一番はじめに起動してみたのは、ミッキーマウスのだった。電源ボタンをオンにすると、一瞬、画面がバグっている。ダメか。。。何回か試してみる。

昔のファミコンとかパソコンとか、急に壊れてある日起動しなくなってしまう仕様なのが、子ども心にめちゃくちゃ理不尽だった。ドラクエ3とかセーブデータがあるソフトなんて、それで消えてしまったらどうしようっていう、胸をかきむしられるほどの狂おしい思い出も同時に蘇ってくる。

そう思ってもう一回起動したら、タイトル画面が出てきた。昔のファミコンのゲームって、会社のロゴとか出てこずにすぐにタイトル画面に入る。この感覚が懐かしい。

「お、やった」
「へー、ちゃんと動くんだね」
「どれどれ」

ちょっとワンプレイしてみると、キャラクターの動きのあまりの操作性の悪さにびっくりする。そうだった、そういえばファミコンってこんなんだった。これでも、十分に昔は遊べたんだ。今の子には、もう無理かもな。

桜が舞い散る裏庭から窓越しに心地よい風が部屋に入ってくる。ファミコン特有の8ビットのメロディによって、僕の意識は幼き日にタイムスリップした。昔何度も挑戦したステージ、敵の配置もそのかわし方も手に取るようにわかる。

でも、駄目だった。まったく昔通りではなかった。すこしやっているだけで、肩が凝ってきてしょうがない。あれ、ゲームってこんなに疲れるもんだったっけか。おかしい、昔は何時間やっても全然平気だったのに。ほんの30分やっただけで、もう意識が散漫になる。

「あれ、もうやらないの」
「うん、動作確認は十分できたから」
「じゃあ、やっぱ売るんだ」
「まあ、そうなるかな」

思い出を安易に金に変える自分は滑稽だった。自分とおんなじように、日々の現実から逃れるために、感傷にひたろうとしてこのファミコンカセットを手を伸ばすのだろう。だが、結局、思い出は思い出のままにしておいたほうがいい。僕はそっとファミコンカセットを段ボール箱にしまった。


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