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「ねえ、ねえ、小松さんいるじゃない。この前、話した」
「ああ、職場の、あのクセのある人だっけ」
「そうそう、クセあるのよね、何かにつけて。こだわりが強いっていうか」
「変なところにこだわりがあると厄介だよね」
「別に自分だけにしか関係しないものだったら、いいんだけど。他の人にも波及するような話だったら大変で」
「たとえば?」
「あれよ、まず食べ物よ、この前も会食セッティングしたのに、私は生の野菜は食べられませんって言うの」
「生の野菜食べられないの」
「炒めてたり調理してたらいいんだろうけどさ、店決めてからそんなこと言われるから、そのあと店にオーダーをちょこっと変えたりして」
「なるほど」
「それで、なんか少しは悪いなって感じ出すじゃない?普通は。そういうの、なんもなし。変えてもらって当然みたいな」
「なんだろうね、宗教上の理由とかかもしれないよ」
「生野菜を禁じる宗教?まあでも、あの人、全体的にそういう宗教ぽいの入ってそう」
「宗教入ってる?」
「なんか、そもそも私たちと違う世界に生きてるんじゃないか、そう感じる時ある。結局、人ってさ、似た者同士で仲良くなるじゃない?共通の話題とかあったりして。あの人はそういうのが、ない。他人と共有できてる部分がない、っていうの?それがなんか宗教みたいだな、って思った」
「こだわりや個人の信条も、結局、突き詰めていくと、一人一人の宗教みたいなもんだからさ」
「ひゃあ、怖い怖い。話してても、もしかしめなんか地雷にひっかかるんじゃないかって、恐る恐るなのよね」
「一番、誰も傷つけなくて誰の地雷も踏まない、無難な話題ってのは天気の話だけだね」