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1003_アゲサゲ
あいつの彼女、ブサイクだな。
あのジャケット、あいつ全然似合ってないな。不倫がバレて、あの芸能人、いい気味だ。ざまあ。
そんな風に、他人の人生にケチをつけたくなったら、要注意だ。そもそも、自分の人生と他人の人生が数珠つなぎになってるんじゃないかって、脳が混乱していてる可能性がある。
それは非常にまずい兆候である。
だがひとえに、今のネット社会ではSNSが発達しすぎて、他人の人生がのぞき見しやすくなりすぎた。しかも、そんなキラキラアカウントのストーリーが虚飾に塗れた偽りであるかどうかも、本当のところ判別し難い。
そして、真実かフィクションかどうかもわからない他者の炎上を消費して、日々の憂さを晴らしている人たち。
残念だが、他人がどれだけ不幸になろうと、彼ら自身の人生が好転することとはまったく関係ない。まったく関係ないのに、他人に注目して揚げ足取りせずにはいられない、そうなった時は、皆、自分が自分自身でいることそもそもを忌避しているのかもしれない。
他人は自分の鏡なのだから、こんな自分が嫌すぎて、それを他者に投影して余計に嫌って、それが自分への自己嫌悪として返ってくる。抜け出せない負のループである。
Xを下に下にスクロールしていくにつれて、明滅していく幾多の他人の人生とストーリー。僕は何をみているんだっけ。すると不意に、誰かが、頭の中でつぶやいた気がした。
「他人のストーリーにかかずわっていないで、さっさと自分のストーリーをはじめなさい。そうしないと、あなたは一生そのままよ」
満員の電車の中で、スマホからふと顔を上げた。だけど、誰も皆、僕の顔など少しも目もくれずに、必死にスマホを凝視していたのだった。自分のストーリーをはじめている人はそこには誰もいなかった。