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「ねえねえ、サピエンス全史って知ってる?」
「えーっと、なんか少し前にすごい流行った本だよね」
「すごいのよ、この本。ホントすごい」
「なに、なに、どうしたのよ」
「ヤバいんだって、私、この本で人類の秘密に達しちゃったの」
「マジ、そんなすごいの」
「そうなの。私たち実はね、すごい能力を持ってるのよね。人類が世界の覇権を握った秘密はね」
「え。ちょ、ちょっとそんな能力があるの」
「それはね、フィクションを信じる能力なの」
「フィクションって?」
「すべて、嘘よ。嘘、虚構。ホモサピエンスって、虚構、つまりフィクションを信じることができたの、それが最大の能力」
「フィクションを信じることが、なぜそんなにすごいの」
「フィクションはね、ホモサピエンスをこの世界の支配者にできるくらいの力があったの。フィクションを信じることによって、この世に存在しないことを信じることによって、われわれは力を合わせることができたの」
「だったら、人と人はフィクションを通してでしか、繋がれないのかな」
「そう、すべてはフィクション。あなたと私のつながりもフィクション。でも、私、生きてるの」
(そう、それだけはフィクションじゃない)