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設計マネジメントの在り方とは|トヨタ流開発ノウハウ 第23回


◆設計者マネジメントの考え方のポイント


皆さんは設計者をマネジメントする考え方や方法は社内で統一されていますか?
また、設計マネジメントの在り方に悩んでおりませんか?

私が支援させていただいているクライアント先では、マネジメントの在り方について悩んでいる設計部門の管理職の皆さんがたくさんいらっしゃいます。
悩みは次のような声が挙がってきています。
 
1.年齢があがって管理職になったのはいいが、マネジメントの在り方がまったく分からないし、教育もない。

2.教育はあるが、一般的なマネジメントの方法であり、設計部門を預かる管理職として本当にそのマネジメントのみでいいのか分からない。

3.設計には「感やコツ」がたくさんあり、どのように伝えればいいのか分からない。

4.自分の考えを伝えるのが難しいので、自ら図面を描いてしまう。
 
皆さんはどうでしょうか?

少なからず、上記の内容に当てはまる考え方に陥ったことはないでしょうか?

正直なところ、私が初めて部下を任された時も同じようなことを感じたことがあります。
しかし、私1人では全ての業務を回すことは出来ないため、部下に協力、もしくは任せて、私自身は調整役や教育役に徹するのが正しい姿だと考え、業務を進めてきました。

その時の経験を踏まえた上で、本来の設計マネジメントの在り方を考えてみたいと思います。

◆本来の設計マネジメントの在り方


まず設計マネジメントの定義を考えてみましょう。

★設計マネジメントの定義★
「創造的なアイデアを付加価値に変える具体策の方向性の取りまとめ。また、方向性を検討する中にリスク回避(または保有)、最も効率的な生産性の実現を可能とする」

この定義の中で重要なポイントは、設計の方向性を示すこと。
またその方向性の中にリスクと生産性を合わせてマネジメントしていくことだと考えることができます。

当たり前のことですが、改めて文章に記載してみると、コントロールが非常に難しい内容でもあり、かなり高度なマネジメント能力が要求されます。
マネジメントの定義から、具体的に実践するべきマネジメント手法の内容を考えていきましょう。

◆具体的に実践すべきマネジメント手法


1.創造的なアイデアを付加価値に変える具体策の取りまとめ
全ての設計内容において、方針を示す必要があります。
まさに設計方針のことです。
設計方針については、現在の設計の方法は流用設計が中心のため、流用元の選定と変更の考え方が中心になるでしょう。
具体的に方針内容を列挙していくと下記のようになります。

1)設計の考え方・お客様の想い
2)流用元の選定とカスタマイズ内容の明確化
3)競合他社との差別化の方針
4)コスト方針(目標原価の設定とコストダウンアイデアの方向性)

 
この4つの項目を設計方針として立案しなければなりません。

上記のような内容を部下に丸投げしてしまうと設計が出来ない、もしくは設計が出来たとしても設計者毎に異なる製品が完成してしまいます。
同じ製品にも関わらず、設計者が異なることにより、異なる製品ができる。これはマネジメント者としてはあってはならない状況です。

それではそれぞれの内容について解説していきます。

1)設計の考え方・お客様の想い

まずはその製品が市場や顧客にとってどのように必要なのかを明確にする必要があります。
当然、過去に販売していた製品がありますが、そこから更に機能を追加し、販売することになるでしょうから、その追加分はなぜ必要なのかを明確にしましょう。

お客様から言われていることがそのまま要求内容ではありません。そこに潜在的な課題があり、その課題を明確にしなければ、不具合やクレームに繋がってしまいます。
その内容から設計するための方向性を検討していきます。会社の方針に合致するよう設計者にある一定の制約条件をつけて設計を進ませることにより、製品の方向性が定まると共に設計者が制約条件がある中で設計をすることで考える能力も向上するでしょう。

2)流用元の選定とカスタマイズ内容の明確化

流用元の選定については、設計者に任せてもいいかもしれませんが、過去の製品の内容を設計者が全て知っているわけではないので、過去の製品も理解しているマネジメント者が選定するのが最も適切な判断が可能となるハズです。
設計者はその流用元の選定を受けて、カスタマイズ領域を明確にしていくことができます。

3)競合他社との差別化方針

どのような製品にも競合他社が必ずあります(この世の中に初めて生み出される製品は別ですが)。
その競合他社との差別化が出来る内容を決めておかなければなりません。

ここの内容が非常に重要で、受注生産品であれば、あまり差別化する内容を考えないことが多いですが、実はお客様は他の製品も必ず確認しています。常に競合他社との差別化の内容を追加していかなければ、生き残ることが難しくなってしまいます。どのように差別化するのかの大方針を立案し、設計者に投げかけなければなりません。

4)コスト方針(目標原価の設定とコストダウンアイデアの方向性)

目標原価の設定は全ての企業でされていると思いますが、コストダウンのアイデアまで出されている企業は少ないように感じています。
アイデアの全てを設計者に丸投げしてしまうと、設計に時間がかかると共に設計者1人ではなかなか良いアイデアが出てこないでしょう。

そのために設計の最初の段階で設計者を集め、コストダウンのアイデアを出すことを行ってください。そのアイデアを採用するかどうかは、設計が進んでいく中で判断が可能になるでしょう。

このように4つの項目を設計の最初に決定することが出来ればあとのマネジメント内容は、リスクと生産性が中心となるでしょう。
もちろん、設計者からの技術的な相談も多くあると思いますが、マネジメント者として自発的に実施しなければならないのがリスクと生産性と捉えてください。
 
2.リスク回避(または保有)

リスクについては、新しい技術を採用しようとする場合には必ずあるものと考えていただきたいと思いますし、過去からの技術であっても使用される場面が変わればリスクの内容が変化する場合があります。
そのようなリスクを考える場合にはFMEAやDRBFMが最も使用しやすいでしょう。

重要なのは、ただ単に設計者にFMEAやDRBFMを実施させ、対応策を設計内容に組み込むだけではなく、「どのように組み込んで、リスクを減らせているのか」をきちんと確認しなければなりません。
リスクを完全に回避できているのか?回避できていないにしても、リスクを最小限に留めることが出来ているのか?を確認するのです。

本来のFMEAやDRBFMはそこまで実施しなければならないところを、「やりっぱなし」となっていることが多く、非常にもったいない使い方をしている企業が多く存在します。

ぜひ、リスクについての結果を確認するようにしてください。
 
3.最も効率的な生産性を実現する

皆さんは進捗管理をどのようにされていますか?

進捗管理が納期管理になっていませんか?

先日伺った企業では、出図期限しか管理されていませんでした。管理といっても週1回のミーティングで出図期限に間に合うかをヒアリングされるだけです。

これではマネジメントしていることにはなりません!

納期管理と進捗管理は全く異なります。

納期管理は、設定された期限に提出物もしくは部品、製品が納品されるか確認する事であり、期限1日前までに全く出来ていなくとも、徹夜で作業をして完了しても、まったく問題ありません。

進捗管理は異なります。

進捗管理は、「期限までにどのような能率で仕事をしてもらうかを設定した上で、順調にその予定が進捗しているか確認する」ことです。

先ほどの例のように期限当日に完成すればいいわけではなく、どれぐらい日程間で、どれぐらいの時間をかければいいのか?をマネジメントすることなのです。進捗管理するためには下記の点に気を付けてマネジメントすればよいでしょう。

1.その仕事をする上での日程間(何日から何日まで)を設定する

2.その仕事を何時間ずつ実施するのかを設定する。もしくはその日の完了の目途を設定
する。

3.進捗状況を毎日実績入力してもらい、1日以上遅れが発生している場合には自動的にアラームをあげるようにする(設計者にアラームをあげさせるのでは個人差が発生してしまうため、機械的にアラームをあげるように工夫する)。

4.進捗状況が思わしくない場合は、サポートに入る。
 
皆さん、いかがでしょうか?

設計マネジメントとしての一部の重要ポイントのみ記載させていただきましたが、この3つの点をマネジメントするだけでも大きく変わり、設計者が仕事をしやすくなるハズです。

また、このようなマネジメントは30代のうちから経験をしておかなければなりません。
いくらマネジメントの理論や知識を勉強したところで、実践で活用できなければ意味がありませんし、設計者の内からマネジメントを実践しておけば、管理職になった時に困らなくなります。

ぜひ、設計チームを作ったうえで若いうちからマネジメント方法を学んでいき、素晴らしい設計者を目指していきましょう。


講師プロフィール

 株式会社A&Mコンサルト
代表取締役社長 | 中山 聡史

2003年、関西大学 機械システム工学科卒、トヨタ自動車においてエンジン設計、開発、品質管理、環境対応業務等に従事。ほぼ全てのエンジンシステムに関わり、海外でのエンジン走行テストも経験。
2011年、株式会社A&Mコンサルトに入社。製造業を中心に自動車メーカーの問題解決の考え方を指導。
2015年、同社取締役に就任
2024年4月、代表取締役社長に就任

主なコンサルティングテーマ
設計業務改善/生産管理・製造仕組改善/品質改善/売上拡大活動/財務・資金繰り

主なセミナーテーマ
トヨタ流改善研修/トヨタ流未然防止活動研修/開発リードタイム短縮の為の設計、製造改善など
※2023年9月現在の情報です

近著


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