DRBFMの正しい使い方|トヨタ流開発ノウハウ 第9回
DRBFMを使えていますか?
設計者の皆さんは問題の未然防止を常日頃考え、問題が発生しないよう対応策を設計内容に反映していることでしょう。
しかし、問題の未然防止の考え方や対応策が設計者の頭の中にしか残っていない場合が多いのではないでしょうか?特にベテラン設計者は、過去からの不具合事象や最近発生したクレーム内容が頭の中に叩き込まれており、1人で不具合・クレームに対する全ての対応策を検討してしまうことが多いのではないでしょうか?
このように設計者の頭の中に問題の抽出や対応策が蓄積されてしまうと、そのベテラン設計者しか問題の解決ができなくなってしまいます。よく言われている「属人化」ですね。
このようにならないよう、問題の未然防止をどのように考えて対応したのか、「道標」をベテラン設計者は残す必要があります。
独りよがりの設計にならないよう会社にノウハウを蓄積していくのです。それを実践するのが、私は「DRBFM」だと考えています。
私はコンサルタントという職業柄、様々な企業に入り込んでカイゼンをさせていただいております。問題の未然防止の仕組みであるDRBFMに対して、聞かれる声は次のような内容です。
FMEAやDRBFMは複雑で時間がかかる。
時間をかけて実施しても、どれだけ効果があるか分からない。
日常業務が忙しく、DRBFMを実施している時間がない。
同じ問題を繰り返してしまうのは設計者の能力の問題である。
今、この記事を読んでいただいている設計者の皆さんはどうでしょうか?上記のようなことを思ったことはありませんでしょうか?
このように考えたり、思ったりすることは当然でしょう。DRBFMの目的がワークシートを埋めて、設計の内容に対して承認を得るために使用されているからなのです。効果がないと思いながらも、承認を得るために時間をかけワークシートを完成させている・・・。
これが実態です。
このような使い方では、せっかく時間をかけてDRBFMの仕組みを構築したにもかかわらず効果は少ない、なおかつ設計リードタイムが伸びてしまうだけです。
では、どのように進めていけばいいのでしょうか。
冒頭でも説明したようなDRBFMの目的を明確に定義し、使い方を設定する必要があります。まずは目的から考えてみましょう。
1.DRBFMの目的
① 問題の未然防止
② 設計ノウハウの蓄積
この2点です。もう少し掘り下げて考えてみましょう。
① 問題の未然防止
Design Review based on Failure Modes / トラブル未然防止活動
「設計変更点や条件・環境の変化点に着眼した心配事項の事前検討を設計者が行い、さらにデザインレビューを通して設計者が気づいていない心配事項を洗い出す手法。この結果得られる改善等を設計・評価・製造部門へ反映する事により、未然防止を図る」
② 設計ノウハウの蓄積
「過去のDRBFMを確認し、同様の変更点・変化点がある場合、同様の対応策を検討する。同様の対応策を設定することにより、過去と同等の品質レベルを確保でき、更には新しい設計領域(同様の変更点・変化点がない領域)の問題の未然防止に注力することが可能となる」
このように2つの目的を設定し、設計者が異なっても、同様の品質レベルが確保できる仕組みを構築しなければなりません。
2.DRBFMの使い方
① 変更点・変化点管理
DRBFMを実践するためには、インプットの情報を抜け漏れなく抽出しなければなりません。そのインプットの情報が「変更点・変化点」です。この2つの言葉の定義は次のようになります。
変更点:設計者が何かしらの要求により、自ら変更した部分
変化点:使用環境、使い方などが変更されることにより変更しなければならなくなった部分
この変更点・変化点を抜け漏れなく抽出する仕組みをまずは構築しましょう。
変更点・変化点管理の詳細な仕組みについては次回のコラムで紹介します。
②DRBFMの実施
DRBFMで特に注意しなければならないのが、「故障モードの抽出」です。故障モードの抽出は、ただ闇雲に問題点を列挙すればいいわけではありません。DRBFMの故障モードは次のように定義しています。
故障モード:商品性の欠如、機能の欠損に結びつく問題点の抽出
変更点・変化点に対して、「商品性や機能が失われたりする」問題点を抽出していきます。自動車で言えば、「走る・曲がる・止まる」が失われるような問題点を抽出していくのです。そのように問題点を抽出していくことにより、製品に対して致命的になる不具合を防止することができるようになります。また、問題は大小さまざまな内容を抽出することができます。しかし、全ての内容の対策を実施していては、設計の時間がいくらあっても足りません。お客様に致命的になる≒人命の危機(火災に繋がるなど)を防止していくのです。
そのほかは性能が著しく低下するなどの大きなクレームに繋がる内容に対して対策を検討していきましょう。
③DRBFMの蓄積
DRBFMを実施し、設計を完了させた後にDRBFMをデータベースに転記していきます。変更点・変化点と故障モード、対応策をデータベース化することにより、次の設計で他の設計者が同様の変更点・変化点に対して悩む必要が無くなります。
DRBFMの多くは設計者が個人で保有していたり、その設計案件のフォルダ内に眠っていたりします。それでは次の設計が活用できません。必ずデータベース化してください。
皆さん、いかがでしょうか?
せっかく時間をかけてDRBFMを実施するのであれば、今の設計にも効果を発揮でき、他の設計案件にも活用し、設計者のノウハウをしっかりと展開できる仕組みを構築してみてください。
その結果、設計者の負担が徐々に軽くなり、付加価値の高い案件に注力できるようになります。
ぜひ実践してみてください。