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設計書の必要性|トヨタ流開発ノウハウ 第30回



私はコンサルタントとして、製造業の受注品生産企業、見込生産品企業どちらも訪問し、さまざまな設計プロセスや設計手法について触れてきました。

◆設計者の困りごと


設計者が最も困っている内容として、設計自体に工数がかかったり、試作評価でのやり直しなど、手戻りについての悩みもありますが、やはり一番は設計のインプット段階です。
特に受注品生産企業での場合、お客様からの要求仕様が完全に決まりきる前に受注してしまい、なかなか設計に着手できない状況です。
出荷の期限だけは、決められているため、着手が遅れれば、遅れるほど設計のリードタイムが少なくなっていくのです。

この記事を読んでくれている設計者は、上記のような経験をしたことがあるでしょう。
 
お客様の仕様が決めるまで待っているようではいつまでたっても設計に着手できませし、短いリードタイムで設計をするための余裕も皆さんにはないハズです。

ではなぜ、このような着手が遅れてしまうのでしょうか?

もちろんお客様が仕様を決めてくれないことに問題があるように感じるかもしれませんが、全ての問題がお客様の仕様ではないのです。

このような問題が発生している企業さんの場合、要求仕様書を受けて、そのまま設計している場合が多いのです。
このプロセスに問題があります。

また、見込生産品の企業の場合は、お客様を商品企画部門と置き換えてもらえれば同じ問題が発生しているでしょう。
 
では、どのような点が問題なのでしょうか?

◆問題点について


私はプロセスに問題があると考えています。

要求仕様書や商品企画書をインプットとして、設計を着手すること自体は間違っていませんが、要求仕様書や商品企画書だけで本当に設計が着手できますでしょうか?

設計者の皆さんは要求仕様書や商品企画書をにらみながら、「どのように設計していくか」をまず考えているのではないでしょうか?

どのような機能が求められ、その機能を実現する方式を検討しなければならないのです。
その方式より製品としてアウトプットされる内容がスペック(自動車であれば、エンジン出力やトルクなど)になるのです。
これらの内容が要求仕様書や商品企画書に書かれている訳ではありませんし、決めることもできません。
よって、着手を早めたいのであれば要求仕様書や商品企画書を待っているのではなく、これらのインプット情報から機能・方式・スペックを検討し、逆提案しなければならないのです。

主導権をお客様や商品企画部門にもってもらうのではなく、設計するメーカーが持たなければならないのです。

主導権を持つために検討しなければならないのが、先ほど説明した機能・方式・スペックが記載されている設計書です。

この設計書があれば、設計書の一部をお客様や商品企画部門に逆提案し、その内容で問題なければ、早々に設計に着手することが可能になります。

◆設計書とは・・・。


では、設計書とはどのような内容なのでしょうか?

設計書の一部を紹介したいと思います。

設計書の中心は、機能・方式・スペックのこの3つです。

しかし、これらの内容がどのような考え方、ストーリーで出されたのかを記載しなければ、他の設計者が分かりません。
また、設計書を作成する段階で、設計におけるリスク(ボトルネックとなる技術も含む)を検討しておかなければなりません。

最初にリスクを検討せずに設計者にインプットしてしまうことが大きな手戻りややり直しに繋がってしまう確率が高まってしまうのです。
 
それでは設計書の全体像を見ていきたいと思います。

◆設計書の全体像


機能・方式・スペックに当てはめて考えると・・・。
機能:②機能系統図
方式:③設計方針と④技術選択
スペック:主要諸元となります。 

設計書の作成の流れを解説していきます。

まず①インプット情報である商品企画書、要求仕様書を受けて、②の機能系統図を作成していきます。

機能系統図は、製品に求められる機能をツリー上に描いた内容であり、すでに存在する資料で考えるとE-BOMが最も近いでしょう。
E-BOMは部品のツリー図(機能で構成した体系)ですが、その部品を機能内容(○○が□□するなどの文言)に置き換えて考えてもらうと分かりやすいでしょう。

インプット情報を受けて、必要機能を洗い出すのです。多くの企業では、この必要機能を洗い出すのが設計者の頭の中で行われており、あとから製品を流用しようとした設計者が、製品にどのような機能が保有されているのかわからない状況になってしまっています。

必ず最初に必要機能を洗い出し、インプット情報と合致しているか、お客様の要望を実現できているかを確認しましょう。
その次に、必要機能をどのように実現するのか=方式を検討していきます。

必要機能を実現する方法はこの世の中にたくさんあります。

例えば、自動車であれば、パワーステアリングを油圧にするのか、電動にするのかです。「ステアリングを回しやすくする」という機能を実現する方法として、メカか電動かを選ばなければなりません。
この時にそれぞれの方式のメリット、デメリットを考えた上で選択をしていきます。

方式が実現できれば、その方式を支えている技術内容が今、その企業が持っているのか、持っていなければ、1から開発するのか、市場から技術を調達するのかを考えなければなりません。

この技術の選択により、目標とする品質:Qは変わりませんが、コスト:Cとリードタイム:Dが大きく変わってきます。

①~④で検討した内容を主要諸元であるスペックに落とし込み、お客様と商品企画と相談していきます。
この提案がのまれれば、すぐに設計スタートとなります。
設計スタート時点で最初に検討しなければならないのが、QCDのQとCです。

Qについては目標品質や性能が決まっているハズですから、その目標とのGAPを見極めながら、リスクになる内容がないかを確認します。

それらの内容をDRBFMを使用し、実現していきます。
また、Cについては目標コストとのGAPをVEを使用しながら、目標に到達する見込みを検討していきます。
これらの検討後、具体的な設計内容を検討していきましょう。

 皆さんいかがでしょうか?

設計リードタイムを確実に確保するためには、できるだけ早く着手することですし、着手が早まれば余裕も生まれ、ポカミスなどは減少していくでしょう。

着手を早めるためにもぜひ設計書を作成し、逆提案するプロセスを実行してみてください。


講師プロフィール

 株式会社A&Mコンサルト
代表取締役社長 | 中山 聡史

2003年、関西大学 機械システム工学科卒、トヨタ自動車においてエンジン設計、開発、品質管理、環境対応業務等に従事。ほぼ全てのエンジンシステムに関わり、海外でのエンジン走行テストも経験。
2011年、株式会社A&Mコンサルトに入社。製造業を中心に自動車メーカーの問題解決の考え方を指導。
2015年、同社取締役に就任
2024年4月、代表取締役社長に就任

主なコンサルティングテーマ
設計業務改善/生産管理・製造仕組改善/品質改善/売上拡大活動/財務・資金繰り

主なセミナーテーマ
トヨタ流改善研修/トヨタ流未然防止活動研修/開発リードタイム短縮の為の設計、製造改善など
※2024年6月現在の情報です

近著


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