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設計者が考えるべき再発防止|トヨタ流開発ノウハウ 第33回



前回の記事の続きになりますが、問題が発生した場合(設計での机上計算や評価での問題)、まずは現状分析を実施しながら、要因解析(なぜなぜ分析)を実施しなければなりません(その要因解析については、前回の記事をご参照ください)。
 
要因解析を実施後、要因と真因について対策を立案しなければなりません。それでは対策立案の考え方を3つ紹介します。

◆暫定対策


要因解析の「要因」についての対策の考え方

要因については恒久対策も検討しなければなりませんが、まずは問題がないように処置をしなければなりません。
要は恒久対策までの繋ぎの対策になります。

暫定対策はその場で解決できる方法、また短期間で対応できる方法を検討していきます。

例えば、図面の間違いがあったとしましょう。
その図面の間違いによって試作品自体が設計者が思うような形状ではなかった場合に、手で加工・修正したりします。
このように、まずは試作の評価を進めていくために処置を行います。

◆恒久対策


恒久対策は暫定対策の対応後、二度とその開発テーマで同じ問題が起きないようにすることです。

ここで勘違いしやすいのは、再発防止策と同じだと考えてしまいがちです。

原因は恒久対策と同じように二度と同じ問題が起きないようにするという考え方のためです。
あくまでも恒久対策の場合は、その開発や設計で同じ問題が起きないようにすることであり、先ほどの例であれば、「設計図面を修正する」ことが恒久対策になります。

同じ試作品を生産する時に図面を修正していない結果、同じ間違いを発生させてしまう可能性が高くなりますので、必ず図面を修正し、次に図面を使用する時に備えておきます。

このように一度出図した図面で間違いが発生した場合、図面を修正しなければなりませんが、意外にそれができていません。

例えば、量産段階で問題が発生した場合、本来問題となった図面を修正し、出図してから、量産工程での部品修正がなされなければなりません。
しかし、図面修正を行っている間も生産は続いているわけで、その間に対策品がないと不具合がある部品を含んだ製品を出荷してしまうことになります。

生産側は出図まで待つことができませんので、一旦、設計部門に依頼した内容通りに加工・修正を行い、対策品で生産を継続します。その間に正しい図面が出図されなければなりませんが、出図を忘れていた場合はどうなるでしょう?

修正された図面が出図されなくても、生産側は対策品で生産を続けていますので、問題は起きません。しかし、この製品を流用、転用する際に過去に発生させた問題を再び起こしてしまいます。
理由は、お分かりの通り図面が修正されていないからです。
生産側からは「また同じ問題を繰り返しているぞ!なぜ図面を修正しなかったのか!」とお叱りを受けてしまうでしょう。

恒久対策は同じ問題を発生させないよう検討しなければならないもので、その開発テーマでもそうですが、流用・転用した時のことも考えて、対策を確実に実行しなければならないのです。
対策における恒久対策をしっかりとマネジメントし、実行したかどうかまで管理できるようにしてほしいと思います。

◆再発防止策


再発防止策については、日本語は恒久対策と同じように「同じ問題を2度と起こさないようにする」ための対策ですが、恒久対策とは異なる部分があります。

恒久対策は要因解析で「要因」について対策を講じましたが、再発防止策は「真因」に対して、対策を講じなければなりません。
前回の記事にも書いた通り、真因は「本当の原因であり、仕事の仕方やプロセスの問題のこと」です。

仕事の仕方やプロセスへの対策を打ち、他の設計者が同じ問題を発生させないよう仕組み造りを検討しなければなりません。

【悪い例】

・設計図面が間違っていたことに対して、設計のチェックリストに追加し、毎回設計者に確認させる

・間違いの内容の部分を教育する

などです。

上記の2つの対策は一見再発防止策に見えますが、同じ問題を確実に防止するための策としては不十分ですし、上記のような内容は「暫定対策」に含まれます。

【正しい例】

・間違わないよう設計基準を設定し、その設計基準を3DCADに入れ込むことで間違った場合にはエラーを表示されるようにする
・標準モデルに対策した内容を追加、もしくは同じ部品を使用している全ての製品に展開し、流用・転用した場合でも対策品が使用されるようにする

このような内容が本来の再発防止策です。

「誰がいつ実行しても同じ間違いが確実に発生しないようにする」対策内容を検討しなければなりません。

再発防止策をチェックリスト、教育に逃げてはいけません。
ミスや間違いというのは会社の財産であり、その再発防止策が設計のノウハウになるのです。

◆横展開(水平展開)


最後に横展開(水平展開)の内容です。
再発防止策を他の部品や製品に展開します。

同類の問題が発生しそうな形状や機能がないかどうかを検討していきます。

多くの不具合内容は、機能や形状が異なるだけで、同じような問題が発生しているでしょう。
そのために横展開を確実にしなければ、せっかく会社のノウハウとして構築した設計基準やプロセスが設計者全員に共有することができなくなってしまいます。

他部門への展開も積極的に行うべきです。

例えば・・・。
品質事例展示会のような形で他の製品を設計している部門や購買、生産といった他の部門にも問題内容と再発防止策を展開し、それらの内容を理解、納得し、同じような問題をあぶりだす必要があります。

ぜひ横展開を確実に行えるよう部門展開を図ってほしいと思います。
 
皆さん、いかがでしょうか?

問題が発生した場合に品質保証部門のような品質を管理する部門から再発防止策を求めれた時に「時間がない」のでやっつけ仕事になってしまっていませんか?

せっかくの問題発生を良い機会と捉えた上で、将来の自分もしくは他の設計者が楽になる方法=再発防止策を時間をかけてしっかりと考えていきましょう。


講師プロフィール

 株式会社A&Mコンサルト
代表取締役社長 | 中山 聡史

2003年、関西大学 機械システム工学科卒、トヨタ自動車においてエンジン設計、開発、品質管理、環境対応業務等に従事。ほぼ全てのエンジンシステムに関わり、海外でのエンジン走行テストも経験。
2011年、株式会社A&Mコンサルトに入社。製造業を中心に自動車メーカーの問題解決の考え方を指導。
2015年、同社取締役に就任
2024年4月、代表取締役社長に就任

主なコンサルティングテーマ
設計業務改善/生産管理・製造仕組改善/品質改善/売上拡大活動/財務・資金繰り

主なセミナーテーマ
トヨタ流改善研修/トヨタ流未然防止活動研修/開発リードタイム短縮の為の設計、製造改善など
※2024年6月現在の情報です

近著

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