設計者に最も必要な能力|トヨタ流開発ノウハウ 第32回
◆設計者の能力
皆さんは、設計者に最も必要な能力は何だと思いますか?
製図能力でしょうか?構想能力でしょうか?もちろんそれらの能力も重要だと思いますが、最も必要な能力は「問題解決能力」です。
それはなぜでしょうか?
設計という業務の中では、必ず「問題」が発生します。問題がない設計はリピート製品などの設計業務がほとんどない仕事でしょう。
要求仕様などのインプット情報から設計を進めていくと、何かしらバランスを取らないといけない事項が発生します。
バランスというのは、ある部分では機能を満たす構造が設定できるものの、それらの影響を受けて、他のアセンブリや部品の機能が満たせなくなる部分があり、それぞれの妥協点を見つけて要求機能を実現させなければなりません。
そのような設計の進め方を私はバランス設計と呼んでいます。
◆バランス設計
このバランス設計をする際に発生した問題(機能を満たせなくなる部分)を解決しなければなりませんが、どの部分に問題があるのかを正しく追及しなければなりません。
また、受注した案件もしくは設定した開発テーマ以外の仕事で、市場での不具合やクレーム対応といった業務も存在します。
その時も改善策を検討する際に問題を正しく見極めることができなければなりません。
よって、設計の仕事というのは、常に問題を解決しながら進めることなのです。
では、問題を問題として捉えて、真因(=真の原因)を追究し、対策を立案するためにはどのように進めるべきなのでしょうか?
進め方は8つのステップが必要です。
◆進め方のステップ
①問題の明確化
②現状把握
③達成目標の設定
④要因解析(なぜなぜ分析)
⑤対策の立案(暫定・恒久・再発防止策)
⑥対策の実行
⑦対策の有効性の確認
⑧横展開(水平展開)
これらの中で重要な④の要因解析と⑤の対策の立案、⑧の横展開です。
今回の記事は、④の要因解析を解説していきます(⑤の対策の立案、⑧の横展開については、次回で解説します)。
◆要因解析
要因解析は、なぜなぜ分析とも言われます。
いまさら「なぜなぜ分析」?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、このなぜなぜ分析は馬鹿には出来ないぐらい奥深いものなのです。
いくら設計者としての能力が高くともなぜなぜ分析は訓練を重ねなければ簡単にできるものではないからです。
なぜなぜ分析を簡単に進めるためのコツを4つほど紹介します。
A:真因の追究
なぜなぜ分析の終わりは、真因まで抽出できれば完了となります。しかし、どこまで「なぜ」を続ければ、真因となるのかが分からない場合があります。
真因の意味は、「本当の原因であり、仕事の仕方やプロセスの問題のこと」と定義されています。
例えば、何かの不具合やクレームの分析の時に「設計図面が間違っていた」は、真因ではなく、単なる(原因)要因です。
さらになぜを続けなければなりません。
一見、図面を修正すれば、不具合が解消されるかもしれませんが、次に同じ設計をした場合にまた同じ間違いを起こしてしまうかもしれません。
設計図面が間違っていたことに対してなぜを続けると、例えば「設計検討する際に使用した基準が間違っていた」となり、まさに仕事の仕方の部分になります。
このように真因まで追求すると、再発防止策が初めて作成できるようになります。
B:要因と要因のつながり
なぜなぜ分析を続けていると、要因と要因のつながりがおかしい場合が発生します。
例えば、先ほどの「設計図面が間違っていた」の次のなぜ?が「経験の浅い設計者だった」としましょう。
一見、なぜが繋がっているように思えますが、全ての経験の浅い設計者がその設計における図面内容を間違うわけではありません。
要因を確認する際に、他の人であったらどうか、他の場面であったらどうかを想像してみてください。そうすると要因が間違っていることに気付けるでしょう。
要因の確認は、3回なぜを続けたら一回止めて、それぞれのなぜを確認してみましょう。
C:一つの要因には一つの事象のみ
1つの要因に複数の事象を含めて記載する場合があります。
例えば先ほどの例であれば「経験の浅い設計者だから図面が間違っていた」のような要因です。
この要因を確認してみると、原因は「経験の浅いせいだ!」と感じないでしょうか。その通りなのです。1つの要因の中に複数の事象があると、形容詞的にしようされている方の内容を原因と考えてしまいがちなのです。
それでは真因を見つけることができないでしょう。
先ほどの例であれば、経験の浅い設計者は関係なく、図面自体が間違っていたことが原因ですので、図面の間違いに対して、なぜを続けないといけないところが「経験の浅いせいだ!」となり、図面の間違いへの対策は検討出来なくなってしまいます。
そのような状況にならないよう1つの要因には、1つの事象のみ記載するようにしましょう。
D:人の考えは記載しない
なぜなぜ分析で最も記載してはならない内容が「人の考え」です。
例えば、先ほどからの「図面が間違っていた」という要因の例で言えば、その次のなぜが「あっていると思いこんだ」との要因がでてきたとします。
では、この「あっていると思いこんだ」に対しての対策はどうなりますか?
「思いこまないよう再度確認する」や「集中して仕事する」などの抽象的な対策になってしまうでしょう。
これは要因が「人の考え」だからです。
問題発生後に、要因解析するまでの期間は早くても数日は経過しているでしょう。
数日経過していて、その時にどう考えたのかを振り返っても思い出せないでしょうし、思い出したとしても正確な原因は導くことができません。
そのために、要因解析では、「人の考え」を記載しないようにし、事実に基づく要因のみを抽出するようにしてください。
皆さん、いかがでしょうか?
要因解析(=なぜなぜ分析)をする際に上記のような内容を考えて実施できているでしょうか。
もう一度、皆さんの業務の中で問題が発生した場合に、上記のようなポイントを活用しながら、真因を追求する仕事の仕方を見直してみませんか?
その仕事の仕方が将来、大きな問題に直面した時に必ず役立ちます。
講師プロフィール
株式会社A&Mコンサルト
代表取締役社長 | 中山 聡史
2003年、関西大学 機械システム工学科卒、トヨタ自動車においてエンジン設計、開発、品質管理、環境対応業務等に従事。ほぼ全てのエンジンシステムに関わり、海外でのエンジン走行テストも経験。
2011年、株式会社A&Mコンサルトに入社。製造業を中心に自動車メーカーの問題解決の考え方を指導。
2015年、同社取締役に就任
2024年4月、代表取締役社長に就任
主なコンサルティングテーマ
設計業務改善/生産管理・製造仕組改善/品質改善/売上拡大活動/財務・資金繰り
主なセミナーテーマ
トヨタ流改善研修/トヨタ流未然防止活動研修/開発リードタイム短縮の為の設計、製造改善など
※2024年6月現在の情報です
近著