
モジュール化の最終到着地点とは|トヨタ流開発ノウハウ 第37回
◆モジュール化への取り組み
皆さんはモジュール化を組み込んで設計を実施しているでしょうか?
また、商品企画の際にモジュール化を意識して、コンセプトを決めているでしょうか?
現状、モジュール化を意識はしているものの、設計的には一部効率化できているものの、最終的な製品やソリューションに反映されていることは少ないのではないでしょうか?
これはどのような意味のことを言っているのかというと・・・。
・顧客が仕様を選択することで初めて製品のスペックが導き出されるような製品やソリューション(LENOVOのような仕組み)
・故障したら専門的な作業者が修理するのではなく、モジュールごと差し替えし、すぐに現状復帰ができるような状態(ただし、コストが高額になる可能性があり、その点は顧客の承認が必要)
上記のように、モジュール化した内容をアーキテクチャに落とし込み、販売やアフターメンテナンスまでの全体の仕組みを変えてこそ、モジュール化の真の価値が発揮されるのです。
しかし、日本ではこのようなことを実施している企業はほとんどありません。
理由を考えてみましょう。
私はさまざまな企業に行かせてもらっており、そこでヒアリングした結果を少しまとめていきたいと思います。
◆ヒアリング結果
・アフターメンテナンス者の仕事がなくなる。
・顧客に仕様を選んでもらうなどとんでもない。お客様は神様であり、全ての要求に対して全力で答えることができることが自社の強みである。
・機種がなく、モジュールのみの管理は難しい(わかりにくい)。
・商品企画ではなく、モジュール企画は能力的にすることが難しい(設計の詳細内容が分かっていないとモジュール企画をすることができない)
このような理由によって、実現することができていません。
特に受注生産の企業がそのような傾向が強いです。
皆さんの会社はいかがですか?
カスタマイズをすることができることを強みとしていませんか?
今後、日本の労働人口が大きく減少していく中で、カスタマイズは強みになりません。むしろ弱みになってしまうでしょう。
カスタマイズをすることができる設計者、また、それらの加工、組立ができる製造者、さらにはアフターメンテナンスができるサポート者全てが属人的な業務になってしまっており、退職に伴い強みがなくなっていくのです。
そのような状況になる前にカスタマイズしている部分をノウハウ化し、それらの内容を標準化していくことにより、最終的なモジュール化が完成することができる状態になるハズです。
モジュール化は単なる設計効率をあげるためのツールではないのです。本来的な最終地点を明確にし、全社的に取り組まなければなりません。
◆モジュール構成の課題
また、モジュールを構成する製品や機種の設計の仕方に問題がある場合も少なくありません。
それらの課題も合わせて見ていきましょう(受注生産の製品の課題を確認)。
・各機種をそれぞれ開発・設計しているため、共通化ができていない。
・同じ機能が求められるオプションでも装置構成が機種毎に大きく異なるため、構造が異なる=機種を跨ぐモジュール化ができない。
・機種の設定はあるが、それぞれが単独で存在しており、ラインナップという考え方がない。
・各機種で個別に設計を行っているため、他の機種を設計している設計者は、もう1つの機種の設計内容を把握できない(各Gで専任化してしまっており、ノウハウの伝承ができていない)。
・機種で性能が重なっており、しかし、コストに差がある(元々の構造が異なるため)ため、コストの高い機種は売れない。
・オプションのカスタマイズでそれぞれの機種で大幅な性能アップが可能になってしまっている(個別最適)。
いかがでしょうか?
受注生産企業ではこのような問題を抱えていませんでしょうか?
このような問題がある場合、解決策はやはりモジュール化であり、そのモジュールを販売やアフターメンテナンスに活用していく必要があります。
◆モジュラー製品構想
では、モジュラー製品構想をどのように進めていくべきなのでしょうか?
進め方を簡単にご紹介したいと思います。
①コンセプトの決定
モジューラーユニット(=モジュール)からコンセプトモデル(お客様に提案可能な製品)の創出ができるようなコンセプトを決定する。
あくまでもコンセプトモデルは、お客様が頻繁に選ぶ仕様をまとめたモデルであり、モジュールの組み合わせのバリエーションの1つにしかすぎない。お客様がよく選ばれるモデルを中心にモジュール化を検討していく。
②オプションのカスタマイズ制限
今までのようにオプションを無限にカスタマイズできるようにすると、モジュールが崩れてしまい、元の製品構成に戻ってしまう。そのため、オプションのカスタマイズに制限をかけると共に他のモデル(上位モデルなど)への性能に入り込まないルールを構築する。⇒設計変更禁止領域の設定
③オプションの共通化
さまざまなオプションを共通的に使用できるようオプションのモジュール化を構築する。オプションも共通化し、スケールメリットを活かし、大幅なコスト削減を実現する。
進め方の一部をご紹介させていただきました。
特に①のコンセプトは非常に重要であり、モジュール化において最初の方針を明確にし、どのような製品をモジュール化するのか、もしくはそのモジュールがどのような製品ラインナップになるのかを描かなければなりません。そのラインナップを実現するための具体的な構成を検討していくのです。
あくまでも最初の方針や市場やお客様が要求されるであろう内容をインプットし、コンセプトの方針を決めるのです。設計側の要求から(特に効率化など)のみでコンセプトや方針を決めてはいけません。
皆さんいかがでしょうか?
今後、日本の労働人口が減少していく中で今の仕事の仕方を続けていても、グローバルで勝ち残ることは難しくなります。
仕事の仕方を一気に変えるためにも、製品戦略から見直してみてはいかがでしょうか?
講師プロフィール

株式会社A&Mコンサルト
代表取締役社長 | 中山 聡史
2003年、関西大学 機械システム工学科卒、トヨタ自動車においてエンジン設計、開発、品質管理、環境対応業務等に従事。ほぼ全てのエンジンシステムに関わり、海外でのエンジン走行テストも経験。
2011年、株式会社A&Mコンサルトに入社。製造業を中心に自動車メーカーの問題解決の考え方を指導。
2015年、同社取締役に就任
2024年4月、代表取締役社長に就任
主なコンサルティングテーマ
設計業務改善/生産管理・製造仕組改善/品質改善/売上拡大活動/財務・資金繰り
主なセミナーテーマ
トヨタ流改善研修/トヨタ流未然防止活動研修/開発リードタイム短縮の為の設計、製造改善など
※2024年6月現在の情報です
近著