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お客様の要求が正しいとは限らない?!|トヨタ流開発ノウハウ 第26回


◆設計改革・モジュラー設計導入での設計効率向上


設計改革やモジュラー設計導入(3DCAD導入も含む)で設計効率を向上させるということを目的とすると、やはり標準モデルの設定であったり、過去の設計内容が流用しやすいように整理していくことが近道となります。

そのような改革を進めていくにあたり、最初に検討しなければならないのは市場やお客様の要求がどのような内容で、その結果どのような製品を設計してきたかです。

この内容が企業でどの設計者でも使用できる状態になると、格段に設計効率は向上するでしょう。

◆要求仕様書・製品企画所のまとめ


市場やお客様の要求は、要求仕様書もしくは製品企画書にまとめられることが多く、その内容を元に設計者が設計をスタートしていきます。

しかし、少し立ち止まって考えてください。
お客様は自社製品のことをどれだけ知っているでしょうか?
知っていたとしても、カタログに記載されている基本的な製品の性能、概要的な構造程度ではないでしょうか?

また、過去に販売する製品を使用したことがあったとすると、過去製品について、動作までの詳細な動きは理解しているでしょう。
しかし、その動作の詳細内容、例えばどのようなOリングを使用しているのか?どのようなオイルを使用しているのか?
までは把握していません。

そのような詳細な部品まで把握していないお客様の要求通り設計しても本当にいいのでしょうか?
また、そのお客様がほしい性能や品質はその要求を実行すれば確保できるのでしょうか?
答えはNOです。

お客様が要求している内容はあくまでも顕在的なニーズであり、潜在的なニーズではないのです。

◆顕在的ニーズと潜在的ニーズ


顕在的なニーズとは、お客様が話されることの上辺だけの情報です。

本当のニーズ≒潜在ニーズは語られないでしょう。

例えば、お客様は「速い車がほしい」と言っています。この「速い車がほしい」というのは、何を示しているのでしょうか。この言葉だけでは当然、なんのことなのかさっぱり分かりません。

しかし、速い車が求められるということは、車を使う目的によって大きく変わってくるハズです。
例えば、0~60km/hまでの時間が早い車がほしいのか、速く見える、かっこよく見える車がほしいのか、はたまたカタログ値の馬力が高い車がほしいのか、要求はさまざまです。

設計者は、顕在的なニーズから潜在的なニーズを営業部門の情報を聞きながら、分析していかなくてはなりません。
皆様にとってはここが初耳かもしれません。「えっ!設計者がニーズまで検討しなければならないのですか?」と。

そうです。
その通り、設計者もニーズをしっかりと把握しなければなりません。

営業部門はお客様との信頼を構築しながら、潜在的なニーズの情報を入手し、設計者と一緒になって、見積を検討したり、概略の製品仕様を検討したりしていくのが仕事です。

営業マンだけでは全てを決定できません。

製品仕様などに関わるニーズ開発は設計者も実施しなければならないのです。
では、その抽出したニーズはどのように設計に活かされるのでしょうか。潜在ニーズはお客様の困りごとであり、その困り事からお客様が本当に実施したい内容が明確になってきます。
そのニーズの内容から製品に求められる機能に変換していくのです。

◆真に求められる機能


上記の内容のように顧客ニーズから「製品に求められる機能」を検討し、その「機能を実現する方式」を構築し、その「方式より得られた結果である仕様・スペック」を明確にしていきます。

その機能、方式、仕様が設計書に記載され、目標品質、性能を展開するためにQFDを使用します。
そこまで検討して初めて図面、BOMを作成することが可能
となります。

この一連のプロセスを実行するために最も重要なのは、いうまでもなく「顧客の潜在ニーズ」です。
この潜在ニーズがなければ設計できないのです。

仮にこの潜在ニーズがない状態≒顕在ニーズで設計をスタートしたとしましょう。何が起きるかというと、設計変更の嵐です。

お客様は顕在ニーズしか話していません。そのため、その情報のみで勝手な思い込みで設計をスタートしてしまうとお客様の本当の困りごとが解決できず、お客様から仕様変更の依頼が飛んでくるのです。

先ほどの自動車の例で考えますと、「速い車がほしいとは言ったが、ここまでの車両空間を殺して、乗りにくい車にしてほしいとは言っていない。」となります。

であれば、どこまで速い車で、車内空間はどれぐらいほしいのか、またなぜ車内空間が必要なのかと疑問がふつふつと沸いてくるでしょう。

このような極端な例はないかもしれませんが、お客様からの突然の仕様変更の連絡は必ず経験があると思います。
もちろん、防ぐことができない、突然使用環境が変更されたなど、内容の変更依頼もあるかとは思います。

設計者の心の中では、そんなことであれば最初に言ってよ!と思うかもしれませんが、それは潜在ニーズを調査しなかった企業側に問題があるのです。この段階でそれが分かったとしてもある程度設計が進んでいる中の変更ですから、多くの手戻りが発生します。

このように多くの手戻りが発生しないためには、最初が肝心です。
どれだけインプットの情報が正確かで、そのあとのプロセスの品質も大きく変わってきてしまいます。
 
皆さん、いかがでしょうか?
設計のプロセスや標準化などの業務効率化も必要ですが、その前にまずはインプット情報を正確にする=潜在ニーズをしっかりと抽出してみましょう。

その際にはしっかりと設計者も関わった上で検討し、そのニーズを機能に変えて、1つずつ愚直に設計内容に反映させてほしいと思います。


講師プロフィール

 株式会社A&Mコンサルト
代表取締役社長 | 中山 聡史

2003年、関西大学 機械システム工学科卒、トヨタ自動車においてエンジン設計、開発、品質管理、環境対応業務等に従事。ほぼ全てのエンジンシステムに関わり、海外でのエンジン走行テストも経験。
2011年、株式会社A&Mコンサルトに入社。製造業を中心に自動車メーカーの問題解決の考え方を指導。
2015年、同社取締役に就任
2024年4月、代表取締役社長に就任

主なコンサルティングテーマ
設計業務改善/生産管理・製造仕組改善/品質改善/売上拡大活動/財務・資金繰り

主なセミナーテーマ
トヨタ流改善研修/トヨタ流未然防止活動研修/開発リードタイム短縮の為の設計、製造改善など
※2024年6月現在の情報です

近著


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