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今後の日本の製造業が進むべき道|トヨタ流開発ノウハウ 第34回


◆一年を終える前に


皆さんは、この今年1年間はいかがでしたでしょうか?

今までにない変化があった年であり、さまざまなことを考えさせられる1年になったと感じます。
今年1年を振り返り、今後日本の製造業もしくは設計者が進むべき道を考えていきたいと思います。
 
今年はさまざまなモノが値上げラッシュとなり、多くの企業が苦労した年であったと同時に日本の製造業が世界に比べ、落ち込んでいるとの報道も多く耳にされたのではないでしょうか?

自動車であれば、EVの推進が遅れており、海外の企業から比べると消極的であると報道されています。
また、半導体市場に置いても、昔日本の半導体シェアが高かったにもかかわらず、今やシェアがほとんどないなど、ネガティブな情報ばかりでした。
 
しかし、それらの情報は本当なのでしょうか?

◆現在の日本の半導体市場


自動車で言えば、全世界にハイブリット車をいち早く量産化し、世界に広めたのは日本の自動車メーカーですし、水素関連の自動車(燃料電池、水素エンジン)も日本が先行して量産化しています。

目的はCO2削減であり、カーボンニュートラルですので、手段はどのような形でもいいわけです。
EVにはバッテリーの製造から廃棄を考えると多くのCO2を排出していますので、必ずしもEVだけがカーボンニュートラルの手段ではありません。

また、半導体市場に置いても、半導体自体ではありませんが、半導体を作る装置に関しては日本が多くのシェアを獲得しています。
この装置がなければ半導体自体を製造することは出来ません。
 
このように日本はまだまだ多くの市場で活躍できる技術を多く持っています。
これらの技術を活用し、市場へのアプローチをより上手く創出することができれば、日本のGDPはまだまだ成長できる可能性を秘めています。

日本の製造業が世界に比べて弱い部分は、「市場へのアプローチ≒付加価値の創造」であり、技術を活用し、付加価値ある製品やソリューションをいかに生み出すことができるか、この部分を強化していかなければなりません。
 
では、付加価値創造はどのように進めていくべきなのでしょうか。それらの考え方をお話ししていきたいと思います。

◆付加価値創造


1.製品の価値の定義
1)モノ造りの定義
 機能・品質が優れた商品を低コストで開発製造する

2)価値造りの定義
 その企業しかできない、かつ顧客にとって価値の高い製品を提供する
日本の製造業は「モノ造り」は非常に強いものの、「価値造り」へのアプローチが弱いため、世界のソリューションに比べると見劣りしてしまうのです。

それでは「価値を造っていく」とはどのようなことなのでしょうか。

◆価値創造

図.モノ造りと価値造りの立ち位置


モノ造りにおいて、「顧客に価値を提供する」だけでは価値造りではなく、さらに「競合他社への優位性」を保つことができるからこそ、市場全体に価値を認められるのです。

一時価値を提供できていたとしても、競合他社に対する優位性が保つことができずにすぐに真似されてしまえば、提供した価値が下がってしまいかねません。

いかにこの2つの価値提供と優位性を保つことができるかがポイントです。

これらの考え方はマーケティングのアプローチに近いと考えます。

◆マーケティング・アプローチ


2.製品の価値の定義
では、価値提供や優位性を保つために、製品にどのような価値を付け加えなければならないのでしょうか。

機能的価値とは、客観的に感じる価値であり、基本機能や仕様のことを示します。

それとは対照的な意味的価値とは、主観的に感じる価値であり、ブランドやデザイン、品質感、顧客が抱える悩みを解決する(ソリューション)価値のことです。

今の時代は機能的価値があるのは当たり前であり、意味的価値を見出さなければならないのです。
また、販売価格や原価の面でも、それぞれの価値には大きな違いが発生します。

図.機能的価値と意味的価値のコストの違い

この図から見ても分かるように、意味的価値の原価は安く、しかし、それらを販売価格に転嫁して販売することが可能なのです。

例えば、ダイソンの扇風機。

販売価格としては非常に高価ですが、よく売れています。理由は、羽のない扇風機という斬新なデザインであると共に(扇風機には見えない)羽がないために小さなお子さんがいる家庭には安心して設置することができるのです。このようにデザインやソリューションが話題となり、売れる製品となるのです。

製品は単なる鉄の塊ではありません。

使用者が必要な時に必要なものを使用し、今の暮らしをより豊かにするために必要なモノなのです。

これらの価値は、設計者が創造するべきであり、日常的な使われ方にヒントが眠っている可能性が高いのです。

顧客が使用しにくかったり、安全に使用するために製品を改良していたりなど、それらのヒントから意味的価値なのかを考え、製品に組み込んでいくのです。
 
皆さん、いかがでしょうか?

設計者でしかできない仕事である「意味的価値」の創造を来年はぜひ取り組みんでみてください。

設計者としての価値をもう一段階高めていくことができます。
 
また、最後になりましたが、今年1年間、コラムを読んでいただきありがとうございました。
来年も設計者に必要となる情報を発信していきたいと思います。


講師プロフィール

 株式会社A&Mコンサルト
代表取締役社長 | 中山 聡史

2003年、関西大学 機械システム工学科卒、トヨタ自動車においてエンジン設計、開発、品質管理、環境対応業務等に従事。ほぼ全てのエンジンシステムに関わり、海外でのエンジン走行テストも経験。
2011年、株式会社A&Mコンサルトに入社。製造業を中心に自動車メーカーの問題解決の考え方を指導。
2015年、同社取締役に就任
2024年4月、代表取締役社長に就任

主なコンサルティングテーマ
設計業務改善/生産管理・製造仕組改善/品質改善/売上拡大活動/財務・資金繰り

主なセミナーテーマ
トヨタ流改善研修/トヨタ流未然防止活動研修/開発リードタイム短縮の為の設計、製造改善など
※2024年6月現在の情報です

近著

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