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設計者が実施すべきマーケティングとは|トヨタ流開発ノウハウ 第27回


◆マーケティングに対する意識について


設計者の皆さんはマーケティングを意識しているでしょうか?

マーケティングを商品企画部門や営業部門だけが実施するべきことだと考えてはいないでしょうか?

私が考えるマーケティングとは、製造業であれば設計者も実施するべき項目が必ず存在すると思っています。

設計者がマーケティングを実施していない場合、お客様に届く商品が設計者の思い描いた使用方法になっていない可能性があります。

見込み生産(自動車など)だけではありません。受注生産の商品にも同様のことが言えるでしょう。
導入した設備が異なる使い方になってしまい、お客様が要求していた品質や性能が思うように発揮されず、クレームに繋がってしまうことが多々あります。
 
では、マーケティングの定義から考えてみましょう。

マーケティングとは、「企業および他の組織がglobalな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正
 
さらにこの内容を深掘りするためにアメリカでのマーケティングの内容も合わせてみていきましょう。

「マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである。」
引用:アメリカのマーケティング協会
 
このように「価値のある商品・サービスを創造すること」が求められており、営業や商品企画がどのような素晴らしい価値のあるアイデアを考えたとしても、最終的に形にするのは設計者であり、製造者です。この価値のあるアイデアを形にする際に設計者が具体的な使われ方などを知った上で設計するのと、設計者の考え方だけで設計するのでは商品にした時に大きくお客様満足度が異なってくるでしょう。
 
私が定義する設計者が実施するべきマーケティングは下記の3点です。

◆見てわかる

◆使ってわかる

◆使い終わってわかる
 
それぞれの内容を確認してきましょう。

◆見てわかる


営業マンが説明しなくとも、商品を見ただけで顧客が感じるポイントを明確にしていきます。
⇒感性に訴えかける部分、顧客の困りごと解決(意味的価値)など。使ってわかるにつながる部分で、見ただけで使い方が分からなければなりません。

引用:トヨタ自動車株式会社ホームページより


例えば、上記の写真のステアリングスイッチですが、説明書を見なくても、何を押せばいいのかが判断できるようになっています。ステアリングスイッチなので、ある程度絵柄で頭にスイッチの位置を記憶しやすくし、最終的には手元を見なくともスイッチが押せる状態になっています。昔は、各ボタンにボタンの意味や内容が記載されていましたが、今のスイッチは絵柄を表示し、見るだけで使い方がわかる状態になっています。

◆使ってわかる


設計者が最も気を付けて調査しなければならないのはこの部分です。実際にお客様がどのように使われているのか、またどのような環境で使われているのかをしっかりと把握しなければなりません。有名な話はアキレス社の「瞬足」という運動靴です。通常の運動靴の底面は、左右対称にスパイクが配置されていますが、瞬足は異なります。左右非対称なのです。この左右非対称に結びついたアイデアこそ、徹底的な運動靴の「使い方の観察」によるものです。

引用:アキレスホームページより

左右非対称のスパイクになった秘話がアキレス社のホームページに記載されています。子供たちが新しい運動靴をほしがる瞬間は、運動会の前など他の子供たちとの競争が発生するタイミングなのです。潜在ニーズに「他の友達よりも早く走れるようになりたい」、また「走るのが遅いから少しでも早く走れるようになりたい」という想いがあります。そのニーズから運動会の徒競走で早く走れるようになるためにはどのような運動靴であるべきかを徹底的に観察しました。都会の子供たちが狭い運動場を走りにくそうにしている姿でした。では、なぜ走りにくいのか?小学校のコーナーが小さい楕円であり、そのためコーナーでバランスを崩して、転倒する子供たちが多かったのです。この小さい楕円のコーナーで転倒しにくい運動靴を設計することが求められていたのです。商品企画では、ただ単に早く走れるようになる、転倒しにくい運動靴という定義しか出てこない場合、その内容をどのようにして具現化するのかを考えるのが設計者の役割です。徹底的に子供たちの使い方を観察し、左右非対称にするというアイデアが生まれたのです。このように使われ方を徹底的に観察しなければ、創出できないアイデアがあり、それはまさにマーケティングの一種といってもいいでしょう。 

◆使い終わってわかる


使い終わって、他の商品に変更する場合に感じるポイントを明確にしていきます。⇒廃却しやすい、リサイクル性能が高い、リセールバリューが高いなど。使い終わった瞬間も顧客にメリットを感じてもらえるようにすれば、次も同じ会社の商品を買ってもらえるようになるのです。

例えば自動車であれば・・・。

① 耐久性、信頼性が高かった!
⇒一度も故障することなく、10年間乗り続けることができた。

②中古車としての査定が非常に高かった。

このような内容でしょう。

企業にとっては次の商品も買ってもらえるということはゴーイングコンサーンに向けて企業活動を継続することができる重要なポイントです。  

設計者の皆さん、いかがでしょうか?

冒頭にも述べたようにマーケティングは商品企画や営業だけの仕事ではありません。

同じ商品でも、お客様が変われば、使用方法が大きく変わる可能性もあります。
お客様の使用方法をしっかりと見極め、お客様に満足してもらえるか?お客様の困りごとを解決することができるのか?を考えていく必要があります。


講師プロフィール

 株式会社A&Mコンサルト
代表取締役社長 | 中山 聡史

2003年、関西大学 機械システム工学科卒、トヨタ自動車においてエンジン設計、開発、品質管理、環境対応業務等に従事。ほぼ全てのエンジンシステムに関わり、海外でのエンジン走行テストも経験。
2011年、株式会社A&Mコンサルトに入社。製造業を中心に自動車メーカーの問題解決の考え方を指導。
2015年、同社取締役に就任
2024年4月、代表取締役社長に就任

主なコンサルティングテーマ
設計業務改善/生産管理・製造仕組改善/品質改善/売上拡大活動/財務・資金繰り

主なセミナーテーマ
トヨタ流改善研修/トヨタ流未然防止活動研修/開発リードタイム短縮の為の設計、製造改善など
※2024年6月現在の情報です

近著


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