モジュラー設計の運用の考え方|トヨタ流開発ノウハウ 第13回
モジュラー設計の運用プロセス
皆さんの会社では、モジュール化や標準化を検討した後、改良や変更をした場合の運用フローはありますか?
私が今、支援させてもらっている企業では、モジュール化や標準化を構築した後にこんなことが起きています。
標準化や共通化を進めたものの、次の開発時に使用出来ていない。
標準が古くなっており、クレームの対応策が織り込まれていない。そのために標準を使用すると設計変更が多くなってしまうため、使用していない。
モジュールを使用しようとしても使い方(バリエーションの選び方など)が分からない。
使用しにくい、使用しても逆に多くの工数がかかってしまうなど、使用しないための意見が設計者から挙がり、結局使用されていないのが現状ではないでしょうか。
これでは多くの工数をかけて検討した標準やモジュールが無駄になってしまいます。
標準やモジュールを構築する時には、運用やブラッシュアップ時のことも考えなければなりません。
それがモジュラー設計の運用プロセスです。
モジュラー設計の運用プロセスでポイントはいくつかありますが、ここでは重要な3点について解説していきます。
①モジュールの属性(選択部・変動部)の格上げを検討する
ある一定期間の後に、モジュールを再構成するためのプロセスです。モジュールの使用状況を確認し、選択部・変動部を再度検討していきます。
各属性の格上げの考え方
モジュールは全てが固定部=標準であることが理想ですが、様々な顧客ニーズを組み込まなければならず、標準が1種類のみの製品はほぼ存在しません。
顧客のニーズに答えつつ、効率よく設計開発を進めていくのがまさにモジュラー設計の仕組みです。その中で重要なのがこの属性の考え方です。
選択部
あらかじめ決められているバリエーションの中から部品を選択する
変動部
構造の変更はせずに、寸法の大きさを自由に変更する(個別部については②で説明します)
この属性はあくまでもモジュール化検討時の考え方であり、実際の設計案件の中で使用できる状況にあるか確認することが必要となります。
もちろん、モジュール構築時に使用する前提では考えているものの、将来どのような案件が来るかは分からない中で検討をしているため、その修正が可能かという意味合いです。
理想的な考え方は、2点です。
選択部については、設定されているバリエーションを確認した時に同じバリエーションしか使用していない、10バリエーションある中で、2バリエーションしか使用していないなど、使用している内容が偏っている場合にバリエーション選択をやめて、固定部に格上げさせる検討です。
そうすれば、設計者は迷わずに検討ができ、選択のための考える時間もなくなります。
固定部=標準モジュールですから、選択部から固定部に格上げするための対象の形状変更は必要となるでしょう。
変動部については、設定されて寸法の種類を調査した時に偏った寸法の設定がされているようであれば、あらかじめ寸法を設定しておきましょう。そうすることで変動部から選択部への格上げが完了します。
「全て固定部にしようとしているのではないか?そうすると製品のバリエーションが少なくなり、顧客のニーズ対応できなくなってしまう」という声が聞こえてくることがあります。
このプロセスは全てを固定化するためのものではありません。
市場が成長している時というのは様々なニーズが抽出されます。
しかし、ある程度成熟期に入ってくるとそのニーズは落ち着きます。その落ち着いたニーズを汲み取って、モジュールに反映させるというプロセスなのです。
落ち着いたニーズ=決まりきったニーズに時間を取られることなく効率的に設計を進めるためのプロセスであり、効率的に設計することにより、余裕が生まれます。それを②の個別部の創造に生かしていくのです。
② 開発・設計の振り返りから個別部を標準・モジュールへ組み込む内容を設定する
設計案件終了後、必ず振り返りを実施します(①についてはある程度決まった期間、1年に1回などタイミングを設定し、検討していきます)。
その振り返りで確認してほしいのが、個別部です。
個別部は「顧客の新たなニーズから新規設計した内容」になります。
このニーズが今後、トレンドとなるのか、もしくは一時的なものなのか判断を行い、モジュールに組み込む検討を行います。
トレンドになる場合、この個別部で設計した内容が多くの製品に展開される可能性が高くなります。また、市場にてクレームが発生した場合、対策を取る必要があり、その対応により新規設計する場合は必ずモジュールへの組み込みが必要になります。
振り返りの時に、モジュールへの組み込みが必要な内容を列挙し、一覧にしておきましょう。
③ 標準・モジュールへの組み込み時に使用するための判断基準を設定する
②で検討した一覧でモジュールへの組み込みを検討していきます。
この組み込みを検討するタイミングは各企業で設定しなければなりませんが、多くの企業では1年に1回で設定されています。
ただし、開発スパンが短い製品の場合、1年に1回では少なく、半年に1回など期間を短く設定する必要があるでしょう。
モジュールへの組み込みの時に重要な考え方は使用するための判断基準です。
仕様Aだからaモジュールを使用するなど、選択や寸法設定の考え方をまとめておくことです。
この検討をしないと設計者がどのように使用していいのか分からないため、結局過去に自分が設計した案件を流用して、設計してしまいます。モジュールのあるべき姿は、全ての製品開発において「過去の製品の流用を禁止!」することです。
必ずモジュールから設計してもらうためには、モジュールが使用しやすい状態でなければなりません。
皆さん、いかがでしょうか?
モジュラー設計の重要なポイントはモジュールや標準を構築することではありません。
いかに使用しやすいモジュールを構築していくか、ここが重要なポイントになります。
設計者が使いやすい、運用しやすいプロセスを構築してください。
そうすれば皆さんの将来は付加価値の創造に注力しやすくなります。
講師プロフィール
中山 聡史 |株式会社A&Mコンサルト 取締役専務 経営コンサルタント
2003年、関西大学 機械システム工学科卒、トヨタ自動車においてエンジン設計、開発、品質管理、環境対応業務等に従事。ほぼ全てのエンジンシステムに関わり、海外でのエンジン走行テストも経験。2011年、株式会社A&Mコンサルトに入社。製造業を中心に自動車メーカーの問題解決の考え方を指導。2015年、同社取締役に就任
主なコンサルティングテーマ
設計業務改善/生産管理・製造仕組改善/品質改善/売上拡大活動/財務・資金繰り
主なセミナーテーマ
トヨタ流改善研修/トヨタ流未然防止活動研修/開発リードタイム短縮の為の設計、製造改善など
※2023年9月現在の情報です
近著