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東外大言語モジュールは実質Tinder
18歳の春、私は一世一代の恋に落ちた。彼は私の人生を大きく変えた。彼と出逢わなければ私は今いる場所にはいなかっただろうし、ここで出会った人達とは知り合わなかっただろうし、何よりきっと死ぬまで心の中の大事な何かが満たされないような気持ちのままだったと思う。
私のことをよく知ってくれている人なら既に分かってると思うけど、そんな運命の「彼」というのは人間ではない。ドイツ語だ。
ドイツ語くんは第一印象こそお堅くて取っ付きにくいかもしれないけど、知れば知るほど実は意外と柔軟性もあったりして優しい一面も見えてくる。ドイツ語くんは形容詞を副詞として使っちゃったりするお茶目な一面もある。かわいい。(副詞的形容詞については詳しくはこちらからどうぞ)
前にもnoteで書いた気がするけど、ドイツ語を学び始めたばっかりの私を見た0歳から大学まで一緒の幼馴染みには「水を得た魚のようだ」と形容されたし、私自身も「今までの人生で欠けていたのはこれだったんだ!」と確信していた。結局好きすぎて大学四年で休学してドイツに行ったし、帰ってきて書いた卒業論文は私にとってはドイツ語くんへの愛を綴ったラブレターだった。口頭諮問で教授に「あなたのドイツ語への愛がひしひしと伝わってくる」と言ってもらった時は嬉しくて泣くのを我慢するので必死だった。卒業してすぐドイツに戻ってきてもう早三年になる。
何らかの形でドイツ語くんと添い遂げたい、というのが出会ったあの日から私の人生の目標だし、今でもふとした瞬間にドイツ語に囲まれているのが日常になってる現状が幸せすぎてこっそり泣いたりするくらい、彼のことは大好き。
ただ、恋愛というのはえてして時を経るごとに熱量は失われていくものである。熱量と反比例して穏やかな気持ちや信頼感が増していくわけだけど。
こう思ってしまうのは人間のさがではないだろうか。「出会ったあの頃の刺激がほしい。」
私もそういう欲望が抑えきれなくなって、数日前から浮気をしている。相手はスペイン語くんだ。
私のことをよくよくよーーく知ってくれている人なら思ったことだろう。「ええっ?!今までのカレとは全然タイプ違うじゃん!」と。
そう、今まで私は主にゲルマン語派の言語たちと知り合ってきた。本気の関係はドイツ語くんだけだけど、オランダ語とかノルウェー語とか。あと英語もか。
フランス語を大学時代に二年間やったこともあるけど、ウマが合わなさすぎて全然身に付かなかった。一応単位は優を取れた覚えがあるけど、今となってはほとんど何も頭に残っていない。
そんなロマンス語派と相性の悪い私がスペイン語だって?!?!と、自分でも驚いている。
言語をかじるものとしては、スペイン語はいつかやらなくては、とは前々から思っていた。そしてゆくゆくはラテン語もやらなくてはと。ただ「うちの大学ではスペイン語はなかった」「卒業後、優先順位的に語学学校に通うほどではなかった」「相性が悪いのが分かりきっているので腰が重い」などの理由により後回しにしてきた。本当は今アイスランド語の方が勉強したいけど(笑)
ただ色々なご縁があって、スペイン語をやるなら今だ!!というタイミングがついにやってきたので学び始めた次第。
皆さんは東京外国語大学言語モジュールというサイトを覗いたことがあるだろうか。全27言語が学べる言語好きには堪らないサイトである。
専門的なことやニッチな文法事項を調べるためには足りないけど、いろんな言語と「はじめまして!」と出会うには最高のサイトなので、まだ利用したことのない方は是非ともチラ見してみてほしい。東外大言語モジュールは実質言語とのマッチングアプリ、Tinderなので。
スペイン語の教科書を買おうとは思っているけれど、当然ドイツ在住の私はドイツ語で書かれたスペイン語の本を買うしかない。そこで、やはり母語でよりよく理解するために、購入に先立ちこの東外大言語モジュールでスペイン語くんと知り合ってみることにしたわけだ。
まだ勉強を始めて三日目なのでめっっっちゃくちゃ初歩の初歩しか知らないんだけど、自分の知識の整理のためにも、今日は「スペイン語くんのここが好き」「スペイン語くんのここはちょっと……」ということを書いてみようと思う。ここまでは全て前置きです。(長かったね!)
あっ、念のため言っておくけど、これから書くことは決して特定の言語が優れているとか逆に劣っているとかいう主旨じゃないからね。言語はすべからく美しい。ただ人間関係において「この人性格合うなあ」とか「この人とはうまくやってけなさそう」とかってどうしてもあるよね。そういうことを書くだけだからね。
まずは、私がスペイン語くんのここはちょっと……と思う点。
1)C,Gの発音がややこしい
ca, cu, coはカタカナでいうところのカ行なんだけど、ciとceは英語のthの音(前歯の間から舌をちょっこり出すアレ)になる。
じゃあキとケの音を書きたいときにはどう表記するか?答: qui、que
じゃあじゃあクィ、クェの表記は?
答: cui、cue
なんじゃそりゃ!!
同じ問題がガ行でも発生。
ga, gu, goはガ行だけど、giとgeはドイツ語のchの音、無声軟口蓋摩擦音になる。
スペイン語はiとeに恨みでもあるん???
そしてギ、ゲを書きたいときにはgui、gueと表記する。そうなるとグィ、グェの音は?
答: güi、güe
このスマイリーマークのような文字、ドイツ語学習者にはお馴染みだけど、スペイン語ではこのgüi、güeの表記にしか使われないらしい。なんでなん????
しかもさ、thの音とかchの音をこの表記でしかできないならまだね、まだこの遠回りな道もグッと堪えられるってなモンだけどさ、ちゃうねん。あるねん。
thの音: z
chの音: j
……いやあるやん!あるんやん!じゃあなんでなん?なんでなん!!!???
ま、日本語でもタ行がta, chi, tsu, te, toだからひとのこと言えないんだけど。
でもüそこでしか使わんならさ?chの音はjだけに担当させてgui、gueはギ、ゲにしてüは廃止しよう!とか言い出す人は今までおらんかったんかな??それとも私がビギナーすぎるだけでこれからなんらかの「ああー!だから必要なのか!」という瞬間がやって来るのだろうか?ワカラナイ……!
2)連音
フランス語を勉強した時にも苦しんだこいつスペイン語にもいます。超カンタンに言うと、単語と単語を区切らず続けて言うというもの。
例えば、un amigo(英: a friend)をウン/アミーゴと区切って発音するのでなく、ウナミーゴとくっつけて発音するの。
これ初心者にはすっっっっごくキビシイよね?!例文の音声聴いても連音のせいで流れるように過ぎ去っていくし、速いし、不親切!!と思ってしまう。
ドイツ語でも連音になるところはあるけど、それはなんというか結果的にくっついちゃってるってだけで、ルールにされるとまたなんかちゃうよね。
3)目的語が動詞の前に来ることがある
これは英語やドイツ語に慣れきってる自分のせいっていうだけの話なんですけど……
例えとして英語に置き換えて書くと、(I)《meet》《Maria》という語順が、目的語のMariaを代名詞で書く場合には(I)《her》《meet》という順番になっちゃうという。
ええーーー順番かわっちゃうのお?!!どっちかにしてよお!!!!
主語が( )なのはスペイン語では動詞の形で主語が分かるから基本的には省略されるからです。ちなみにドイツ語でも動詞の形である程度主語わかるけど、主語が省略されることはほぼほぼない。そういう頭でっかちなところも好きだよ、ドイツ語くん。
4)形容詞が名詞の前に来ることがある
これも3)と同じく語順シリーズ。スペイン語は基本的には形容詞が名詞の後に置かれるんだけど、たまに前に来ることもあるよという。
現代の英語だと逆に基本的には形容詞は名詞の前で-thingの場合は後にくるよね。something coldみたいな。統一してくれ!!って思っちゃう。
5)英語でいうbe動詞が二つある
英語のbe動詞やドイツ語のsein動詞がスペイン語ではserとestarの二種類にわかれていて、使い分けないといけない。
ser: 永続的な状態や本質、性質を表すとき
estar: 一時的な状態や様子を表すとき
という使い分けが書いてあるのをみたけど、実際に練習問題を解いていってると「なんでこここっちやねん!!」と喚き散らしたくなることが多々ある。精進せねば。
おつぎは私がスペイン語くんのここは好き!と思うところ。
1)黙字がほぼない
黙字、つまり綴りには入ってるのに読まない文字。英語のknowのkとかのこと。
スペイン語ではhは読まないけどそれ以外は書いてある文字はほぼ全部読んでいいっぽい。少なくとも今のところはそういう認識をしている。
この点に関してはマジで大好き。サイコー。フランス語勉強してて単語末の子音はほぼ発音せんって言われた時はブチギレたもんなあ……。英語のワケのワカラン綴りにもウンザリしてたし。caughtとか。は????じゃん。
2)冠詞が格変化しない
冠詞というのは例えば英語でいうところのaとかtheとか。格変化っていうのはIとかmyとかmeとかそんな感じ(匙を投げるな)。
英語ではaは文中のどこにいてもaだしtheもどこにいてもtheだけど、ドイツ語だといろんな姿に変身しちゃう。まず男性名詞にくっついてるのか女性名詞にくっついてるのか中性名詞にくっついてるのか、そしてそれぞれ四つずつ格によっての変身モードがある。
定冠詞(英: the)に関しては複数形にもくっつくのでそのための変身モードもある。
スペイン語には名詞の性による区別はあるけど格による変化はどうやらないらしい。
ただこれは私的には「ちょっと物足りない」とも言える。オランダ語やった時も同じことボヤいてた覚えがあるな。
3)中性名詞という概念がない
ないっぽい。今のところは。この名詞の性とかいうやつはホントに意味不明で厄介なやつなので、男女中の見分けがつかないといけないドイツ語から男女の見分けだけでいいスペイン語にやってくるとほんの少しホッとする。
現時点ではこんな感じですね。「う~ん、相性悪いなあ」と感じつつも大きな喧嘩はせずなんとかやっていけそうかな?という印象。フランス語がトラウマなのでその記憶と比較すると穏やかでいられる。
スペイン語勉強してると毎分くらいの頻度で思うことがある。それは「ドイツ語くん、愛してる!」ということだ。浮気をすることで本当に好きなのが誰かを痛いほど実感するなんて、皮肉な話だね!
とはいえ(第二外国語として)はじめて出会った相手が運命の人だなんて、なんともロマンチックな話じゃあないか。
ロマンス語派は苦手な私だけど、ドイツ語くんとのロマンスなら大歓迎。
追記
スペイン語できる方、間違ったこと書いてたらご指摘くださいませ。