I can't go back to where I used to be!
2021年ももう約半分が過ぎて、私の住むドイツにも美しいけれど茹だるような暑さの夏がやって来ようとしている。
2020年から今年にかけて、私は「自分を取り戻す旅」に出ていた。過去形なのは、取り戻すプロセスはもうほとんど完了したと言っていいと思うから。今は、もっと素敵でわくわくするような自分に出会う旅に出るプロセスにさしかかっていると感じてる。
取り戻す旅というからには失った時期のことも書くということなので、読んでいてあんまり気持ちのいい話ではないかもしれないし、人によっては自分の思い出したくないことと被って苦しくなってしまうかもしれないから、そうなる前にブラウザバックなりなんなりで回避してね。
ドイツに来てから数年間、特に2019年は、それまで自分だと思ってた像をどんどん失って、というか見失って、迷子になった日々だった。
ドイツに来てすぐは、友人はおろか知り合いも一人もいなくて、職場では他人の噂話や悪口でしか盛り上がれないような人たちが溢れていて、仕事は軍隊に入ったのかと思うくらいしんどくて、大学で専攻した大好きなドイツ語でも壁にぶち当たる毎日で、思い返せば孤独で空虚な時期だった。
知り合いや友人がちらほらでき始めて、副業として好きなことを始めたり、お付き合いしてた人と同棲し始めたり、一歩ずつこちらで足場を固めていった。
と、思っていたけど、今から思えばまだ足場の足場くらいだったのだろうし、選択を間違えたり自分で自分の首を絞めたりしたこともたくさんあった。
ターニングポイント1。最初の転職。
それまではとりあえず日本からドイツに飛び込むためにジャパニーズレストランで働いてたけど、もちろん体力仕事だし安月給だし心も身体もへとへとで、きちんと物事を考えることも、考えられたとしてそれを実現するためのお金もなかった。ひょんなことから日系企業に転職できることになって、契約書にサインをした瞬間に心が決まった。
当時お付き合いしていた人と同棲していた家から夜逃げした。実際には夜逃げというにはまだ明るい時間帯に逃げたのだけど。何食わぬ顔で家を出て、会社のトイレから友人に電話をかけ、「助けて」と伝えた。
あんまり人様に話すことでもないしと思って数人にしか話していなかったけど、当時付き合っていた元彼は典型的なモラハラ男で、自分の機嫌を損ねると暴力を振るうタイプでもあった。
その時の私はというと、いつのまにこんなところに来てしまったんだという後悔や逃げられない!という焦燥感をどうにか正当化しようと(今から思えばという意味で、当時は後悔や焦燥感を認識できてもいなかったのだけど)何がどうなったのかそのモラハラ男と結婚しようと考えていたこともあった。追い詰められた人間の思考回路は本当に突拍子もなくて読めない。周りにもしもそういう人がいたら、お願いだから根気よく説いてあげてほしい。
親にもそう言って、結婚祝いをもらってしまったりと、自分で決めたはずなのにどんどん自分の逃げ道を絶っていって、雁字搦めになって「やっぱりこれが正しい選択なんだ!」と思い込もうとしていた。
転職ができるかもしれないという時期に、Twitterで日本の友人の新婚生活の様子を見て、「このままだと私はこの友人とそのパートナーさんのような結婚生活は送れないだろうな」と、不思議と突然目が覚めた。
家にいて、相手が階段をのぼる足音や鍵を開ける音が聞こえると動悸がするなんて、これは愛ではないのだなと、ようやくだけど唐突に気がついた。
その数日後に正式に転職が決まって、お金の心配もなくなった。私は最後にもう一度お互い納得して別れることはできないかと、何時間にも渡る別れ話を試みた。結果はやはりボコボコにされて、とにかく死なずに今晩を乗り越えれば朝が来るし、新しい朝が来ればどうにでもなると覚悟を決めて、その場では元彼に従って、別れるのを諦めるフリをした。死なずに、殺されずに朝さえ迎えられればこっちのもんだと耐え忍んだ。その日は一睡も出来なかった。
朝になって出勤して、友人にSOSを叫び、夕方帰宅して友人の家に一晩泊めてもらうことになった。とりあえずの荷物を詰めたキャリーケースひとつで友人宅に向かった。友人の計らいで仮住まいを確保でき、そこからしばらく会社に通った。
どうしてこんなことになるまで逃げられなかったんだろうと自分を責めたりもしたけど、夜逃げを手伝ってもらった別の友人に、「あなたが自分で逃げ出していなければ私が無理矢理にでも引っ張り出してたけど、どんなタイミングであれよく自分で気付いて自分で逃げ出してくれた!」と褒めてもらった。私はつくづく友達に恵まれている。
転職先の会社では、仕事は楽しいし同僚とも仲が良くて、平均するといい職場だったと思う。ただ一点、直属の上司がパワハラ上司だったことを除いては。
パワハラ?パワハラだったのかすら分からない。
何かをする前に聞けば「自分で考えろ」、自分で考えて動けば「なんで聞かなかったんだ」、何かをしなければ「お前は何の役にも立ってない、私の仕事を増やすだけ」、何かをすれば「余計なことをしやがって」。
極め付けは、上司があまりに理不尽なことを言うもんだから「理解ができません」と言うと、フロア中に聞こえるように私のドイツ語力を罵られた。「お前のドイツ語はほんっとうに酷い!ドイツ語も英語もそんなにできなくて、私はどうやって教えればいいんだ?!」。いや、日本語だったところであなたとはコミュニケーションが取れていたとは思いませんけど……とは言えず。
ドイツ語が好きでドイツに来たはずだった私は、ドイツ語を話したり書いたりする度に罵られるものだから、いつのまにかドイツ語を使う場面になると動悸がして、冷や汗が出て、手足が震えるようになってしまった。
ターニングポイント2。そんな日々の愚痴をTwitterに書いていたところ、それを見ていた大学時代の先輩から突然DMをいただいた。それが本当に本当に嬉しくて、自分のカケラを取り戻す大きなきっかけのひとつになったので、内容をかいつまんでここに書き記しておきたい。
「無理だと思ったら逃げられるパワーのあるうちに逃げて欲しい。ここで踏ん張っても逃げても、あなたは変わらず聡明で勇気のある素敵な人だよ。」
先輩、あの時は本当にありがとうございました。あなたのおかげで私はメラメラと、最後までパワハラ上司とファイトする闘志を燃やすことができました!!
結局そこは契約満期で一年半で円満退社した。最後の日にはみんなが声をかけてくれて、「よくあの人のもとで頑張った!」と褒めてもらえた。私の部署はその上司と私の二人きりだったから下手に外から手出しはできなかったけど、私のせいにされたミスや罵られてた内容も、全部正当なことではないとみんなわかってくれていたようだ。
そしてターニングポイント3。これはそのパワハラ上司に苦しんでいた真っ只中に同時進行で起きたことだけど、今お付き合いしてる恋人と出会った。
私をちゃんと見ていてくれて、対等に話し合いをしてくれて、尊重して、言葉を尽くして、慈しんで褒めて愛してくれる、最高の恋人。私のTwitter(リア垢)を見ている人ならうるさいくらい聞かされてると思うけど、まじで何度でも言わせて。最高なんです!!!!
間違った選択をして元彼との生活の中でボロボロになってしまったけど、それを踏まえてこの人と出会えたんなら結果オーライかもなとすら思える。死なずに生き残れてよかったー!!お水飲んだらうめー!YATTA!!
彼のおかげで、自分が殴られていいような、罵られていいような、そんな人間じゃないことを思い出せた。というかそんな人はこの世に存在しない。
恋人と付き合い始めた頃、ユペチカさんという漫画家さんの作品の「私 もとの私になれそう」というセリフを読んで、共鳴してぐわんぐわんに泣いちゃったんだけど、1年経った今、その通りになった。びりびりのボロボロでぐちゃぐちゃだった私から、元の私に戻れた!
(その漫画はここから無料で読めるよ→
https://www.ur-net.go.jp/chintai/sp/college/202003/000495.html)
恋人と出会って、粉々になってあちらこちらに散らばってしまったハートのかけら(ゼルダの冒険のイメージ)を集めて、息ができるようになって、意味もなく動けない日も意味もなく涙が出る日もどんどん少なくなった。そのうちドイツ語を勉強する余裕が生まれて、2020年の末にはドイツ語を始めてからの10年間で最大の目標であったC1というレベルのテストに合格できた。
恋人が私の心の支柱になってくれなければ、そもそも受験してみようとすら思わなかったと思う。
私は愛を咀嚼して生命活動を行う生き物だったのだとついに思い出せた。
そして、「自分を取り戻す旅」でのターニングポイントその4。2021年4月に入った今の職場。もう、もうね、ほんとに今の会社だいすき。何が好きって全部好きなんだけど、やっぱり一番は人間関係!今の会社の人、みんなきちんと話を最後まで聞いて受け止めてくれるし、私が初歩の初歩みたいな質問しても「そんなことも知らないの?」と(思ったとしても)言うことなく、どんな質問でも「いい質問だね!」とまず言って、それから丁寧に指導をしてくれる。私が仮に間違ってしまっても、どう考えてそこに至ったかを聞いて、じゃあ次はどうすればいいか?を一緒に考えてくれる。絶対みなさん忙しいのに、どんなに忙しくても私が質問をしたくて声をかけたら嫌な顔一つせず助けてくれる。「一度で覚えようとしなくて大丈夫だよ。何度でもきいてね、何度でも説明するから!」と言ってくれる。どんなに小さな当然のことでも、なにかできたら必ず褒めてくれる。
話してる時に文法ミスをしても笑ったり罵ったりされないので萎縮して緊張する必要がなくなって、ドイツ語力も英語力もぐんと伸びた。もちろんまだまだペラペラには程遠いんだけど、先週あった嬉しかったことを自慢させて。
ドイツ語でクレームを入れないといけなくて、ちょっとややこしい状況説明をした上に返金依頼をするメールを書くことになったんだけど、日本語でも説明が難しいような内容だしさらにキッチリした文面でないといけないわけで、書き終えた後ドイツ語ネイティブの同僚に念のため添削を頼んだの。そしたら返ってきたのは「完璧。直すところがない。このまま送って!」の言葉。ここ数年で一番のガッツポーズをしたよね。
Twitterで新婚生活を投稿してくれた友人、ありがとう!あなたのおかげで目が覚めました。今でもあなたは私の目標の、理想のご夫婦のうちの一人です。
結婚祝いまでもらっておいて、「別れることになった」と電話で震えながら話した時、理由も聞かず「渡したお金は就職祝いだから、気にせんでいい!」と笑ってくれた父親、ありがとう。おかげですんでのところで引き返すことができました!
近くにいる友人や恋人や、日本にいる友人や家族や、会社の同僚上司のおかげで、私、自分を取り戻す旅をそろそろ終えられそうです!みんな、本当にありがとう〜〜!!
もしもあなたたちに何かあって、私で力になれることがあったら、躊躇わずに遠慮せずに声をかけてほしい。大したことはできないかもだけど、絶対に駆けつけるので!コロナのこともあるし距離もあるので物理的には無理かもしれないけど、パワハラ上司に苦しめられて鬱一歩手前だった時にDMをくれた先輩みたいに、心の中で駆けつけるから!絶対に!!
冒頭でも言った通り、これから私は「もっと素敵でわくわくするような自分に出会う旅」に出かけます。また間違った選択をしそうになったり落ち込んだりめそめそしたりするかもしれないし、みんなに助けを求めるかもしれないけど、その時はよろしくね。
In meiner Welt fängst du ein neues Leben an.
Hier hörst du niemals "nein", hier kann dir keiner deine Träume nehmen.
ドイツ語版のホールニューワールドの歌詞はやっぱりサイコー!