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【解説】ゴールドマン・サックスとふくおかFGの戦略の共通点(イノベーション編)

いきなりアメリカの投資銀行と日本の銀行。比べることに意味があるのだろうかなんて思っている方たちもいらっしゃるだろうが、少しお付き合いいただきたい。

とても不思議そして苦しい2020年を終え2021年に入ったものの残念ながら不思議さも苦しさもあまり変わらない。そんなところで

・2021年は今までとどんな違うことをしたら良いのだろうか?
・こんな苦しい中イノベーションなんてどうやって進めたらよいのだろう?

などと思っている金融もしくはフィンテック、さらには他の業界の方でも少しでもお役に立てればということで書いてみることにする。

両利きの経営への執着

さていきなり結論から書いてみよう。ゴールドマン・サックスとふくおかフィナンシャルグループの戦略の共通点は両利きの経営への執着である。その執着こそがイノベーションへの最短の近道である。両利きの経営について学んだことがない方は是非以下の2冊の本を選んで読むことをお勧めする。

両利きの組織をつくる」は両利きの経営について最速で数時間でなぜ必要なのかまた色々なコンセプトなどを学ぶことができる。

ただ実際に自分で両利きの組織を作ろうというのであれば、こちらの「両利きの経営」がおススメである。実際の成功例、失敗例や必要なリーダーシップ、組織のデザインの手法などとても参考になる。

学んでいただければ・読んでいただければ分かるが「両利きの経営」はコンセプト的には理解しやすいものであるし納得しやすい、ただし実践するのがなかなか難しいのである。長期的な成功のためにイノベーションの「探索」のリソースを割いておかないといけないのはわかるが、多くの場合で現在収益を上げている「深化」のビジネスにリソースをほとんど向けてしまうのが現状である。この問題というのはかの有名な「イノベーションのジレンマ」で良くまとめられている。特に2020年・2021年など多々のビジネスが収益を上げることに苦しんでいる状態では特にその傾向が強い。

しかし「両利きの経営」においては

・現在収益を上げている事業ユニット(「深化」のユニット)とイノベーションのユニット(「探索」のユニットを)を分離させることがイノベーションを成功させる鍵である。
・そして事業ユニットには無理な急速な成長などを期待しない。スケールのあるビジネスの「深化」を目標とする。
・イノベーションのユニットには急な収益などを期待しない。事業ユニットとは違うKPIで成功を計らなければいけない(収益のみで計ってしまうとイノベーションユニットが事業ユニットにつぶされたり、飲み込まれたりしてしまう)
・違うKPIで成功を計られているため少数派のイノベーションのユニットのために他と違う枠組みを作る必要性も出てくることがある。必要であればイノベーションのユニットには別の人事評価のプロセスなども検討する

ただしそこまでの「分離」をしていながらも事業ユニットとイノベーションユニットをリーダーシップチームの直下に置き、幹部が監督・支援をしなくてはならないという「統合」の仕組みも必要であり、「分離」と「統合」という矛盾が認められ共存できる組織を幹部たちがどのように作り・サポートできるかということが成功には必須となる。

繰り返しになるが言うは易し行うは難しである。例えば実際の組織などでよく見る絵が

・収益を上げていないイノベーション部を見下す幹部
・はるかに収益を上げている事業部の下にイノベーション部を付けてしまう組織
・イノベーション部といっても事業部と兼任の人がほとんどで、実際のイノベーション的なプロジェクトには集中していない
予算や共通のリソース(オペレーションのリソースやマーケティングのリソースなど)などは収益を上げる事業部のプロジェクトに集中しがち
幹部の時間なども事業ユニットに集中しがち
・イノベーション部が早く動きたくても、レガシーのシステムや早く動けない組織の壁に阻まれて動けない

どうだろう?ちょっと耳が痛いのではないだろうか?では挙げている2社の金融機関がどのように「両利きの経営」に執着をし、イノベーションを可能にしているかを見てみよう。

ゴールドマン・サックスのリテールへのアプローチ

ゴールドマン・サックスの両利きの経営が外から明らかに見えるのは、当社が2015年あたりからリテール事業をスタートした時である。当社のリテール事業とはアップルとのクレジットカードであったり

一般消費者向けオンライン融資プラットフォーム「マーカス」を展開しているユニットである。

伝統的な投資銀行の中に今まで存在しなかったリテール部門を作るので当然大ごとである。両利きの経営でいう「探索」のユニットとして構築され、オフィスのスペースも全く別のスタートアップ的なテーマの区画を作り、必要な組織の「分離」を提供して進めている。当時このユニットをどのように育てたかが2017年のマーカスのユニットのCEOであったハリット・タルワーのインタビュー(英語)からある程度伺える。

いくつかの大事なポイント(意訳)。

・147歳の大企業の中にスタートアップを作ろうとしている。
・スタートアップなのでほとんどの人はジーンズなどのカジュアルの洋服で仕事をしている。(注、ゴールドマン・サックスが全社的にドレスコードをカジュアルにしたのは2019年なので2017年の時点ではこの部門のみが特別扱いでカジュアルである。)
・プラットフォームをゼロから新しく作り上げた。ミドルウェアも自分達で作った。フロントエンドの技術などに関しては知的財産権も持っている。

ゴールドマン・サックスはこのハリット・タルワーを2015年にDiscoverから雇っているが、ゴールドマン・サックスで最高のタイトルである共同経営者(パートナー)として雇うことでも上に述べた「分離」を可能にしながらも「統合」もする両利きの経営に必要な組織の中での「矛盾」を可能にしている。繰り返すがこの「分離」と「統合」を組織の中で存在させる「矛盾」を認められる組織を作るのが大事だが難しいのである。違うスピードで違うゴールを目指している「深化」と「探索」のユニット両方にリーダーシップが注意を払いリソースを提供しながらも必要な距離感を保たないといけない。

ただ、どこの組織の内部また外部にもこの両利きの経営を理解していない邪魔というのは出てくるものである。そんな例が以下の記事で、早速外野から新しいユニットが損失を出していることに集中し「探索」のユニットに急な収益を求めている、という具合である。

ただその記事の中でも書かれているハリット・タルワーの言葉が以下。

スニーカー姿で同部門を率いるハリット・タルワー氏はある時、こぎれいなスーツにきっちりネクタイを締めた英国人のジュリアン・ソールズベリー氏をからかった。目撃者によると、「ありがとう。僕たちが使っているカネは全部君たちが稼いでくれている」と言っていたという。

「探索」のユニットの長が収益を出している業務の「深化」ユニットにこのようなジョークを言え、それを組織として認められるのは根気をもって「探索」に励んでいるということではないだろうか。

ゴールドマン・サックスのトランザクション・バンキング

そしてリテールでの経験をもとに今度はトランザクション・バンキングの分野でもプラットフォームを1)クラウド・ネイティブ 2) APIを基本にまたゼロから作り上げ、銀行ライセンスを持ったBanking-as-a-Service (BaaS)のプラットフォームを展開している。

そして今日でもゴールドマン・サックスの「探索」は続いており、マーカス、Apple Card、トランザクション・バンキングが株主への手紙からも読み取れる。

5年以上にわたり10%台半ば以上の利益をあげるという目標は、マーカス(Marcus)、Apple Card、トランザクション・バンキングなどの新規事業やテクノロジーへの投資が実を結ぶことで達成できると考えています。

ふくおかフィナンシャルグループの場合

何を隠そうこのnoteを書こうと思った理由というのは金融庁主催の「Re:ing/SUM x 日経地方創生フォーラム in 広島」でのふくおかフィナンシャルグループ 取締役副社長の吉田泰彦氏のプレゼンを見たからである。素晴らしいことに今もビデオが公開されている。

こちらのプレゼンで当社の両利きの経営のアプローチを惜しげもなく公開している。

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こちらのスライドにも
コア事業の磨き上げ:「深化」する事業ユニットであり、後ろの青いグラフを見ても現在収益が大きく、緩やかにそれが増えることが表現されている
新しい取り組みへのチャレンジ:「探索」するイノベーションユニットであり、後ろの青いグラフでも小さな収益からスタート、ただ長期的には大きく伸びる姿が表現されている。

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こちらのスライドでは既存銀行の「深化」をしながらビジネスモデル刷新の「探索」のプロセス、そしてそこはゼロベースでの設計をするみんなの銀行のアプローチが記されている。このゼロベースでの設計というのはゴールドマン・サックスがリテールビジネスやトランザクション・バンキングに取ったアプローチと同じである、というのをご理解頂けるだろうか。

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そしてこの「探索」イノベーションのユニットであるiBankでは

・別会社
・本社と違うところに設置
・異業種からの人材

など組織の「分離」をし、ゼロベースでのビジネスモデルの構築に突き進んでいる。その執着した「分離」をしながら最初のスライドのように「深化」のユニットと「探索」のユニットを完全に同列に並べ組織としての「統合」をしており、分離と統合の矛盾を可能にしているのである。「探索」ユニットから「深化」ユニットへの人材の異動なども考えているというところも更なる統合である。

話している吉田泰彦氏もとても良く分かり易く話しており本人に対してこの内容が腹落ちしているというのがうかがえる。とても面白かったので是非多くの人に動画を見てほしい。やはりリーダーが理解してコミットしてこそ「分離」と「統合」の矛盾を認められる両利きの組織を作り、イノベーションを推し進めることが可能なのである。今年スタートのみんなの銀行の動きは注目していきたい。

まとめ

どれぐらい深く分かりやく書くのか、それとも読みやすいように短く書くのかとても悩んだトピックではあるが、現在テクノロジーを活用してのイノベーションが必須な金融での両利きの経営の必要性、そして執着ともいえるほど徹底してそれを行っているゴールドマン・サックスとふくおかフィナンシャルグループの共通点が見えただろうか。

他の金融でも当然同じようなアプローチは大事だし、できなければ生き残るのが難しいかもしれない。特に情報銀行の世界などに飛び込むためには、「探索」ユニットをとても上手に作らないといけないし、その「探索」ユニットを長期的に育て結果を出すのはさらに難しい。そしてそのアプローチの必要性は保険の世界なんかでも同じである。両利きの経営を理解した組織でこれからもどんどんイノベーションを見るのが楽しみである

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