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【73歳父の小説】あのころ④キュウシチのころ

73歳になる父親が趣味で小説を書いている。

ちょこちょこいろんな賞に応募したりしているようだが、なかなか多くの人に読まれていないようなので、せっかくなので私がnoteに置いてあげることにした。

あのころシリーズはこちら


あのころ④キュウシチのころ ポール守谷(著)

「キュウシチ」とか「キュウハン」とか「トモン」とか。
これは町の靴屋さんでの、運動靴選びの時の会話でした。
「今までキュウハン履いてたから、もうキュウハンではつまい(きつい)かな?」
「うん、ちょっと爪先が痛えなア。」
「そんなら、キュウシチ履いてみ。」
それこそ極たまに、そう運動会の前とか遠足の前で、今履いてる運動靴がボロボロか又は体が大きくなり足も大きくなりサイズが合わなくなった時に限り、買ってもらえるという貴重な瞬間なのでした。

「キュウシチだと爪先、ちょい余って足痛くねえよう。」
「じゃあキュウシチにするかな。だけど直ぐ足デカくなっつてなあ。トモンにしとくかなあ、トモン履いてみて。」
言われるままに履いてみる。
確かにゆるゆるで爪先が1センチ程隙間ができる。
靴の爪先を外から押してみて確認します。
「今緩いけんどじきにでっかくなるから爪先にゃあ綿詰とくかなあ。」
成長期なので足もすぐ大きくなり、大きめの靴を買って使っていて足が大きくなったら、靴の詰め物を外して履こうという、合理的な方法を用いようとしました。

靴のサイズの表示が現在のようなメートル法表示でなくて。
「文(モン)」を使っていたのでした。
一モンと言うと一文銭の直径と同じ長さです。
キュウハンと言うと、一文銭9つと半分を並べた長さということになります。
お店で売っていた靴に9.7とか9.5とかの様に文数で表示されてたか、それとも21センチメートルと表示してあるものを馴染みの文数に換算してトモン(十文)と言ってたかは定かではありません。
何れにしても母もお店の人も「キュウシチ」「トモン」とサイズを示す言葉として使っていました。
足袋もサイズの表示が、こはぜと言う足袋の平たい留め金がありますが、そこに「9.7」とか「9.5」と印字されてました。


73歳父の小説シリーズはこちらにまとめてあります。

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