Jiraの「課題」っていう用語が廃止!?どのような影響があるのか解説
この記事はAtlassian Advent Calendar 2024に参加しています。
みなさんこんにちは!
Genです。
12月に入り、皆さんは今こんな気持ちかと思います。
”え、もう今年終わるの?今年何ができたかな?やり残したことないかな?
え、え、
時間が経つのが早くなっている気がする”
はい、これは私の感想です。えぇ。
「師走」という言葉のように、年末に向けてドタバタするかと思います。
落ち着いて2024年を走り切りましょうね!
さて、今回のテーマは先日発表されたJiraの大幅アップデートについてです。
Jiraの機能アップデート:「課題」の廃止!?
Team’24 EuropeでJiraの機能における大幅なアップデートが発表されました。
その中の一つにこんな変更が。
そうなんだ。「課題」っていう呼び方やめるんだ、へぇ。
…ん??
「課題」の廃止!?!?!?!?!?!?
ええええええええええええええええええええええええええええ
「課題」という呼称は何に変わるの?
どうも「Work」という用語になるらしい。
これ、日本語でどのように訳されるのか(作業?ワーク?)は結構大事な所だと思います。理由は後述します。
ちなみに、以下のAtlassian Community 記事のスレッドの中に書いてあったんだけど、20 年以上前にJiraの最初のドイツ語翻訳を作成した方が、Jiraが単なる問題追跡ツール以上のものであることに気付いて、「課題(Issue)」のドイツ語翻訳を「プロセス」「ファイル」「書類」などと訳される「Vorgang」という表記にしたなどのエピソードもあるらしいですよ。
この変更結構すごくね?
まじか、この変更はかなり大きいよ?
「呼び方が変わるだけで大したことないじゃん」と思うかもしれませんが、
JiraユーザーやAtlassian関連の開発者/コンサルタントにとってこれはおおごとなのです。
どのような影響があるのか解説していきます。
なぜ課題というキーワードが重要なのか?
その①:ユーザービリティへの影響
これまでずっとJiraの管理単位だった
Atlassian製品においてあらゆる操作で出てくる基本用語
Jiraを使っている人にとって、「課題」という言葉はおなじみですよね。
長い間、Jiraではタスクやチケットのことを「課題」と呼んできました。プロジェクトの管理やタスクの追跡、他のAtlassian製品との連携など、何をするにしても登場する超基本的なキーワードです。でも、もしこの「課題」という呼び方が変わるとしたら、ユーザーにとってどんな影響があるのでしょうか?
「課題」がこれまで持っていた役割
Jiraでは、「課題」という用語を通じて情報を整理し、管理・追跡ができるような仕組みが提供されています。たとえば、解決すべき事項、実装内容、完了すべき項目を「課題」として扱い、その課題にタイプ(種別)という情報を割り当てています。この「課題 → 課題タイプ」という流れが基本のフレームワークとなり、どんなタスクも統一的に管理できる設計になっています。
呼び方が変わるとどうなる?
もし「課題」という名前が変わると、Jiraを長く使ってきた人たちにとっては少々混乱を招くかもしれません。
さらに、他のAtlassian製品との連携にも影響が出ることは避けられません。ConfluenceやBitbucketなどの他製品で課題をリンクしたり埋め込んだりする際の表記も変わってくるはずなので、新しい呼び方にどう対応するのか確認が必要です。
そして、この変更は単なる一括置き換え処理というわけにはいかなそうな気がしています。
例えば、
課題ナビゲーター(Issue Navigator)
課題キー(Issue Key)
など、UI表示にそのまま「課題→[新用語]」というように置き換えると意味合いが変わってくることから、全く異なる表示名になる箇所が出てくるかもしれません。
また、Atlassianアドオンにおいてもアプリ名や機能上に「課題(Issue)」という用語が入っているケースもあるのでアドオンのメーカーも対応が必要なりますね。これはアドオンメーカーも途方に暮れているかもしれません。
「課題」という言葉は、Jiraを理解し使いこなすための基本的なキーワードでした。この言葉が変わることで、最初は混乱が起きるかもしれません。しかし、AtlassianやSolution Partnerがユーザーに対して十分な説明とサポートを提供すれば、次第に新しい用語にも慣れていけるとは思います。
ただ、課題(Issue)という呼称は業界や企業によってはイメージが違う(問題 的なネガティブなイメージ)こともあるので逆に今までの「課題」という呼称に違和感を感じていたユーザーもいなくはなかったはず。今回の変更に対してポジティブな反応をしている人もいるとは思います。
この変更がどれくらい使いやすさに影響を及ぼすのか、これから注目していくべき点です。
なぜ課題というキーワードが重要なのか?
その②:技術面でのインパクト > 設定構成やAPIなどでも用語が使われている
テクニカルな側面での重要性
「課題(Issue)」というキーワードは、Jiraのユーザーインターフェースだけでなく、設定やAPIなどのテクニカルな部分でも重要な役割を果たしています。たとえば、Jiraのプロジェクト設定では、課題タイプやワークフローをカスタマイズする際に「課題」という用語が頻繁に登場します。
課題タイプスキーム
課題タイプ画面スキーム
課題セキュリティ スキーム
課題レイアウト
etc.
この一貫性があるからこそ、Jira管理者やAtlassian開発者は設定を直感的に理解し、プロジェクトの要件に合った構成を迅速に作成できています。
また、JiraのAPIを利用して外部システムと連携する際も、「課題」という用語がキーコンセプトとして使われています。たとえば、特定の課題を取得するエンドポイントや、課題を更新するためのリクエストでは、「issue」というパラメータが基本的な操作単位として登場します。これらのエンドポイントに変更が加えられると、既存のスクリプトや統合フローが影響を受ける可能性があります。
以下のように、エンドポイントや送信する際のBodyデータ、レスポンスデータにもたくさん入っています。
https://developer.atlassian.com/cloud/jira/platform/rest/v3/api-group-issues/#api-group-issues
ただし、APIエンドポイントの変更については、すぐには行われないと考えられます。このような変更は、既存の開発環境やアドオン、統合フローに甚大な影響を与えるため、慎重に検討されるはずです。
実際、APIエンドポイントの変更はJiraの基盤に関わる非常に大きな変更であるため、Atlassianはそうした影響を最小限に抑えるための移行プランを用意しているでしょう。
とはいえ、「課題」という用語が変わることで、将来的にはAPIや設定画面、Jiraの検索言語であるJQLなどにも波及する可能性があり、特に開発者や管理者にとっては注意を払うべきポイントです。この点を踏まえると、「課題」という用語はテクニカルな観点から見ても非常に重要であると言えます。
なぜ課題というキーワードが重要なのか?
その③思考面:”課題” というAtlassian運用における思考の枠組みへの影響
Jiraにおける「課題(issue)」という用語は、単なるラベル以上の意味を持ち、ユーザーの思考プロセスに大きな影響を与えています。
「課題」という用語は、チケット化すべき項目を「解決すべき問題」や「取り組むべきタスク」として直感的に整理するための概念的な枠組みを生み出しています。
一方、これが「work」という言葉に置き換えられると、ユーザーの思考プロセスにも変化が生じる可能性があります。
この変更により、ユーザーが「何をチケットとして扱うべきか」を再定義する必要が生じ、チーム内での認識の違いや運用方法の見直しを迫られるかもしれません。
これについて、私は言語学における「サピア=ウォーフ仮説(Sapir-Whorf hypothesis)」という仮説を連想します。
サピア=ウォーフ仮説とは、「私たちの思考や世界の見方は、使っている言語によって形作られる(影響を受ける)」という考え方あるいは、言語が異なると物事の見方や理解の仕方も異なる、ということを説明する仮説です。
さらに言い換えるとするなら、
「思考は、ことば・語彙によって定められた形式に即して展開する」ということかな。
例えば、英語では「blue(青)」と「green(緑)」は異なる色として認識するけど、日本だと同じ「青」として認識することもあるし、日本語には「わびしい(Wabishii)」「もの悲しい(Monokanashii)」「懐かしい(Natsukashii)」といった、微妙な感情の違いを表す単語が多く存在する一方で、英語ではこれらが「sad(悲しい)」や「nostalgic(懐かしい)」のようにシンプルな単語で表されたり。
こういった言語の違いが、体験や感情の認知の仕方に影響を与える可能性があるということですね。
このサピア=ウォーフ仮説に基づいて考えると、用語の変更がユーザー体験の認知プロセスを再規定する可能性があるわけです。
たとえば、「Issue」という言葉が持つ問題解決的なニュアンスから「Work」という用語が新たな文脈で異なるイメージを与えることで、Jiraを使ったプロジェクト管理やタスク整理の感覚そのものが変わることが考えられます。
こうした視点から見ると、「課題」という用語は単なる操作用語ではなく、ユーザーの思考や行動を導く重要なコンセプトであることがわかります。
この概念を変更することで得られるメリットと、ユーザーの認識や運用に及ぼす影響とのバランスになっていくでしょう。
この変更はAtlassian製品が「開発ツール」の領域から真の「ビジネスプラットフォーム」へと広げるための勇気ある決断
これまでの記事の内容について、あまりポジティブじゃないように見えたかもしれませんが、そんなことは決してないです。
僕が伝えたかったのはこの変更は「大変」だということです。
もっというと、この変更はAtlassian製品が「開発ツール」の領域から「ビジネスプラットフォーム」へと広げるための勇気ある決断だと思うのです。
なぜそう思うのか、
それは「課題(Issue)」という用語は、バグトラッキングの仕組み(BTS)→アジャイル開発での管理ツールという経緯があっての呼称とされ、開発以外のビジネスチームがJiraを利用する際にはある意味「読み替え」をして運用してきたからです。
これは「エピック(Epic)」や「ストーリー(Story)」もそうです。
これらの概念は、ユーザートレーニングや運用のフォローアップが必要なトピックでした。
課題が「Work」としてあらゆるビジネスにおける基本管理単位となり、「Epic」「Story」をチームのニーズに応じた概念にカスタマイズできるようになることで、Jiraがすべてのビジネスで無理なくフィットさせることができる可能性があります。
ただ、よく考慮しなくてはならないことがあります。
Jiraを「ただのタスク管理ツール」にしてはいけないということです。
Jiraの良さはタスク管理を超えて「会社としての課題管理ができること」にあり、それサポートする仕組みがたくさんあります。
タスク管理だけの用途にしてしまうと、「高機能すぎる」という結果になってしまいます。
「課題」「Epic」「Story」という呼称がなくなったとしても、それに相当する概念は維持する必要があると思います。僕が課題というキーワードが重要である理由の中に「サピアウォーフ仮説」をもってきたのはこれです。
「課題」を「Work」として管理し、「Epic」「Story」を「大作業」「中作業」などにしてしまうと、ユーザーの中でJiraの活用がタスク管理という概念の中で回ってしまいます。
課題、EpicやStoryという概念は多少の学習コストがかかるかもしれませんが、良かった点があります。
それは、「要は何をしたいのか?」を簡易的に表現することで、あらゆる専門性・視点を持つメンバーの間で達成したい内容の共通認識を持たせ、達成手段が変更されて作業内容が変わってしまってもメンバーが各専門性に基づいて自発的に考えて柔軟に対応できる、そんなチームワークを醸成するための枠組みであると私は考えているからです。
これに代替する概念を「Work」と紐づけて、全体の概念を再構成する必要があると私は思います。
この変更によって良い方向にいくかは、全体の概念再構成とユーザートレーニング次第かなと考えています。今後のアップデートに期待ですね。
で、いつ変わるの??
以下の記事によると、変更は2025年頭に順次展開とのこと。
え、結構すぐじゃないこれ。
Jira側で既存設定に影響が出ないように何か事前にしとかないといけないことはないのかな、自動化とかJQLとか。。
事前に何かしておく必要があることはないそうです。
でしょうねぇ。これは大変ですよ。。特にバックエンド周りは。。
全てのチームが使うJiraとしてますます進化を遂げようとしています。成長には痛みが伴うものです。
私たちも、New Jira を迎える準備をしていきましょう!
それでは!
参考
すべてのチームの働き方を支援するためにJiraが大きく進化 | Atlassian Japan 公式ブログ | アトラシアン株式会社
https://www.atlassian.com/ja/blog/the-new-jira
Choose how you want to represent your work in Jira - Atlassian Community
https://community.atlassian.com/t5/Jira-articles/Choose-how-you-want-to-represent-your-work-in-Jira/ba-p/2812617
Work: the new collective term for items tracked in Jira
https://community.atlassian.com/t5/Jira-articles/Reimagining-work-in-Jira-to-better-represent-all-teams/ba-p/2854968
水野真紀子. (2022). 「ことばと思考」 再考-日本語の書記言語の認知モデル構築に向けて. 明治大学教養論集, 562, 141-164.
https://meiji.repo.nii.ac.jp/records/17283
Sapir, Edward (1929) The Status of Linguistics as a Science. Language, 5, 207-214