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#8 心の鎧

失恋から一週間が経った。
外は僕の気持ちを表してくれているかの如く、白い息に趣すら感じないほどの寒さだ。何やら今年一番の寒波が来るらしい。僕の気持ちはまさか地球と繋がっているか、と錯覚するレベルのタイミングだ。、

時間が解決してくれるとはよく言ったもので、一週間経ってこの忘却度合いであれば、僕はあと何年苦しみ続ければいいのだろう。そして失恋の苦しみに僕自身がこんなに弱いとは思わなかった。そもそも同性同士なのだから、可能性なんてはじめから無かったはずなのに。奇跡を信じていたのかな。笑えてくる。

可能性がゼロでこのダメージなのであれば、異性愛者の人たちの失恋のダメージは計り知れないな。会社を休むとか寝込んでしまうという気持ちも今なら重々わかる。ラブソングやラブコメがいつの時代も存在感が強いのは、やはり愛というのが全人類共通して素晴らしくそして残酷なものであるからだろう。

しかし告白、そしてカミングアウトしたことで開けた世界があることまた事実だ。

結局彼とは今週も会うことになった。
初めは気まずい空気が少しはあったが、数分も話せば「自分は実は告白してないんじゃないか」と勘違いしてしまうくらい、元の関係に戻っているのだ。
カミングアウトしてもこうして会ってくれることに関しては本当に感謝しかない。僕の人生で君は大きな存在すぎる。

今までは一人の友人として関わってきたが、告白してからは「あなたを想っている1人」のポジションで関わっていくことができる。彼への率直な気持ちを僕のありとあらゆる言動で表現できるようになったのだ。彼のことは全肯定したいし、常に彼のとなりにいたい。これまでは抑え込まなければいけなかった想いを放出できる。もちろん、彼が嫌悪感を示さない程度には抑えているつもりだ。

「僕もびっくりしてます。意外といけるもんなんだって。」
同性愛を告白し、ましてやあなたのことを愛してる人に対して嫌悪感ではなくこれまでと同じ様に接してくれる。これがどれだけ救われるか。
あなたの一言が僕の心に残り続けるんだ。

まさに心の鎧を脱いだ気分だ。
これまでガチガチに固めていた僕の心に、少しの隙が生まれたのだ。隙が好きを生むとはよく言ったもので、弱みを見せることができる相手を作ることは生きる上でかなり重要なのかもしれない。

外は大寒波で凍えるような寒さだが、僕の心はむしろ厚い鎧を脱ぎ捨て裸一貫で人と接する温かさを知ることができた。
これまで常に自分と相手の間には分厚く冷たい鎧があった。相手に見せているのは本当の自分ではない。相手が近寄ってきて触っている自分も本当の自分ではない。しかしその鎧を脱ぎ捨てることで、本当の人の温もりを共有できた。本当の自分に触れられた。そして本当の自分を受け入れてくれた温かさを知ることができた。
なんだ、こんなことならもっと早く話しておけばよかった。

調子のいいやつ。一週間前の自分を思い出せよ。でもきっと今の方がいい顔してる。

ちなみに隙が好きを生むなんて言葉は存在しない。

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