#7 カミングアウト、そして告白
もう我慢の限界だった。
頭のリソースがすべて彼に向いていた。
彼が今何をしているのか、どうすれば振り向いてくれるのか。冗談ではなく常に考えていた。
仕事は手につかない。普段は楽しいはずの飲みの場も彼が気になって最大限楽しめない。スマホを触れば常に彼のSNSをチェックしている。
叶うはずのない恋と頭ではわかっているはずなのに、ここまでエネルギーを注いでしまうのが恋なのだろうか。恋というのは恐ろしい。ここまで人を虜にしてしまうのか。もはや中毒ともいえるかもしれない。Billboardのトップチャートにラブソングが占領するのも納得だ。
このままいくと僕の人生が前に進まない。彼は諦めた方がいい。わかってる。わかってるのに。
頭と心が相反した立場をとる。頭では諦めることが一番だと、今は辛いかもしれないが時間が解決してくれると、そう僕に語りかけてくる。でも心がそれに従わない。忘れるなんて、諦めるなんてできる訳がない。ここまで好きになってしまったんだ。彼を諦めるということは、僕の今の大部分を失ってしまう。
絶対に叶わない恋なのに、どうして「奇跡」を信じてしまうのだろう。
「奇跡は諦めない奴の頭上にしか降りてこない。」
国民的マンガのキャラのセリフだ。当時はとても救われたのを覚えている。
ただもう限界だった。強制終了をしなければいけない。そう思ったんだ。僕の人生のためだ。僕の人生だ。彼の人生じゃない。どうして僕なんだろう。どうして彼なんだろう。辛い。重い。苦しい。寂しい。助けて。助けて。
強制終了の方法は頭でわかっていた。
気持ちを伝えることだ。告白してしまおう。いっそのこと嫌われた方が楽だ。
そして昨日、僕は告白したのだ。少し、いやかなりのお酒の力を借りて。あまりよく覚えていない。ただあまり驚かれなかったことは何となく覚えている。普段から友達にするにはあまりにも異常な程の愛情表現をしていたから驚かなかったことも納得かもしれない。
「奇跡」はもちろん起きなかった。しかし、彼は受け入れてくれた。
「〇〇(僕の名前)さんと一緒にいるのが好きだから一緒にいるんです。付き合うとかの気持ちに応えるのは無理ですけど、これからも仲良くしてほしいです。」
まだ僕を苦しめるのか。僕の好きな人はなんて素敵な人なんだろう。もっと好きになってしまうじゃないか。
ただ僕はケジメをつけないといけない。
もう僕から彼を誘うのは止めよう。会うことも連絡を取ることも。
心が暴れている。彼と会いたい心が僕の決意をかき乱す。彼と連絡を取りたい心がスマホの指を彼のLINEへと導く。ダメだ。僕の決意を思い出せ。僕のためだ。時間よ、早く抑え込んでくれよ。この心を。もう彼の好きな人の話を聞くのは懲り懲りだろ。彼の性の話を聞くのは苦しいだろ。彼の人生の中での僕の存在の小ささを実感するのは辛いだろ。だから諦めてくれよ。早く落ち着いてくれ。自分で自分を傷つけないでくれよ。頼むよ。
告白した次の日。
泣いた。声を上げて。在宅勤務でよかったとここまで思った日は無い。自分の部屋で、誰にも聞こえない声で、誰も聞いてくれない声で、聞かれてはいけない声で、声を上げて、泣いたんだ。告白の時は泣かなかったのに。たくさん泣いた。よく頑張ったねと、自分しか褒めてくれない。もう会えない。もう声も聞けない。こんなに好きなのに。好きって何だろ。幸せって何だろ。
ただそんな日にある歌に救われたんだ。
話題になっているwacciの「恋だろ」
聞いたことはあったが、歌詞をちゃんと聞いたのは初めてだった。
歌詞のすべてが刺さる。
歌詞のほとんどが彼との日々にぶっ刺さる。
仕方ないよな。これが恋なんだ。
出会ってくれてありがとう。僕に恋をさせてくれてありがとう。これまでの全てに感謝してるよ。ありがとう。
さようなら。僕の人生最大の恋。
これにて、おしまい。