-解説1- 生成AIで実現する真のDXとは―AX(AI Transformation)への進化
本Noteは書籍「まやかしDXとの決別!」の要点などを紹介するとともに、副題とした「生成AI時代を勝ち抜くデジタル事業変革」の解説を、著者である、Gen-AX株式会社(技術統括部・プリンシパルコンサルタント):横山 浩実 が行うものです。
本noteが読者の皆様が挑戦している「自立に自律を融合する」ビジネス変革の有益なヒントとして使っていただくことを期待しています。
1.DXからAXへの進化
1.1 まやかしDXとの決別!
経済産業省の「DXレポート」以来、2025年を一つのマイルストーンとしてシステム刷新に取り組んだ企業は多く、システム老朽化対策としてのレガシー脱却は一定程度進んだといえるでしょう。ただ、システム刷新、いわゆる「モダナイ」を「製品やサービス、ビジネスモデルの変革」の手段にできた企業は少なく、依然として多数の企業は旧弊や、前例踏襲のしがらみに苦しんでいます。結果、「カイゼン」レベルのみ実現する過去の延長線上のビジネス経営を続け、企業競争力を高められていないのが現状です。生成AI等の先進技術の利用も、どうしてよいかわからずベンダー丸投げしてしまい、PoCどまりになってしまう、もしくは、非常に近視眼的な取り組みに矮小化してしまった事例は枚挙に厭いません。
このような状況では、多くの企業がDXの本質を見失い、「破壊と創造」の実現には至っておらず、現場リーダーは、経営層からの高い期待と実行の難しさの間でジレンマを抱え、従来の延長線上で成果を出せる解を見出そうと苦しんでいる状況に陥っています。これを打破するには、事業部門が主役となり、痛みを伴う変革に挑む覚悟が必要です。DXを単なる効率化ではなく、競争優位を築くための「破壊と創造」のプロセスとするには、現場リーダーが自ら新たな価値創造の中心に立つことが不可欠だからです。その際には、全てを内製化しようとはせず、IT技術に閉じずデジタルの社会実装全般についてベストプラクティスや先進事例などの適用方法を相談・助言してもらえる外部パートナーに支援を受けることも重要でしょう。
当たり前にDXに取り組む時代、現場リーダーが周囲と共創してジレンマを乗り越え、新たなDXで成功するための方法論が、5つの「まやかしDXとの決別!」です。
● 痛みを伴わないDXとの決別!
● ITによるカイゼンをDXにしない!
● IT部門がリードするDXとの決別!
● 経営を革新しないDXとの決別!
● 失敗リスクをコントロールできないDXとの決別!
1.2 AXによる「破壊と創造」のDXの実現
ここで、「ITによるカイゼンをDXにしない!」ためには、今を連続的に広げ、延長上の効果を生み出すような「効率化」に留まるDXと決別することが重要です。ビジネスプロセスやモデルを根本的に見直す「破壊と創造」のDXに取り組むことは、市場動向や顧客ニーズを的確に捉え、製品やサービスに新たなデータや機能を組み合わせ、革新を起こすことを意味します。生成AIは既存の常識を塗り替えられる革新力を保有する技術であるため、企業はよいプロダクトを適切に活用することで、これまで解決できなかった課題の解消や、全く新しい価値を提供するサービスの創出が可能となります。
すなわち、これまでのしがらみや前提を拭い去る「あるべき姿」の実現を目指すには、生成AIを活用して行うDXつまりAX(AI Transformation)を進めることが企業の競争力強化に直結し、市場で優位性を確立するための最良の道筋のひとつといえるでしょう。生成AIは、企業のイノベーションを加速し、大きな価値創出の可能性を開く鍵となるのです。
2.AXの進め方:どのように生成AIを使うのか
2.1 生成AIができること
生成AIは、膨大なデータを学習し、さまざまなデジタルコンテンツを自動的に生成する技術です。これにより、企業は煩雑な手作業を減らし、効率的にコンテンツやサービスを提供することが可能になります。生成AIは、従来のルールベースのシステムとは異なり、コンテキストを理解して判断を行うため、より柔軟で精度の高い結果を得られます。文章作成、情報集約・出力、デジタルツールへのアクセス、さらには自律的なタスク実行など、複数の機能を備えており、業務の効率化や生産性向上に大きく貢献します。
まず、生成AIの主な機能の一つに、高度な文章生成機能があります。これは、限定的な情報や指示のみで自動的に文章を生成する能力であり、これにより従業員は「自分で文章を作る」から「作成された文章をレビューする」業務にシフトすることが可能になります。
次に、情報の集約と出力機能です。生成AIは、曖昧な条件や膨大なデータから的確な情報を整理し、出力することができます。これにより、従業員は膨大な情報源から「探す」「判断する」といった行動から解放され、より迅速に意思決定を行えるようになります。
さらに、自然言語でデジタルツールにアクセスする機能があります。この機能により、プログラム言語や定型的な操作を必要とせず、システムやAPIと直接対話することが可能になります。従業員は日常業務の一環として、システムとスムーズにやり取りをしながら、必要なデータを得ることができます。これにより、業務がシンプルで直感的に進められます。
最後に、自律的なタスク実行機能です。目的やゴールをAIに指示することで、システムが自動的にタスクを実行します。これにより、従業員はプロセスを理解したり意識したりすることなく、業務の目的を達成できるようになります。例えば、定型的なデータ入力や作業の自動化が進み、作業者の負担が軽減されます。
このような生成AIの機能を活用することで、資料作成、アイデア生成、質疑応答、構成や添削、翻訳などの多様な業務を自動化できます。さらに、文章の要約や要素の抽出、感情分析、洞察の抽出、データ評価なども自動で行えるようになります。これにより、業務全体の効率が大幅に向上し、企業の競争力が強化されます。また、プログラミングやBI分析、業務システムのデータ入力・出力の自動化、機器の自動制御、生産プロセスの最適化にも対応できるため、あらゆる業務プロセスを最適化することが可能となります。ビジネスモデルに生成AIを組み込むことで、爆発的な生産性向上や、より高い企業競争力を実現できるのです。
2.2 生成AIを活用して生み出す価値
生成AIは、単なる技術革新に留まらず、ビジネスのあらゆる側面を変革する力を持っており、その価値創出は計り知れないものとなりますが、主に4つの分野で整理できます。
第一に、製品・サービスの改善です。AIを使った個人に最適化された商品提案やサービス向上により、顧客満足度を高め、リピート率の増加が期待されます。
第二に、より直接的な顧客満足度の向上です。生成AIは、個別のニーズに対応したサービスやサポートを提供し、顧客の再利用意欲を高めます。リコメンデーション機能やサービスの自動カスタマイズにより、顧客の購買意欲を促進し、ロイヤルティを向上させることができます。
第三に、業務効率化です。生成AIは業務の自動化やプロセスの可視化を実現し、従業員の負担を軽減します。問い合わせ対応の自動化やデータ分析の効率化が進み、業務の迅速化と精度向上を図ることができます。
最後に、従業員の生産性向上です。自動化されたタスク管理により、従業員は価値の高い業務に集中でき、生産性が向上します。また、従業員の満足度やエンゲージメントも改善されます。
このように生成AIを活用することで、企業は多方面にわたる価値を創出し、競争優位性を確立することができます。
2.3 成否の分かれ目:顧客・社内双方が納得するビジネス品質の担保に向けたデータ・プロセスの整備
生成AIをビジネスで活用するためには、単に大規模言語モデル(LLM)などの基礎技術を導入するだけでは不十分です。重要なのは、「実ビジネスで使える精度」を出すための取り組みです。これは、データの正しい「デジタル化」を進めることと、品質の高いデータ・プロセスを扱う業務プロセスに変革することに尽きます。AIエージェントが自律的に動く未来(ASIの世界)を見据え、品質の良いデータの蓄積と活用がますます重要になるでしょう。
まず、生成AIを効果的に活用するためには、品質の高いデータを整備することが欠かせません。生成AIは学習データに基づいてコンテンツを生成するため、用いるデータ自体の正確さや一貫性が求められます。特に、業務で専門的な領域や企業固有の情報を活用する場合、生成AIアプリケーションにおいて標準的なLLMの学習データには限界があり、追加のデータ整備が必要です。これには時間とコストがかかるため、データの取り扱いにおいて慎重な準備が必要です。
さらに、運用中のデータ管理においては、データ品質を維持し更に向上させる業務プロセスの整備も不可欠です。生成AIが効果的に機能するためには、データマネジメントを含む業務フロー自体をAI対応に合わせて再構築する、業務のBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)が大前提となります。アナログ処理を安易に残したまま部分的に生成AIアプリケーションを導入しても、その真価を引き出すことはできません。
なお、生成AIをビジネス活用する際には、データ品質のみならず、生成するコンテンツの品質向上が重要であり、そのためには、生成された結果に対して人間の確認とフィードバックが欠かせません。AIは完全な自立性を持つわけではなく、出力結果の精度向上には継続的な学習とフィードバックが必要です。この点を怠ると、AIが生成するコンテンツの品質向上が停滞し、実務での効果を最大限に引き出せません。
このように、生成AIがもたらすビジネス価値を最終的に最大化するためには、データの整備と業務プロセスの改善が両輪となって進む必要があります。AIは魔法の道具ではなく、その効果を発揮するための環境作りが重要です。現場リーダーはこの変革を深く理解し、適切なデータとプロセスの整備を行い、生成AIを企業変革の手段として活用していくことが求められます。
3.AXに向けての要諦
3.1 AXプロジェクトでの「最適解」実現のためのアプローチ
DXプロジェクトは一般的に以下の4段階で進め、企業としての最適解を実現すべく取り組まれます。
1:ゴール設定(あるべき姿の設定)
2:業務見直し・ビジネスモデル決定
3:システム導入
4:事業実施・改善
生成AIを活用して行うDXつまりAXにおいては、企業のゴールを定めるときに、ゼロベースで考えることが効果的でしょう。現場リーダーが生成AIの可能性を理解した上で、既存の枠組みや慣習に縛られず、新たな価値を生み出す方向性を描くことが重要になります。この際、単に技術の導入に焦点を当てるのではなく、技術がどのように業務プロセスや顧客体験、そしてビジネスモデルに変革をもたらすかを具体的に描くことが必要です。現状のプロセスや過去の成功体験にとらわれないようにし、将来のビジネス環境を見据えた変革を進めることが必要です。バックキャスト(未来からの逆算)を取り入れ、将来的に必要とされる技術やプロセスを先取りすることで、変革を加速させることができます。
また、生成AIを含む先進技術を活用する際には、技術の特性を理解し、企業の課題にどう適応するかを見極めることが不可欠です。単にAIツールを導入するだけでは効果を得られず、業務の自動化やデータ活用を通じて、業務の効率化や顧客満足度の向上を実現するための具体的なプロセス改善が求められます。これには、AIの学習データの整備や品質向上を目指したデータマネジメントが基盤となります。
3.2 AXプロジェクトの現場力・データマネジメント・BPR
ここまで読み進めてきた皆様は、AXによる「破壊と創造のDX」への期待が高まったでしょうか。同時に、これまで避けてきた・やらずに済んできた「破壊と創造のDX」について、どのように取り組めばよいか、悩みが深くなった人も多いかもしれません。
今後3回に亘り、「まやかしDXとの決別!」において、現場リーダーがどのように発想の転換をすべきか、「まやかしDX」の悪しき習慣をどのように断ち切るべきか、「まやかしDX」の落とし穴に陥らないようにするためには何をすべきかを、次に示す観点から解説する予定です。
● 現場リーダーが新たな業務を設計し、正しく技術を選定する(第2回)
● AI readableな経営データを蓄積し、AIエージェントの将来につなげる(第3回)
● AIが自律する世界を描き、それの段階的な将来像を整理し、BPRを行う(第4回)
全4回の解説で、様々な観点からDX推進がなかなか成功しない原因や対策を紹介します。弊社は「生成AI技術活用の羅針盤として、業務をAI時代にFine-tuningしていく」というキーメッセージを掲げ、企業の未来を共に創造していくことを目指し、企業のAI利活用を具体的にサポート、変革する企業ですが、読者の皆様が本noteからの学びを通じ自分ごととしてDX/AXの推進を考え、DXを再始動/AXに取り組む際の示唆として使っていただく一助になれば大変うれしいです。