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-解説3- データ駆動型ビジネスへの転換 – 生成AI時代におけるデータ活用の進め方

本Noteでは、Gen-AX株式会社 技術統括部・プリンシパルコンサルタントである横山 浩実が著書『まやかしDXとの決別!』を起点に、今まさに『生成AI時代』へと移行しつつあるデジタル事業変革(AX)の本質をわかりやすく解説します。DXの取り組みにより、データは価値の源泉として誰もが認める存在になりましたが、次のステップとして、AX時代にはどのようなデータマネジメントが求められ、どうすれば自律的なAIエージェントがビジネス価値を生み出す環境を整えられるのかを明らかにします。本Noteを通じて、データ駆動型ビジネスへの転換と、生成AIを活用した新たな事業変革の方向性を学んでいただければ幸いです。


1.データ駆動型ビジネスの価値

1.1ビジネス推進におけるデータ駆動の合理的判断の重要性

データ駆動型ビジネスとは、企業が取得した膨大なデータを活用し、合理的な判断と迅速な意思決定を行うことで、その価値を最大限に引き出す手法です。これまでは、経験や勘、個別の成功体験に頼った方法で戦略が立案されがちでしたが、リアルタイムに得られる多様な生データを活用できる現在、適切に分析し客観的かつ再現性のあるプロセスで判断を下すことで、実態に即し蓋然性の高い将来予測に基づく戦略を立案できる時代になっています。たとえば、新製品の市場投入に際しては、過去の販売データや顧客行動分析を用いて需要を予測し、在庫管理や販促施策を最適化することが可能となります。また、購買コスト削減においては、サプライヤー情報や取引履歴を統合的に分析し、標準化や集中購買によって内部・外部コストの両面で効率化を図れます。顧客対応に際しても、最新のFAQだけでなく業務マニュアル・過去履歴などを参照し、潜在化している顧客ニーズを汲み取る分析を行うことで、より顧客満足度を高める対応が可能となるのです。

たとえば、生成AIを組み込んだ顧客対応ツールを考えてみましょう。FAQや業務マニュアル、これまで蓄積している照会応答履歴などから、業務に必要かつ「意味があり正しい」情報のみを抜粋し、 “AIがすぐに理解できる形式”に整備することで、従来は担当者が手作業で判断・対応していた問い合わせを、即時かつ正確、そして、顧客の真の意向に沿った回答を自動生成させることが可能となります。その結果、問い合わせ対応コストを低減できると同時に、顧客満足度が向上し、新たな販売機会の創出にもつながります。ここで、大切なことは、単純な財務指標や多くのKPIに埋もれず、事業ゴールから因果関係を明確化し、将来を見越した予測分析や生成AIによる必要なコンテンツ生成を組み込むことです。また、AIのみで自律的に動ける時代の到来前である、人間が生成AIの支援を受ける時代においては、AIのみが理解できる文書のみでは人間の業務遂行は難しくなるため、データは人間・AI双方が扱えるものにすることが重要です。

このようにデータの在り方を変革させることが、データを意思決定を支える強力なコンパスに変え、自律的に価値を創出し続けるビジネス基盤へと進化させるキーとなります。

1.2AGI/ASI時代におけるAIエージェントとデータ戦略

こうしたデータ活用の意義は、AGI(Artificial General Intelligence)やASI(Artificial Super Intelligence)といった高度な知能を備えたAIエージェントが普及する近い将来、さらに増すことは確実です。AIエージェントが自律的に活動する時代においては、社内外の膨大なデータソースを継続的に学習して、最適な施策や顧客コミュニケーションを自動で創出するようになります。さらに、実施結果の成否・ナレッジを再び学習することで、常にビジネス成果の最大化に向けて自己進化する「フィードバックループ」も内蔵するでしょう。こうしたエコシステム下では、あらゆる場面で生み出されるデータは生成AIの「燃料」にとどまらず、戦略そのものを方向付ける核となります。精緻なデータ管理やマスタ整備、権限設計、プライバシー配慮といったデータマネジメント基盤の整備が、AIエージェントによる精度の高い予測・業務実行を支える基礎となるのです。

このような新時代においては、クラウドネイティブなアーキテクチャや高品質なデータ分析基盤への移行は不可欠となります。これまでのIT刷新(モダナイ)では、老朽化したシステムを単にクラウドへ移行する「クラウドリフト」に留まってしまったため、リアルタイム性や柔軟なデータ活用が欠如し、戦略的変革を阻んでおりました。真に価値あるDXを実現するには、FitToStandardによる標準化に加え、適切なデータ構造やID統合、履歴管理、権限設定などを整えたデータマネジメント基盤を整備することで、AIエージェントが活躍できる基礎を確立することが重要です。データ駆動型ビジネスとAIの活用を前提したインフラ整備、そして継続的な学習・改善プロセスの確立こそ、次世代の企業成長を力強く支える礎となり、データとAIエージェントによる自律的な戦略遂行が、これまで想定しえなかったスピードと精度で価値創出を可能にし、顧客体験や市場競争力を飛躍的に高めるでしょう。

2.AX時代のデータマネジメント

2.1AX時代に求められるデータマネジメントの新たな役割

このように、AX(AI Transformation)時代では、データマネジメントはこれまでの単なるITインフラ整備やデータ処理基盤の構築を超えた戦略的役割を担うようになってきています。DX(デジタルトランスフォーメーション)を通して蓄積する膨大なデータが企業の戦略的資産となり、ビジネス価値を生み出すための源泉になっているといえますが、AX時代では、これらデータをAIエージェントが自律的に活用し、学習し続ける「AI Ready」な状態を整えることが極めて重要になります。

そのためには、ノウハウやナレッジを組織資産として形式知化し、適切な学習等を繰り返し、出力品質を向上させる取り組みから着手し、end-to-endのビジネスを推進するための情報基盤を確立します。その上で、生成AIの特性を生かして処理の合理化や更なる生産性向上を図ることで、自律的にAIが機能する状況を作り上げます。様々な場面で自立したAIが機能する環境が実現できれば、顧客満足度を高め、将来の方向性を自律的に示唆する「企業エージェント」へと進化することが可能となるでしょう。

このような進化をスピード感もって実現するためには、データをこれまでのように管理するのではなく、生成AI(LLMなど)が「学習しやすい形態」へ継続的に品質改善してAIエージェントが自律的に動ける基盤を整える、いわゆる「AI Readyなデータマネジメント」への転換が求められます。ここでカギとなるのが、事前学習データへの変換やRAG(Retrieval-Augmented Generation)機能強化のための検索データ品質改善といったLLMOpsを業務遂行の一環として組み込む取り組みです。データ基盤の刷新だけでなく、業務フローや組織体制を見直し、生成AI(LLMなど)が「良質な学習データ」を継続的に生成・更新し、AIエージェントが実行する企業活動を支える業務プロセスすらも自律的に進化できる仕組みにすることがビジネス価値創出のエンジンとなるのです。

なお、LLMOpsにおいては、形式知化されたデータ、業務領域や業種固有の特徴を反映した豊富な学習データ、そしてユーザーフィードバックによる継続的なモデルチューニングを兼ね備えることが要件となります。特にRAGを用いる場合は、モデルが参照する検索データ(事前学習データ、参照情報)の品質が、生成される回答の正確性・関連性・忠実度に大きく影響することから、単にデータ量を増やすのではなく、業務プロセスに整合し、標準化された様式で、必要な情報が抜けや漏れなく、そして機密性・権限管理などの要請にも応えた状態のデータを用意することが重要となります。

2.2AX時代のデータ品質-6つの指標

このように、AX時代のデータ品質を考える際には、これまでの「完全に標準フォーマットで作成されて定義されたプロセス処理しやすいか」という観点で考えるよりも、AIエージェントがスムーズに活用でき、再学習データとして取り扱えるかといった特性を重視した観点で考える必要があります。
具体的には、以下の6つの品質指標に着目するのが良いでしょう。これら6つの品質指標を満たしたデータは、モデルから見たとき理解しやすく、かつ運用者にとっても管理しやすい“最高の学習素材”となります。

1.     ノイズ除去・正確性:余計な情報や誤情報を取り除き、正確なコンテンツのみを残すことで、モデルが誤学習するリスクを低減します。
2.     データ構造化・標準化:共通フォーマットやセマンティック構造を整備することで、モデルがデータ間の関連性やパターンを理解しやすくします。
3.     学習禁止データ除去・機密性担保:機密情報やプライバシー情報など、学習させるべきでないデータを適切に取り除き、モデル運用上のリスクや法令遵守への懸念を解消します。
4.     版管理・最新性担保:データの更新履歴や有効期限を明確にし、モデルが常に最新かつ有効な情報を参照できるようにすることで、出力結果の鮮度を確保します。
5.     分散データ統合・一元化:異なるシステムやロケーションに散在するデータを、一元的かつ効率的に統合することで、モデルに対して包括的な知識基盤を提供します。
6.     フラグ付与・識別性:データにタグやメタデータを付与し、文脈や信頼度を明確化することで、モデルが回答生成時に適切な情報選択を行いやすくします。

これら6つの品質指標を踏まえた「データ」を扱えるようになると、生成AIはコンテキストを正しく関連させ、回答を正しく関連させ、参照情報から忠実にコンテンツを生成できるようになります。「生成AIは嘘と本当が混ざってしまう(ハルシネーション)」リスクから解放され、ビジネス要件や現場オペレーションと深く結びついた動的なプロセスを自律的に実行可能となり、大幅な生産性向上などのビジネス変革を実現し、結果として、顧客体験の向上や新たな成長機会の創出を可能とするのです。

3.Gen-AXが提供するデータマネジメント支援

Gen-AXは自社データを使って賢く育てていく、テキスト形式での生成AIアシスタントモデルである「照会応答を支援するプロダクト」を皮切りに、音声生成AIを活用した、「自律思考型の音声応対プロダクト」を提供していく予定です。

現行の照会応答や音声応対の業務では、音声データやメール回答などの生データ、音声書き起こしデータや照会応答履歴のシステムログなどの加工データ、トークスクリプトやFAQ、業務マニュアル、システム操作マニュアルなどのルール・ガイドを利用して、人間がコンテキストを判断し、システムを操作しながら業務遂行を行っています。当社が提供予定のプロダクトは、生成AIの支援を受けこれらの業務の効率化・自律化するものであり、また、プロダクトそのものがLLMOpsを実践できるものになっています。したがって、プロダクトを利用したビジネス価値を高めるためにも、上記に挙げた様々なデータを生成AIが効率的に取り扱える「AI readyなデータマネジメント」への移行も併せて行うことが重要であることから、Gen-AXは、例えば、以下のアプローチで皆様がAX時代のデータマネジメントを実現することに伴走することが可能です。

3.1AXロードマップ作成:どのようにAXを進めデータを整備していくか

AXの実践においては、課題の大きさに着目し優先度を定め、PoCのスコープを定めて取り組むケースは多いですが、データの観点を十分考慮しないケースにおいては、生成されるコンテンツの精度が高まらなかったり、業務遂行時に参照する情報(FAQ、業務マニュアル)が改善されなかったり、その管理が重複したりすることも多く、PoC止まりとなり、実運用に進まないケースが散見されます。

Gen-AXは、AXのキーがデータであることを念頭に、現状のデータ品質を評価し、どのようにデータを育てることが可能か、それを用いてどのようにAXを進めるべきかのAXロードマップ作成を支援します。これにより、手戻りなく、ビジネス品質の生成AI導入を可能とします。

3.2AXサービス導入に向けてのデータマネジメントプロセス確立

各社の現状のデータマネジメント実態はさまざまであり、また、AXのゴールも多岐にわたります。Gen-AXは各社のAXロードマップに対し、データマネジメント実態棚卸、データマネジメント達成度評価、データマネジメント刷新方法を行い、達成すべきデータ品質の可視化及び刷新方法の具体化を支援します。

生成AI時代において、「質の良い」データを「AIと人の双方が適切に扱う」ことがビジネスの成否を決めるといっても過言ではありません。Gen-AXは生成AI技術・プロダクトを熟知した立場から、そのナレッジを活かし、皆様のビジネスにおける
「質の良いデータをマネジメントする」伴走者としての役割を果たしたいと考えています。