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-解説2- 現場力が鍵を握る – AX実現のための現場リーダーの役割

本Noteは書籍「まやかしDXとの決別!」を起点に、「生成AI時代を勝ち抜くデジタル事業変革(AX)」のポイントをわかりやすく整理することを目的としています。今回は特に、DXからAXへの転換期において“現場力”が成否を分ける理由と、現場リーダーが直面するジレンマをどう克服し、確実な成果創出につなげるかを著者である、Gen-AX株式会社(技術統括部・プリンシパルコンサルタント):横山 浩実 が解説します。


1.現場リーダーの挑戦とジレンマの克服

新たなDXで成功するためには、従来型のアプローチから脱却することが求められます。そのための方法論として挙げられる「5つのまやかしDXとの決別!」の一つが、「IT部門がリードするDXとの決別!」です。これを実現するには、事業部門の現場リーダーがDX推進の中心となり、企業変革を主導する必要があります。しかし、現場リーダーたちがこの新たな役割を果たす際には、さまざまなジレンマに直面します。

まず、現場リーダーが直面するジレンマの一つは、変革のリスクに対する恐れと成功の両立です。DXを推進するにあたり、現場リーダーは新たな技術の導入や業務プロセスの変更に伴うリスクを敏感に感じています。DXにおける過去の失敗や「コスト高・納期遅延」などの経験から、変革に対して消極的になるのは当然です。特に、事業部門が主導する場合、IT部門に比べてデジタル技術の知識やスキルが不足していることが多く、特に生成AIのような先進技術に対しては顕著です。このような状況で現場リーダーは、これまで使い慣れた技術、時には陳腐化しつつある技術すら選びがちであり、新たな技術の可能性を見極めて採用しない場合が多く、変革のスピードが遅くなり、最終的に競争力を失うリスクを抱え込むことになります。

次に、現場リーダーが直面するジレンマとして、過去の成功体験と業務慣行の否定があります。これまで事業部門のリーダーは、従来通りの利益を上げ続けることを死守するために、暗黙知で現場を支えるベテランのやり方に依存する傾向にありました。しかし、DXの本質は従来の業務プロセスを根本的に見直し、新しい方法を導入することであり、これまで積み上げてきた業務のやり方や人員配置に対して疑問を投げかけることは頻繁に起こる事象です。これは、過去の自分たちの努力や成果の価値を無にすることにもなりかねないため、身を切る覚悟で臨む必要もでてきます。

さらに、目の前の課題と長期的なビジョンのバランスも現場リーダーのジレンマの一つです。現場では日々の業務が忙しく、短期的な成果を求められることが多いです。そのため、長期的なビジョンに基づく変革よりも、目の前の課題を解決することにフォーカスしてしまいます。しかし、DXは単なる短期的な問題解決ではなく、企業全体の戦略的な変革を目指すものです。このような短期的な焦点が、DXの真の価値を引き出すための障害となることがしばしばあります。

では、現場リーダーがこれらのジレンマを乗り越えるためにはどうすればよいのでしょうか。一つの方法は、外部パートナーの支援を受けることです。多くの企業が直面する課題の一つは、ITやデジタル技術に対する知識不足です。外部の専門家やコンサルタント、技術パートナーと連携することで、現場リーダーは自らの限界を補完し、効率的に変革を進めることができます。特に、生成AIなどの新技術を導入する際には、その技術が事業部門にどのように活用できるかを具体的に示してもらうことが重要です。外部パートナーは、業界最先端の事例やベストプラクティスを提供し、現場リーダーが成功への道筋を描く手助けをしてくれます。

また、小さな成功体験を積み重ねることも重要です。現場リーダーは、いきなり大きな成果を目指すのではなく、段階的に成果を積み重ねていくアプローチを取るべきです。多少の失敗は恐れずに試行錯誤を繰り返し、その中で得られた知見を次のステップに活かすことが、最終的な成功への鍵となります。特に生成AIのような一つの成功が次の成功の種になるような技術においては、まずデータの品質向上を主眼とし、それにより業務品質を担保する取り組みから着手するなど、新たなことに挑戦しつつも確実な成功を積み上げるアプローチを選択することが重要です。また、このようなアプローチは、リスクを最小化し、現場メンバーの信頼を得るためにも効果的です。

さらに、現場リーダーが組織全体のビジョンを理解し、チームで共有することも成功へのステップです。DXの成功は、トップダウンでの方向性とボトムアップでの実行がうまく組み合わさることに依存します。経営層と現場リーダーが同じビジョンを共有し、共通の目標に向かって進むことで、組織全体が一丸となって変革を推進することができます。このためには、現場リーダーが経営層と定期的にコミュニケーションを取り、ビジョンや目標の進捗を共有することが重要です。

結局のところ、現場リーダーがDXのジレンマを乗り越えるためには、リスクを恐れず挑戦し、外部パートナーと協力しながら、着実に成果を積み重ねていくことに尽きるでしょう。

2.現場リーダーがリードするAX成功に向けての実施事項

では、このようなアプローチで現場リーダーが生成AIを活用して行うDX、つまりAX(AI Transformation)を進める際にはどのような工夫をすると成功をつかみ取れるのでしょうか。具体的な考え方を二つ紹介します。

2.1 FitToStandard(標準への一致)

「FitToStandard(標準への一致)」とは、サービス利用・システム導入において、そのサービス・システムが提供する標準機能を最大限に活用し、業務プロセスをその標準に合わせて変革するアプローチです。追加のカスタマイズを極力避け、標準機能の組み合わせで業務を実現することで、短期間・低コストでの導入が可能となります。
なぜ「標準」に絞り込むことが重要なのでしょうか。従来、多くの企業は自社の独自プロセスこそが競争優位の源泉であり、それを変えることは優位性を失うと考えてきました。しかし、AX時代においては、価値の源泉はデータの活用と迅速な対応に移行しています。人手・旧来のシステム処理で「必要」と捉えていた作業も、全く新たな生成AIで行う処理においては、冗長だったり非効率だったりすることも多く、そのような独自プロセスに固執することは、生産性向上を妨げるだけでなく、システムの複雑化や高コスト化を招く要因となります。
FitToStandardを徹底することで、業務効率の向上やカスタマイズコストの削減、さらには運用時の保守性の向上が期待できます。これにより、AX投資の効果を最大化し、企業変革を加速させることが可能となるのです。

では、FitToStandardを実践するためのコツを三つご紹介します。

一つ目は、業界テンプレートを活用したプロトタイピングです。業界のベストプラクティスが組み込まれたテンプレートを出発点とし、どのようにそれに合わせられるかを議論しつつ、自社にとって非合理や実現不可能と思われる部分を洗い出します。その上で、その妥当性を他社事例やベンダーの知見を参考に再評価します。プロトタイプを実際に操作することで、新たな業務プロセスの価値や生成AIが生み出す新たな価値を体感し、抵抗感を減らすことができます。

二つ目は、カスタマイズやアドオンの徹底排除です。理想的にはアドオン率を0%に近づけることが望ましいですが、現実的には最小限に抑える努力、現状の7割削減などが必要です。慣れ親しんだ帳票や画面に固執せず、標準機能を受け入れることで、生成AIが機能しやすい効率的な業務プロセスを実現できます。生成AI技術の達成レベルを意識し、不要なロジックやインタフェースも見直し、標準に適応する勇気が求められます。

三つ目は、変化の大きさに対応するための工夫です。例えば、ユーザーインタフェースにおけるラベルを工夫し、表記・用語を現状に合わせることで抵抗感を下げる方法があります。また、導入初期は例外処理をRPAや人的チェックでカバーするような業務フローを追加することで、従業員の不安を解消します。従業員体験を可視化し、変化の効果を定量化することで、組織全体で新しい標準に適応する意識を高めることが重要です。

このようにFitToStandardを成功させるためには、ベストプラクティスを見極め、それを徹底する勇気が必要です。現場リーダーは現状のやり方に固執せず、新しい標準を受け入れる決断をする必要があります。そして、経営者もまた、正しい「標準」に絞り込む潔さで、組織全体を導くことが求められます。

2.2 LLMOps

生成AIの中心技術の一つがLLM(Large Language Models:大規模言語モデル)です。LLMとは、大量のテキストデータとディープラーニング技術を用いて構築された言語モデルであり、人間のような自然な文章生成や高度な言語理解を可能にします。また様々なタイミング・方法で学習させることが可能であり、それによりAIが生成するコンテンツの品質を高めることができる技術となっています。この真価をビジネスで発揮するためには、適切な運用と管理が不可欠です。

そこで注目されるのが「LLMOps」です。LLMOpsとは、LLMを効果的かつ効率的に運用・管理するための一連のプロセスや手法を指します。これは、ソフトウェア開発のDevOpsと同様に、モデルの開発、学習、デプロイ、モニタリングを統合し、継続的な品質改善を図るアプローチであり、FitToStandardの上でさらに価値を高めることができる仕組みです。

LLMOpsのポイントとしてまず重要なのは、「生成AIアプリケーションの継続的な改善(Refinement)を通常の業務の一部に取り込む」ことです。生成AIアプリケーションを業務で利用することと、生成AIアプリケーションの性能や出力品質を向上させることを取り組みとして一体化させることで、実運用に即した情報を今後の業務にすぐに活かすことが可能になるだけでなく、継続的な改善に係る従業員負荷を低く抑えることが可能になります。そのためには従業員体験(UX)を意識した業務設計が重要です。

次に、「どの品質を高めるかを見極め、効率的にデータ・プロセス改善を図る」ことが挙げられます。LLMOpsにおいては、RLHF(人間のフィードバックによる強化学習)、ファインチューニングなどのLLMに再学習させる方法や、RAG(Retrieval-Augmented Generation)、Few-shotプロンプティングなど、LLMそのものではなく、外部データや指示内容を工夫する方法があります。RLHFでは、人間がモデルの出力を評価・修正し、そのフィードバックを元にモデルを改善します。ファインチューニングでは、LLMに対し特定の業務領域に特化したデータでモデルを再学習させ、精度を高めます。RAGを用いると、外部データベースからの情報をリアルタイムで取得し、より正確で最新の回答を生成できます。その際には、Embedding Modelを用いて個社情報を学習・最適化させたり、Orchestratorを組み込みフィードバックさせたりすることで、業務プロセスの改善も可能となります。Few-shotプロンプティングでは、適切な例示を含む指示や質問をモデルに与えることで、望ましい出力を得ることが可能です。したがって、業務要件、顧客ニーズから必要となる品質を定義し、これらの技術を適切に組み合わせて実践しているサービスを選定することで、効率的な継続的な改善が可能となります。

このようにLLMOpsを実践する上で重要となるポイントは、AI導入を「魔法の杖」と捉えず、ビジネスプロセスや人の業務そのものを生成AI対応に変革させることです。つまり、生成AIが最大限に力を発揮できるよう、先に述べたFitTStandardの発想も意識しながら業務フローやデータ管理体制を整備することが、出力結果の品質や学習データの量を確保することにつながり、ビジネス品質を担保する源になるのです。その際には、生成AIの出力結果には誤りが含まれる可能性を考慮し、適切なタイミングでの人間による確認とフィードバックを組み込む運用設計も重要となります。

また、学習データという観点からは、AI倫理やプライバシー保護も重要な課題です。機密情報の取り扱いや出力結果の信頼性を確保するためのガバナンス体制を構築し、企業としての社会的責任を果たす必要があります。

現場リーダーは、LLMOpsの特性を正しく理解し、その限界やリスクを踏まえた上で活用することが求められます。生成AI技術を企業変革の手段として効果的に取り入れ、継続的な改善と最適化を行うことで、AXによるビジネス改革をする道が拓けます。

3.Gen-AXが提供する現場支援

Gen-AXは生成AIを活用したSaaS提供に加え、AI時代に必要な業務KPIの設計やデータ管理の仕方も含めたコンサルティングサービスを提供し、企業のAI利活用を具体的にサポート、変革する会社です。例えば、以下のアプローチで現場リーダーの皆様がジレンマを克服し、AX成功をつかみ取ることを伴走することが可能です。

3.1 FitToStandard/LLMOpsなプロダクトの提供

生成AIを活用したSaaSとしては、業界ベストプラクティス(FitToStandard)を活かして自社データを使って賢く育てていく(LLMOps)、テキスト形式での生成AIアシスタントモデルである「照会応答を支援するプロダクト」を皮切りに、音声生成AIを活用した、「自律思考型の音声応対プロダクト」を提供していく予定です。

3.2 組織変革への伴走コンサルティング

AXに向けてビジネスプロセスや人の業務を生成AI readyなデータ・プロセス・体制に組織変革するためのノウハウ・ナレッジの全てを自社で保有する企業は非常に限定的であることから、頼れる外部パートナーによる伴走が効果的な手段となります。Gen-AXは、FitToStandard /LLMOpsをはじめとする、これまでとは大きく異なる「あるべき姿」に対し、どのように現状を変化させるべきか、新たな業務プロセスはどうあるべきか、従業員をどのようにトレーニング・リスキリング・配置転換すべきか、様々な観点からのコンサルティング、実行支援を行います。

このように、Gen-AXは"自律思考型 企業向けAIエージェント"のSaaS+コンサルティングサービスを提供することで、自立に自律を融合し、次の“流れ”を生成していく存在として、皆様のビジネスの伴走者としての役割を果たしたいと考えています。