
記述研究所のテキスト 12

基礎編
一級建築士製図試験における「計画の要点等」について、当研究所では建築計画、構造、設備、環境負荷低減の4分野に分類しています。
記述試験が本格的に出題されるようになった平成21年度からの過去問傾向を分析し、効率的な学習方法を考えていきます。
今回は「環境負荷低減」です。この分野の知識は図面にも影響する重要な分野です。
近年の設問では、テンプレートを暗記するだけでは対応できなくなってきています。基礎的な知識を十分に理解し、引き出しを多くすることで自分のプランをしっかり説明できるようにしましょう。
出題傾向
過去の出題傾向から見ていきます。全記述問題のうち環境負荷低減に関する設問だけを抽出して、この出題傾向をつかみます。
設問に(図)とある場合には、補足図の要求があった場合です。
必ず記入することを求められる(図:必須)と補足してもよいとされる(図:任意)に分かれます。
令和6年 大学
①屋上設備配置計画(太陽光パネル)(図:必須)
令和5年 図書館
①省エネ化実現、再生可能エネルギー導入手法
②建築物の材料や施工方法での二酸化炭素排出低減手法
③屋上設備配置計画(太陽光パネル)(図:必須)
令和4年 事務所ビル
①パッシブ技術(図:必須)
②アクティブ技術(図:必須)
③創エネルギー、材料の選定など(図:必須)
令和3年 集合住宅
①各居室の採光(図:必須)
令和2年 高齢者介護施設
①自然光を取り込んだ冷房負荷抑制(図:必須)
令和元年 美術館の分館 10/13
①吹き抜けの自然光取り込み、平面・断面計画や開口部
②眺望、採光の確保と日射遮蔽手法(図:必須)
令和元年 美術館の分館 12/8
①トップライトを設けた吹抜けを自然換気に有効利用する工夫
②眺望、採光の確保と冷暖房負荷抑制手法(図:必須)
平成30年 スポーツ施設
①採光と空調エネルギー抑制の平面、断面計画、開口部計画
②吹抜けの採光確保と空調エネルギー削減計画
平成29年 小規模なリゾートホテル
①採用したパッシブデザイン3つ(図:任意)
平成28年 子供・子育て支援センター
①太陽光、地中熱、井水の省エネ手法
②自然採光、自然換気手法
平成27年 市街地に建つサ高住
環境負荷低減に関する出題はありませんでした
平成26年 温浴施設のある道の駅
①勾配屋根、吹抜け等の環境負荷低減手法
平成26年 温浴施設のある道の駅 沖縄
①冷暖房負荷削減及び自然通風
②空調用エネルギー削減手法
平成25年 大学のセミナーハウス
①自然採光促進、日射遮蔽、空調エネルギー削減
平成24年 地域図書館
①一般開架スペースの自然採光及び日射遮蔽
平成23年 介護老人保健施設
①空調、給排水衛生、電気設備の光熱費削減手法4つ
平成22年 小都市に建つ美術館
環境負荷低減に関する出題はありませんでした
平成21年 貸事務所ビル
①環境負荷低減(熱負荷の抑制、省エネルギー等)
傾向分析
この分野の出題は、いかに省エネルギーな建築物を実現するかが問われます。
過去の例文を覚えるだけで解答できた問題は少なく、設備や省エネの幅広い知識が必要です。
近年はイラストを必須として、深い知識や今まで出題されていないことが問われています。
類似課題テーマでの共通点
令和6年の類似問題
令和6年の大学に対し、平成25年の大学のセミナーハウスが同じ大学施設となります。
令和6年 大学
①屋上設備配置計画(太陽光パネル)(図:必須)
平成25年 大学のセミナーハウス
①省エネ化実現、再生可能エネルギー導入手法
②建築物の材料や施工方法での二酸化炭素排出低減手法
令和6年は課題発表にあった地震対策から多く出題されました。環境負荷低減分野からはほとんど出題されませんでしたが、今後も要注意の頻出分野です。
令和5年の類似問題
令和5年の図書館に対し、平成24年の地域図書館は同じ「図書館」を扱っているので参考になります。
令和5年 図書館
①省エネ化実現、再生可能エネルギー導入手法
②建築物の材料や施工方法での二酸化炭素排出低減手法
③屋上設備配置計画(太陽光パネル)(図:必須)
平成24年 地域図書館
①一般開架スペースの自然採光及び日射遮蔽
令和5年は、平成24年に比べて省エネルギーに関する深い知識が問われています。
基本的なことをしっかり理解していれば対応できるため、設備を含めて基礎を大事にしましょう。
令和4年の類似問題
令和4年の事務所ビルに対しては、平成21年の貸事務所ビルが同じ「事務所ビル」であるため、参考になります。
令和4年 事務所ビル
①パッシブ技術(図:必須)
②アクティブ技術(図:必須)
③創エネルギー、材料の選定など(図:必須)
平成21年 貸事務所ビル
①環境負荷低減(熱負荷の抑制、省エネルギー等)
令和4年は、平成21年に比べて細かな区分けでの省エネ対策を問われています。これも基礎を十分理解できていれば対応可能なので、設備を含めて基礎固めをしましょう。
過去問のうち、類似課題テーマは最も参考となる設問ですので、課題発表後には早めに確認しましょう。
環境負荷低減分野は過去問中心の勉強をしつつ、基礎事項をしっかりと理解することを目指しましょう。
環境負荷低減とは
環境負荷低減は、建物で消費される様々なエネルギーを低減させることです。建物で使われるエネルギーの主なものは以下のとおりで、これらを様々な手法を用いて減らすようにします。
[建築物で消費されるエネルギー]
1.空調エネルギー
2.給湯エネルギー
3.照明エネルギー
4.給水エネルギー
各エネルギーを減らす手法としては、パッシブデザインとアクティブデザインがあります。
[パッシブデザイン]
「パッシブ」が「受動的な」という意味であり、自然エネルギーを建築設計手法にて受動的に利用することを指します。機械装置を使わずに快適な環境をつくる方法のことです。
[アクティブデザイン]
「アクティブ」が「能動的な」という意味であり、自然エネルギーを建築設計手法にて能動的に利用することを指します。機械装置を用いて快適な環境をつくる方法のことです。
1.空調エネルギー削減
空調エネルギーを削減する方法を示します。
[パッシブデザイン]
外皮断熱性の向上
日射遮蔽性能の向上
自然通風の採用
[アクティブデザイン]
各種アクティブデザインの採用
パッシブデザイン
外皮断熱性能の向上
緑化により日射を遮り、建物躯体の断熱性が向上することで、冷房負荷を軽減できます。屋上や壁面を緑化します。
外断熱や高気密サッシを採用することで建築物の断熱性を向上させます。空調エネルギーを抑えることができます。


日射遮蔽性能の向上
Low-E(Low-Emissivity:低放射率)ガラスとは、特殊な金属膜を表面にコーティングしたガラスを組み合わせた複層ガラスです。日射の熱を抑え、断熱性も高いので一年を通して空調負荷を軽減させることができます。
冬場の暖かさ重視と夏場の暑さ対策の目的により、特殊金属膜をコーティングしたガラスの位置が異なる2タイプがあります。


開口部にルーバーを設置し、直射日光を遮ります。まぶしさを調整するとともに、夏場の室温上昇を防ぎ、空調負荷を低減します。南面は水平ルーバー、東西面は垂直ルーバーを設置して日照を調整します。


