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ハッカソンは日本を変えるかもしれない

カナダに留学してはや6年。
私が最も驚いたのは、就職活動の仕組みの違いだった。

市橋 源
ウォータールー大学コンピューターサイエンス学科3年生

2003年 愛知県生まれ、岐阜県岐阜市育ち。
私立中学校で不登校になり退学。
高校からはカナダへ単身で渡り、大学にも入学。現在に至る。

自己紹介

北米での就活/採用の仕組みと違い

高校留学中、ホストファミリーと暮らしていた私には、就活に苦戦する大学生の兄がいた。

一流の大学で優秀な成績を修めながらも、彼は一度もインターンシップへ行かなかった為、実務経験が足りないと選考対象外にされてしまっていた。

北米と日本では人材に求めるものが根本的に違う。

日本では新卒を採用してから数年かけて人材を育てる前提があり、「長く会社に残る適応能力の高い人」に投資する。

一方で北米では「今あるプロジェクトで、即戦力として機能する人」を求めるため、新卒一括採用や終身雇用、退職金といった制度は存在しない。

人材は必要なときに必要な期間だけ雇用される。
この流動的な環境下では転職を繰り返す人を日本では「長続きしない人材」と見られがちだが、北米では「常に求められる優秀な人材」と評価される。

そのため、個々人は若いうちからスキルと実績を積み上げなければいけない。特にIT業界では、インターン経験のない者は正社員として雇用されないのだ。

そんな背景の中、私は「インターンに強い」と評判の大学へ進学した。
しかし、インターンもプロジェクト単位での採用のため、「即戦力」を示す実績が求められる。

では、まだ何者でもない学生は、「最初の実績」をどこで得ればいいのか?

私が辿り着いた答えはハッカソンというITイベントだった。

日本の場合:新卒採用→(育成期間→)正規雇用→転職は好まれない
北米の場合:ハッカソン→インターン→正規雇用→契約更新、転職

就職の流れ

大学で出会ったハッカソン

大学2年生のとき、同級生から「ハッカソン」に誘われた。

ハッカソンとは、「ハッキング(問題解決・プログラミング)」と「マラソン」を掛け合わせたイベント。参加者は最大4人のチームを組み、24~48時間以内にゼロからプロダクトを作り上げる。
開発はスポンサー企業の製品を用いて行われ、最後に成果物のプレゼンテーションと審査が行われる。上位チームには賞金や賞品が与えられ、企業から面接機会を得られることもある。
食事や記念Tシャツなどが無料で提供されるため、ハッカソンを渡り歩いて暮らす人もいるそう。

私が初めて参加した「Hack the Change」は24時間のオンラインハッカソンで、テーマはsustainability(持続可能性)。

4人でチームを組み、当時流行り始めていたChatGPTで「冷蔵庫にある食品を管理し、賞味期限が近づくとAIがレシピと完成イメージを生成する」ウェブアプリを開発した。身近なフードロス問題への取り組みだったが、あと1時間ほど足りず提出に間に合わなかった。

悔しい気持ちが残ったものの、わずか1日でアイデアからプロトタイプまで形にできた衝撃は大きく、それから週末はハッカソンへ足を運ぶようになる

仲間が来られないときは、現地で即席チームを組んだ。夜中にはカラオケをしたり、ピザやエナジードリンクで眠気と戦いながらひたすらコードを書く。寝床はいつも足りないため、ハッカソンに参加していると机や床で仮眠できるようになった。

また、ハッカソンは単なる開発コンテストにとどまらない。
スポンサー企業で働くエンジニアの方と直接話し、良い結果を出せばそのまま面接につながることもある。この瞬発的なアウトプットとネットワークの場は、北米の採用文化で生き残る上で欠かせないものだと実感した。

私が通う大学が「インターンに強い」と言われるのも、学生たちが週末はハッカソンに参加し、そこでチャンスをものにしているからだろう。こうして小さな実績を重ねるうちに、私は自分のキャリアが確かに前進していると感じた。

ITの世界で若者が手っ取り早く開発経験、ネットワーク、成功体験を得られる場 —— それこそがハッカソンなのだ。

ハッカソンに出会って2年。
今度は自分で一から、この「場」を作り上げたいと強く思った。


今度は自分で運営する側に

ハッカソンに参加する中、私には一つ不満があった。
それはテーマが曖昧なまま行われるイベントが多く、社会実装には至らないアイデアが大半を占めることだ。

「せっかくなら、スポンサーが抱えるリアルな課題やビジネスチャンスを分析し、それをテーマに設定したらどうだろう?」—— 私はそう考えるようになった。

最初は3人で30人規模のハッカソンを企画していたが、準備に追われて人手を募った結果、いつの間にか運営メンバーは30人に膨れ上がっていた。そこから話は大きく転がり、来月1月には大学で300人規模のハッカソン「GeeseHacks」を主催することになった。

GeeseHacksホームページ

現在、大学とスポンサーから約180万円の支援を頂き、応募者はすでに200人を超える。ロゴやバナーのデザインも整い、開催に向けて着々と準備中だ。

ハッカソンではお昼がいつもピザで不満だったが、300人分を一度に注文すれば半額になると知った時にはとても魅力的に見えた。細かな苦労も多いが、それらは後日別のNoteで詳しく書こうと思う。

ハッカソンを通じて、若者は早い段階で実践経験を積み、自らのキャリアをより自由に選択できる環境を得られる。この仕組みと文化を日本に根付かせることができれば、ハッカソンは日本を変えるかもしれない


最後に

ここまで北米と日本の採用文化について語ってきたが、私は北米の仕組みがすべて良いとは思わない。

プロジェクト単位での採用は、企業のトップの意向に左右されやすく、近年のパンデミックでは旧Twitterを含む大手企業が一斉解雇を行い、多くの人々が職を失う事態も発生した。

一方で、日本の長期雇用文化にも課題がある。
若者の早期退職や頻繁な転職が増えている現状を踏まえると、日本独自の雇用慣行も時代に合わせた柔軟な変化が求められるだろう。

ハッカソンは、こうした変化の一助になり得ると私は考えている。
若者が働く以前に「ものづくりの純粋な楽しさ」を体験し、スキルを磨き、キャリアの選択肢を広げられる場として、ハッカソンは非常に魅力的だ。

大学卒業後は「Hack the Japan」を日本で開催したいと考えている。

もし日本でもハッカソンが広がり、全国から多様な才能とアイデアが集まり、競い合う文化が根付いたなら、日本はイノベーションの拠点としてさらに飛躍するかもしれない。

そんなことを夢見ながら、
私は今、この「場」を作り上げる挑戦に全力を注いでいる。

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