一つのサイクルの終わりと土壌シードバンク〜五百淵公園&野鳥の森の「ちいさな自然散歩」(福島県郡山市)
10月15日(日)、郡山市の五百淵公園と野鳥の森でおこなわれた「ちいさな自然散歩」に参加しました。今年の探鳥会、4回目の参加です。
主催は公益財団法人郡山市文化・学び振興公社。ガイドを務めるのは、今回も日本野鳥の会郡山支部の皆さんです。以下、日本野鳥の会郡山支部の皆さんを「案内人さん」と呼ばせていただきます。
今年春、さかんにさえずる野鳥たちの声に癒され、もっと野鳥の声や種類を知りたいと思い、参加した郡山市主催の探鳥会と「ちいさな自然散歩」。
そこで案内人さんが話してくれた自然のなりたちや生態系の不思議さにすっかり魅せられ、7月、9月にも参加しました。季節はずれの記事になってしまいましたが、そちらもいずれアップしたいと考えています。
6月18日(日)の探鳥会の記事はコチラ↓
前回の探鳥会から約1ヵ月。
案内人さんの「森の表情は1ヵ月で変わる」という言葉通り、9月に繁茂していた野草たちはすっかり大人しくなっていました(アレチウリを除く)。代わって草むらを彩るのは、イヌタデやハナタデ、センダンギク、野菊など小さくて素朴な花たち。樹木は落葉しはじめ、その上にオニグルミの実やドングリたちが散らばっていました。
種子をつくり、命を次世代へと繋いだ植物たちは枯れ、いずれ土へと還っていくのでしょう。春から夏へ、秋へ、そして冬へと。野鳥の森には、一つのサイクルの終わりを感じさせる光景が広がっていました。
10月の五百淵。カモのオスの「エクリプス」を知る
現在五百淵(池のほう)では、水害対策のための浚渫(しゅんせつ)工事がおこなわれています。冬には排水管の交換のため、水抜き工事がおこなわれ、五百淵は水のない状態になるとか。そのため、例年なら冬に見られる野鳥が見られなくなるそう。
「でも、春には干潟の鳥が入ってくるかもしれません」と案内人さん。また、オオヨシキリたちの住処であるヨシの群生地は保存されることが決まり、来年、再来年には鳥の種類が増えると予想されるそう。
五百淵は郡山市の桜の名所の一つ。春には満開の桜の中、これまで五百淵にはいなかった野鳥のさえずりが聴けるようになるかもしれません。
本日は朝から雨が降るあいにくのお天気で、野鳥たちも雨宿りしているのか、森の中にはシトシトという静かな雨音だけが響いていました。
そんななか、五百淵を悠々と泳いでいたのがカイツブリとカモ類です。カモ類はカルガモのほか、コガモ、ハシブトガモなどが見られたようです(残念ながら私には区別がつきませんでした(;^_^
カモのオスは、メスにアピールするための華やかな羽の色が特徴ですが、案内人さんによると、繁殖期が終わったオスの羽はメスと同じような地味な色合いになってしまい、雌雄の区別がつきにくくなるのだとか。
この状態を「エクリプス」と呼ぶそうです。カモのオス特有の華やかな羽の色は完全にメスを惹きつけるためのオシャレなんですね(;^_^
実を結び、種をつくり、命を次世代へとつなぐ植物たち
一方植物たちは結実のシーズン。森のあちこちで、実を付けた樹木や種を付けた花たちに出会いました。
案内人さんが、五百淵の遊歩道脇のしげみの深い緑の中、粒状の赤い実を付けたマムシグサを発見。深い緑の中の赤がとても鮮やかです。
花の形(厳密には花ではないのかも?)が鎌首をもたげたマムシに似ていることから、その名がついたマムシグサ。
案内人さんによると、マムシグサには雌雄があり、実をつけるのは雌株の何本かに1本とのこと。ということは、今回はかなりレアなものを見たのかもしれません。
実はこのマムシグサ、名前のもととなったあの爬虫類と同じく、毒を持っているそうです。「シュウ酸が含まれているので、食べるとイガイガしますよ」と案内人さんが眉をしかめます。
えっ、でも、味を知ってるってことは? もしかして……お召し上がりに?
オニグルミに秘められた莫大なエネルギー
6月には枝いっぱいに黄緑色の梅のような実を付けていたオニグルミ。そろそろ完熟の季節なのでしょうか、遊歩道に実が散らばっていました。
こちらは6月18日の探鳥会で撮影したオニグルミの実。まだ青々しく、未熟な感じ。
6月の探鳥会で、案内人さんからオニグルミが大量のエネルギーを使い、実を完熟させるとうかがいました。
「ブナは7年に一度しか実を結びません。実を結ぶためには、大量のエネルギーが必要になるからです」と案内人さん。
そのお話をうかがってから4ヵ月。今、オニグルミの本体が大きなエネルギーを注いだ実がようやく完熟。次世代へと命をつなぐ準備が整ったようです。
そんなオニグルミについて検索したところ、詳しいサイト様を発見↓
実が熟すと外側の皮がシワシワの袋状になり、中からおなじみのクルミが出てくるようです。ということは、上の写真のクルミはまだ未熟ってこと?
クルミは「北海道から九州まで日本各地に分布するクルミ科の落葉高木。古くから日本に見られる野生のクルミであり、本州北部の沢や川辺に特に多い」そう。リスや野ネズミ、ツキノワグマなどの野生動物の餌であり、縄文時代には食糧にも用いられていました。
ちなみにオニグルミと呼ばれるのは、日本古来の野生のクルミのこと。外国産のクルミと区別するため、「オニグルミ」と呼ばれるようになったとか。「鬼」は、硬い殻の表面の模様が鬼の顔に見えることや、果実が大きくて核が硬いことから名づけられたそうです。
ドングリと杉。さまざまな種子のカタチ
オニグルミの実同様、遊歩道に散らばっていたのがドングリたち。残念ながら掲載に値するような写真は撮れませんでしたm(_ _)m
案内人さんによると、今回地面に散らばっていたのは「コナラのドングリ」だったそう。それを聞いて、ドングリがなる樹木が複数があることをはじめて知ったわたしです(;^_^
調べてみたところ、マテバシイ、クヌギ、コナラ、シラカシが代表的なドングリらしい。このうち目にする機会が多いのは、やっぱりコナラかも。
次に案内人さんが解説してくれたのが、花粉症の方を悩ませる杉の種。枝に付いている茶色の粒は「球果」と呼ばれ、中に種が詰まっているそう。
花粉症の方にとっては、にっくき敵である杉ですが、下記のサイト様によると、日本固有の針葉樹なのだそう。また、他の樹木にくらべ、「大気中の有害ガスを吸収・吸着して空気を浄化する性質が顕著であることがわかってきた」とのことです。
掲載されていたグラフによると、杉材を置いた部屋と杉材を置かない部屋では、二酸化窒素浄化能力は約78%、ホルムアルデヒドでは約50%も違うのだとか。
アレルギー性疾患の一つ、花粉症の原因とされる杉ですが、(断定はできませんが)シックハウス症候群の方には有効だったりするのかもしれません。
案内人さんが「杉、ヒノキ、赤マツは法律で伐採時期が決まっています」と説明したところで、「あ!」という声が上がりました。参加された方が、池の淵でイタチのような小動物を発見! どうやらミンクだったようです。
もちろんミンクは外来種。五百淵や南川渓谷でよく目にするアメリカザリガニの死骸は、ミンクのほかカラスなどの食べ残しのようです。
森に響く野鳥の声と森を彩る素朴な花たち
遊歩道を歩き、野鳥の森入口へ。案内人さんを先頭に、五百淵の遊歩道から隣接する野鳥の森へ入ります。
前述したように、この日の五百淵はひっそり静か。時折シジュウカラやコマドリの声がかすかに聴こえてくるくらいでした。ほかには、ヒヨドリやカケス、メジロがいたようです(わたしは聴き取れませんでしたが…(;^_^)
この時期の野鳥の森を彩るのは、キンミズヒキやイヌタデ、ハナタデといった小さくて素朴な花たち。一方9月にはものすごい勢いで繁茂していたヨウシュヤマゴボウはすっかり枯れて、元気をなくしていました。
さかりを過ぎたヨウシュヤマゴボウ。ツヤツヤの実もなく、葉っぱも茶色になり、茎も葉もグッタリ。力を使い果たしたという感じでしょうか。
ヨウシュヤマブドウですが、厚生労働省の「自然毒のリスクプロファイル」に名を連ねるほどの毒を持っているらしい(怖)
日当たりのよい道端では、知られるアカネを発見。染色に使われることもあり、希少な植物かと思い込んでいましたが、道端や生垣でもよく見られるありふれた植物なのだとか。
案内人さんが「アカネは蔓性植物。茎に下向きの棘があり、それをほかの植物に引っ掛けて立ち上がり、絡みつきながら繁茂します」と教えてくれました。
下の写真はノコンギグ。野菊に似た植物は種類が多く、案内人さんや植物に詳しい方が、花や葉っぱの形を見て判断していました。
小さな黄色の花を付けるセンダングサ。種(そう果)には、人間の衣類や動物の毛に引っかかっりやすいよう棘が付いています。
秋の野山に入ると、衣類にいっぱい付いてきて、「バカがついてきた」などと呼ばれるものの一つ。「ひっつき虫」とも呼ばれるそう。わたしがこの日履いていったレッグウォーマーにもたくさん「ひっついて」いました。
下の写真は巨大な大ブタクサ。「ここまで大きなものは、なかなかお目にかかれないですね」と案内人さんも目を見張る大きさでした。
種を残し、仲間と共存するための機能「シードバンク」
案内人さんによると、センダングサも大ブタクサも、これまでの野鳥の森ではあまり見られなかった植物なのだとか。6月にニセアカシア(ハリエンジュ)を伐採したことで、日差しが地面まで届くようになり、これまで眠っていた種子がいっせいに芽を出したのだそう。
案内人さんによると、休眠していた種子の集団が光を受けて発芽するしくみを「シードバンク」と呼ぶそう。「中尊寺ハス」などで知られるように、何100年と眠っていても、光などの条件がそろっていれば、植物は発芽するのだとか。
実を結ぶためのオニグルミのエネルギーにも驚きましたが、小さな種子に秘められた大きな生命力にも驚かされました。
九州大学理学部生物学科のホームページによると、「シードバンクがあれば、たとえある時期に地上での光をめぐる競争で排除されても、別の時期に再生できる可能性がある」。また「長い時期の間には様々な環境が訪れるので、発芽のタイミングをずらすことで共存が可能になる」とのこと。
「シードバンク機能」は、自分たちの「種(しゅ)」が生き延びるためだけでなく、他の植物と共存するためのものでもあるのですね。野鳥の森だけでなく、他の森林にも知られていない「シードバンク」があり、発芽の時期を待っている種子たちが眠っているのかもしれません。
九州大学理学部生物学科さまのホームページ↓
野鳥の森を変えたニセアカシアの伐採
また、日当たりがよくなったことで、聴こえる野鳥の声も変わってきたといいます。「キジバトの声が聴こえるようになりました。これもニセアカシアを伐採した影響です」と案内人さん。
下は雨と暗さと逆光で見づらいと思いますが、近くまで飛んできてくれたつがいのキジバトです。現在、繁殖シーズンなのだとか。
ニセアカシアの駆除(伐採)で、日差しが届くようになり、「シードバンク機能」が働き、地中で眠っていた植物がいっせいに芽吹く。森に繁茂する植物の種類が変わることが、森に生息する野鳥たちの種類にも影響を与える。
森を構成する野鳥と小動物、植物はお互いに影響し合いながら、生きている。うまく表現できませんが、あらためて自然のしくみの不思議を感じました。
その②に続きます。