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ウェールズ語の標識・看板をよんでみよう 1 - Llanbedr Pont Steffan

ウェールズ語の実践というとたいていは会話の練習になるんですが、現地でのサバイバル(笑)に役に立つのが看板を読む能力です。

まぁ、ぶっちゃけて言いますと、基本的にバイリンガル表記なので、併記されている英語を読めばよれで良い話なんですが、どうせならウェールズ表記に先に目が行くようになれば、「偽ウェールズ人」っぽくなるというもの。

このシリーズでは、ちょっとずつ看板を読んでいくことで、文字通り「実践的」に文字に慣れること、スペルと読みの法則性に慣れることもできます。

今回は初回なので、特にいろんな背景情報を入れていきます。

さて、ではここで、我らランピターの町の入口をしめす標識?看板?を見てみましょう。


Lampeter Town Sign. Taken by the author. 1st September 2002.

グラモーガンのようなほぼほぼイングランド地域とは違い、ランピターのあるケレディギオン州はウェールズ語の話されている地域ですので、併記の場合、たいていウェールズ語は先、英語が後、になります。

ランピターの看板にかかれている文章を抜き出してみます。

  1. Croeso / Welcome

  2. Llanbdr Pont Steffan / Lampeter

  3. Gyrrwch yn ofalus / Please drive carefully

  4. Tref Prifysgol / University Town

順番に見ていきましょう。


Croeso / Welcome

これ、あたりまえすぎて、講座シリーズでは取りあげていませんが、Welcome, つまり「ようこそ」にあたるウェールズ語はCroesoといいます。

Croeso.
クロイソ
ようこそ

ここでは、単体で「ようこそ」といっていますが、例えば、「~へようこそ」と言いたければ、英語の"to"にあたる"i"をつけて次のように言います。

Croeso i Aberystwyth.
クソイソ・イ・アバラストウィス
アバラストウィスへようこそ

なぜ、ここで元ネタのLlanbedr Pont SteffanではなくあえてAberystwythを出したかというと、この前置詞である"i"はあとに続く語にソフトミューテーション(以下、S.M.)による変化を起こしてしまうからです。
S.M.では、LL(ダブルエル)はLに変化しますから、「ランピターへようこそ」というには

Croeso i Lanbedr Pont Steffan.
クロイソ・イ・ランべドル・ポント・ステファン
サンベドル・ポント・ステファン(ランピター)へようこそ

という形になります。
これ、意外に面倒くさくて、ウェールズに入るときの看板にはよく「ウェールズへようこそ」と書いてあったりしますが

Croeso i Gymru.
クロイソ・イ・ガムリ
カムリ(ウェールズ)へようこそ

これをみて、ウェールズって「ガムリ」っていうんだと思ってしまったら間違いです。(その前にGymru自体をが無理と読めるとが少ないという話もありますけど)

他にも:

Croeso i Mangor.
クロイソ・イ・マンゴール
バンゴール(Bangor、バンガー)へようこそ

といったように語形変化するので、仮に前置詞"i"がついて文章となっている場合の看板には注意いたしましょう。

Llanbedr Pont Steffan / Lampeter

ランピターのウェールズ語での正式名称は:

Llanbedr Pont Steffan
サンベドル・ポント・ステファン

と言います。
日本語に訳せば、「ステファン橋のある聖ペトロ教会の集落」という意味です。

  • Llan = ~の教会(のある集落)

  • bedr =pedrのS.M.変化形 = Peter = ここでは聖ペトロのことです。

聖ペトロというのはイエズス様の筆頭弟子です。
ウェールズでは古くからカトリック公認の聖人、ケルト地域のローカルな聖人の崇敬が盛んになりますが、この地では聖ペトロの崇敬が盛んになり、13世紀にはすでに教会が聖ペトロに捧げられていたという記録があるそうです。

St Peters Church, Lampeter, Ceredigion, Wales.  Taken by the author.  4th April 2003.

この教会は今でもランピターの丘の上に国教会系のウェールズ教会所属の教区教会として存在しています(現存の建物は19世紀のもののようです)
※私も一度聖霊降誕祭のあたりのミサに参列させていただたことがあります。子どもたちが集まっていて、司祭さんの話をしっかりと聞いていました。聖霊と人間の関係をわかりやすく電気と掃除機の関係に例え、人間には聖霊の加護が必要とわかりやすく説明しておられたように思います(20数年前のおぼろげな記憶)

  • Pont Steffan = Steffan’s (Stephen’s) Bridge = ステファン(スティーヴン)橋

フランス語を知っておられれば、Pont(ポン)という単語がフランス語でも「橋」を意味すると言うことを覚えておられるでしょう。それと同じです。


ステファン橋の前後にある街灯 Light and the evening at Lamapter, Ceredigion, Wales.  Taken by the author.  1st September 2002.

ステファン橋というのは街の外れを流れるテイヴィ川(Afon Teifi)に掛かる橋のことですが、ここではより先の話がありまして、ノルマン時代に遡り、ランピターに作られた城(砦)が「ステファン橋のあるところの城」というような意味合いでPont Steffanと名付けられていたようです。
そして、中世になって街が明確に形成されて教会が聖ペトロに捧げられるに及んで「Llanbedr Pont Steffan」となったとのことです。

英語名はLampeterです。
稀に、"Lampeter Pont Steffan"という書き方をするのを見たことがありますが、基本的にはLampeterです。
ウェールズ語名もカジュアルな場では"Llambed"と言います。(なぜ"m"になるのかはよくわかりません。私も間違えていたときがあります)
なので、Lampeterというスペリングはこの略称形から来ているのではないかなぁと思っています。

※英語形ってのはウェールズ語がわからないイングランド人などが聞き取って書き写したわけですから、元の語の音と綴に上手く対応しているところも対応していないところもあります。
15世紀に英語形として"Thlampetre"と綴られていたこともあるそうです。

Gyrrwch yn ofalus / Please drive carefully

Gyrrwch yn ofalus.

ガルゥク・アン・オヴァリス

「運転する」という動詞の原形はgyrru(ガリ)ですが、この語幹を残して帯をwch系に変化させることで命令形にできます。

ofalus(オファリス)は「注意深い」という形容詞なのですが、これに"yn"をつけることで副詞として用いることができます。
したがってofalus (careful) → yn ofaus (carefully)として使うことができます。

Pleaseに値するフレーズが別にあるのですが、こういった場合ウェールズ語ではあえて用いないようです(言外に含意しているのかもしれない)

Tref Prifysgol / University Town

Tref Prifysgol

トレヴ・プリファスゴル

ランピターには大学があります。
現在は合併の結果Univerisity of Wales Trinity St Davidの Lampeter campusとなっていますが、元々は1822年設立の高等教育機関St David’s Collegeが源流です(その後、St David’s University College → University of Wales, Lampeterとなり、2010年に合併により現校名)。

実はこの1822年というのは英国の大学の歴史ではかなり古く、イングランド&ウェールズではオックスフォード、ケンブリッジに次ぐ3番目のふるさになります。
当時は聖職者養成のための高等教育機関として設立され、後に神学及び文学の学士を授与する勅許を得ることになるものの、文字通りのUniversityではなかったのですが、それでもこの存在はこの街の誇りなのです。

ちなみに、現在の大学のある場所こそ、前述のノルマン時代の城の跡だったりします。


ノルマン時代の城跡である盛り土 Castle Mount at the campus of University of Wales Lamapeter (of that time), Taken by the author.  20th APril 2023.

さて:

  • Tref = Town = 町

  • Prifysgol = University = 大学

Trefはしばしば"Tre"というように"f"が欠落することがありますが、このような正式な書き言葉では省略されないことが多いです。

PrifysgolのPrif(プリヴ)はchiefといったような意味、ysgol(アスゴル)は学校ですから、「一番上の学校」という意味でしょう。

ウェールズ語は後ろから前に基本的にかかっていきますから、Tref Prifysgolという並びにします。

このように看板を見ていくと、実際のウェールズ語の使用例、その土地の状況・歴史といったものも見えてくるので面白いかと思います。

次いつあるかはわかりませんが、今回はこれにて。

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