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ウェールズ語の標識・看板をよんでみよう 2 – Llanbedr Pont Steffan 「新看板」編

さて、このシリーズのPart 1でLlanbedr Pont Steffan/Lampeter(サンベドル・ポント・ステファン/ランピター)の「ようこそ」看板を読みました。

内容はともかく、看板、ボロボロでしたよね。


Lampeter Town Sign. Taken by the author. 1st September 2002.

なんかの大雨のときにボロボロになったような気がしますが(全然覚えていない)、ふと気になってGoogle Street Viewでみてみました。

私が撮影したのは2003年ですが、Street Viewでみられる最も古いのが2009年:

おお、ちょっと修復されとる。

その次に2011年をみますと:

おお看板が新しくなっている!
ただこの絵だと少し文字が潰れて読みにくいので、違う年の写真で見やすいのを探そうとしましたら、あれ、2015年10月のでは看板がなくなってる!?

強風かなんかあったんですかねぇ?
2016年8月のでは元に戻ってました。わざと外していたのかな?

というわけで、2016年の看板を読んでみようと思ったのですが、2021年では看板が少し増えていました。

なので、2021年の看板を元に読んでみます。
※2022年からは一番下の標語が変わっているんですが,あんまり面白くなさげだったので、2021年のものを読みます

  1. Llanbedr Pont Steffan / Lampeter

  2. Tref Brifysgol hanesyddol / Historic University Town

  3. Gefeilliwyd â St. Germain Sur Moine /Twinned with St Germain Sur Moine

  4. Man geni Rygbi yng Nghymru. / Birthplace of Rugby in Wales.

  5. Ystyriwch bob taith. / Consider each journey.

  6. Arhoswch yn lleol. / Stay local.

ちなみに、下記のJaggery氏がGeographに投稿している2019年5月11日撮影の写真によると、上記の(5)(6)の追加看板はついていません。その内容から言っても明らかにコロナ禍での対応の一環としてつけられたものではないかと思います。

"Southeast boundary sign, Lampeter for SN5847". © Copyright Jaggery and licensed for reuse under this Creative Commons Licence.

Llanbedr Pont Steffan / Lampeter

これはもう良いですね。前回述べたランピターのウェールズ語名と英語名です。

Tref Brifysgol hanesyddol / Historic University Town

Tref Brifysgol hanesyddol
トレヴ・ブリヴァスゴル・ハネサゾル
歴史的な大学の町

でました。ユニヴァーシティ・タウン。
でも今回はHistoricと歴史を強調している標語になっていますね。
お気づきなった方はいますか?
前回の"University Town"は"Tref Prifysgol"でした。
今回は”Prifysgol”がソフトミューテーション(S.M.)起こして"Brifysgol"となっています。
これについては、おそらく、という程度推測なのですが...こんな流れだと思います。

  1. Trefは女性名詞である。

  2. Prifysgolも女性名詞。

  3. Tref Profysgol - 女性名詞+女性名詞なので特にS.M.は起こらない

  4. hanesyddolという形容詞がつくことにより、"prifysgol hanesyddol"(歴史的な大学の)という連体形容詞的な語句となる。

  5. 女性名詞のあとの連体形容詞はS.M.が起こるルールが発動!

例えば、似たような意味の男性名詞の"coleg"(コレグ;=college、カレッジ)だと、S.M.が起きずに"Tref Coleg hanesyddol"(トレヴ・コレグ・ハネサゾル)となります。
例えば、女性名詞の"marchnad"(マルクナッド;=market、市場)の場合だとS.M.が起きます。

Tref farchnad hanesyddol.
トレヴ・ヴァルクナッド・ハネサ`ゾル
歴史的な市場の街(マーケットタウン)

Tref farchnad enwog.
トレヴ・ヴァルクナッド・エヌゥオグ
有名な市場の街(マーケットタウン)

なので、そういった理由なのかなと思います。
※S.M.の発生するしないの条件は非常に細かくてネイティヴ以外はワケワカリません。

Gefeilliwyd â St. Germain Sur Moine /Twinned with St Germain Sur Moine

Gefeilliwyd â St. Germain Sur Moine
ゲヴェイスィウィド・アァ・サン=ジェルマン=シュル=モワンヌ
サン=ジェルマン=シュル=モワンヌと姉妹都市

サン=ジェルマン=シュル=モワンヌはフランスの地名なので、あえてウェールズ語っぽく読まずに、そのままにしてあります。

Gefeilliwydというのは"Gefeillio"(ゲヴェイスィオ, "to twin"「双子/姉妹関係になる」)という動詞から派生しています。
"Gefeillio"の語幹"Gefeilli-"に"wyd"をつけることで、非人称分詞(ようするに人称を持たない文で用いる分詞形)を作ります。
ここでは言外でLlanbedr Pont Steffanが主語なのは明白ですが、文章上は、主語となっていないので、
非人称分詞形を取っているわけです。
"â"は"with"の意味ですから、「サン=ジェルマン=シュル=モワンヌと姉妹都市になっている」という意味になるわけです。
※2つとも「都市」ではなく「町」ですけどね。

Man geni Rygbi yng Nghymru. / Birthplace of Rugby in Wales.

Man geni Rygbi yng Nghymru.
マン・ゲニ・ラグビィ・アンハムリ
ウェールズのラグビー誕生の地

一応英語的には成句的に"man geni..."で"birthplace of ..."と覚えても構いません。
"man"が"place", geniが"to give a birth"なので、細かく言うと"the place to give a birth to ..."なのかもしれませんが、上記の成句として覚えれば問題ありません。
Rygbiというのは英語のRugbyの借用語(要は外来語としてそのまま借りてきた単語)。

さて、問題は"yng Nghymru"です。
これを分解すると:
"yn"(アン) + "Cymru"(カムリ)です。

この"yn"は場所を表す前置詞で、英語で言うところの"in"です。
"Cymru"はウェールズを意味します。

前置詞"yn"のあとに特定の文字が来た場合、緩音現象(ミューテーション)が起こり語形が変化します。

このような語形変化をNasal Mutation(ネイザル・ミューテーション、以下、N.M.と略す)と言います。
ネイザルというのは鼻音のことです。
なので、この変化を起こすとかなり鼻にかかった音になります。

「アンハムリ」と表記しているところの「ンハ」のあたりを思いっきり鼻にかけて発音してください。
この鼻濁音のNG音は関西圏の人は発音しにくいと思います。
日本語の東京方言だとガ行鼻濁音がそもそも厳格なのですが、上方方言、特に京都近辺の言葉の場合、存在してもほぼ意識されない音だからです。

なので、ウェールズ語でネイザル・ミューテーションが出てきた場合、あえて意識して鼻にかけて発音してくださいね。

え、なんでサンベドル・ポント・ステファンがウェールズラグビー誕生の地なのかですって?
それは別稿で扱いますね。

Ystyriwch bob taith. / Consider each journey.

Ystyriwch bob taith.
アスタリウック・ボブ・タイス
それぞれの旅を考えよう。

一番下の布状のテント看板に書かれているこの文と、この次の文の2つは明らかにコロナ禍の標語ですね。
英国もコロナの被害者がかなり出ましたから、うろちょろするな、ということでしょう。
「考える」("to consider")という単語は"ystyried"(アスタリエド)と言います。
この語幹"ystyri-"のあとに命令形の"-wch"がついて"ystyriwch"(アスタリウッ`ク)となります。

"bob"は「それぞれ」「みんな」などを意味する"pob"がS.M.した形です。

"taith"は「旅」("journey" "trip")を意味する単語です。

Arhoswch yn lleol. / Stay local.

Arhoswch yn lleol.

アルホスゥック・アン・~セオル

ステイ・ローカル(地元にいよう)

"Arhoswch”も命令形だということはもうおわかりですね。
では"-wch"が命令形を作る語尾だとして、語幹は"arhos-"、では元の単語は?

実は元の単語は"aros"(アロス、「とどまる」「待つ」)で、実はこれはちょっと変な動詞の一つなんです。
どういう理由だったか忘れてしまいましたが、もともと中世ウェールズ語で"arhos"だったのが、現代の現用ウェールズ語では"aros"となりました(音が落ちたんでしょう)。
ただ、文語文でも口語文でも、語幹を残して語形変化する場合、もとの"arhos-"変化になります。

"lleol"は「ローカルな」「地元の」といった意味の形容詞です。
以前にも出てきましたが、形容詞に"yn"がつくことで副詞化できます。
ですので、"yn lleol"は"locally"のような意味ですから、標語的な言い方で"Stay local"と言っているわけです。

私がサンベドル・ポント・ステファンから離れて20年。
大学も変わり、取っていたコースは無くなり、街もだいぶ変わってしまったでしょうが、歴史の流れはこれからも綿々と続いていきますし、看板や標識からそういったものが読み取れると面白いですね。

今回はこれまで。



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