第4回 はじめてSANTiがジェラートをお客様に届けたときのこと
この冬、ショーケースに並ぶことが増えた「クロモジ」。
あたためたミルクにクロモジをじっくり浸して香りをうつしたフレーバー。名前に反して真っ白なジェラートを口に含むと、ミルクよりも先にスッと抜けていくハーブらしい香りと、森を感じるようなジワリと渋い滋味が広がります。そのあとにやわらかなミルク。
鎌倉のSANTiにいらっしゃるお客様でクロモジの植物を知っている方って、多くはありません。
「クロモジって何ですか?」
そうご質問いただくと、スタッフも説明のしどころだ!という気持ちが湧きあがってきます。ひとりは「和製ハーブのジェラートで…」とお話しを伝え、ひとりはクロモジのサンプルをお客様に嗅いでいただき、またひとりは「クロモジって和菓子の高級な楊枝に使われていて…」と素材の説明をする。紹介は十人十色ですけれども、クロモジは一度召し上がると忘れがたくて、お出ししている間は何度もお客様が「クロモジある?」と尋ねていらっしゃることをみんな知っています。それくらい、通好みで地堅い人気があるフレーバーです。
そのクロモジ。
今は山梨のハーブ園「FLOWERBARN lesmyrte」さんからいただいたクロモジの葉を使ってお作りしています。これは2021年になってからのことで、それまでは西多摩からいただいたクロモジの枝と葉を使っていました。
今日はそのころのお話です。
2016年、春。
GELATERIA SANTiは「SANTi」という名前で初めてジェラートをお客様にお渡ししました。
場所は奥多摩の古民家の一角。まだ大きな調理器具のないころで、1度に作れる量はとてもわずか。何回も何回も作業を繰り返し、機材を回して、お客様に出せる量を仕込んでいました。
ロゴも、デザインもなかったころ。がくに手書きの「GELATERIA SANTi」という名前を書いたものを入れて、掲げていました。
2種類ずつのジェラートを、2ヶ月に一回のイベントに向けて開発をし、一年間で12フレーバー。自信のあるフレーバーが、そのイベントを通じてできたかな、と松本純さんが語ってくださいました。
最初は、《木》をテーマに、ダブルで盛り合わせるフレーバーを考えました。持ち前の50〜60レシピの中から松本愛子さんと純さんが選んだのは、《メープル》と《さくら》。
これがSANTiがジェラート屋さんとして初めてお出ししたフレーバー。50〜60食程度をお作りして初めて出店したイベントで初めて食べてくれた人たちが、「すごく美味しい」「こんなの食べたことない!」と言って食べてくれる姿を目の当たりにした純さんは「ああ、これ大丈夫そうだな」と思ったそうです。はじめて来てくれたお客様も覚えていますよ、写真家のご夫婦で…とお話しになる目は、つい先日のことを見るよう。
クロモジとの出会い
イベント出店を2年ほど続け、少しずつ名前を知ってもらい、手応えを感じてきたころのこと。
奥多摩は林業が盛んです。奥多摩町ホームページによると奥多摩町の94%が森林。東京都で最も高い標高の雲取山をはじめとした山々に囲まれています。
そんな林業にまつわる街で、カフェをなさる方から声をかけられました。
「アロマに使えるオイルを出す木がある。これ、何かに使えないですか」
その方からお茶のようにして出したクロモジをいただき、飲んだ純さんの脳裏にイメージが湧いてきました。「お茶にしてこの味が出るんだったら、ジェラートにして出せるんじゃないかな」。
最初は林業の方から、葉っぱをもらってジェラートを試作。
けれどそれだとお茶っぽくなったり、苦味が出たりして、ジェラートとして仕上がってこなかった。
ここから試行錯誤が始まりました。
その次は、葉っぱと木のまざったものを分けていただいて、試作。そうすると、スパイシーさが加わりましたが、まだくさみが残っている。
「それで最後、枝だけもらったんですよ」
クロモジの枝だけで作ったジェラートは、今まで食べたことのないジェラートに仕上がった。おうちで試作して一口、「これおもしろいね」。
SANTiのレシピがまたひとつ増えた瞬間でした。
開店後、お店で出すとツウの人に好評で、「アレないの?」と声をかけていただけるようになりました。それからは、木を分けていただいた時に作るSANTi幻のフレーバーとして、ときたまにお店に並ぶようになったのです。
はじめのころはむき出しの枝として「入荷」していたクロモジ。時には枝だけが、時には葉がちらほらとついたものが。
それを手にした純さんがほくほく顔でお店の扉を開くと、工房から愛子さんとパティシエのうっちーが出てきて、わっとお店が明るくなる。それが工房に持ち込まれて、いつしかじわりと脳をくすぐる深い香りがただよってくる。
クロモジの入荷は、秋深まりかけたSANTiの風景そのものでした。
それがいつからかチップでいただけるようになり、お客様からの「クロモジが忘れられない」というお声もあって、2021年から「FLOWERBARN lesmyrte」さんのクロモジを使わせていただくことになったのです。
おうちでジェラートの試作をしているころの貴重なお話も今回の取材で伺いました。次回も昔の思い出を交えて、SANTiのお話をいたします。それでは、また!
▶︎TOP PHOTO by YUKA KASAYA
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GELATERIA SANTi
神奈川県鎌倉市御成町2−14
SANTi×ひと written by akico
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