第2回 愛子さんとジェラート
SANTi×ひとの物語。
GELATERIA SANTiを軸に出会ったひと・もの・ときを、ライターが紹介いたします。更新は隔週水曜日。
GELATERIA SANTiの店主の愛子さん。
鎌倉のお店がはじまった当初から、出身地・新潟からのお友だちがいらっしゃる場面に、よく出会いました。
愛子さんと、ジェラートと、ひとのいる場所はいつもとても明るくてやさしい感じ。愛子さんにとってジェラートってどんな存在なのかしら。今回は散歩をしながらきいた、愛子さんのおはなしを紹介します。
「ジェラートといえば」
ーージェラートって、愛子さんにとってどんなもの?
「器」。いろんなものを詰める器かな。
大前提として「好き」のパッションがある。
……そうだ!高校のときに、学校の裏の海の近くにジェラート屋さんがあって、それがすごく好きで、授業中とか放課後とかに行ってた。そこはね、日本海にある、「ポポロ」。
今まであんまり話したことなかったかもね! 「ジェラート」って言うとそこがまず思い浮かぶなあ。まさかの、「原点・ポポロ」!笑
ジェラートといえば、ポポロ!
《ジェラテリア Popolo》
ーー授業中もジェラート!?おしゃれな高校生だ!!そのときはどんなジェラートを?
「マスカルポーネ」!!!ティラミス風のマスカルポーネジェラートがあって……その当時は「マスカルポーネ」なんて知らなかったよね。あとは、えだ豆!!
体育祭の練習の前とかね、懐かしいな。天気の良い日は先生に「ホームルームは海」プレッシャーをみんなでかけて……高校生活のいち風景が、友だちと食べにいったジェラートだったのかも。しかも、日本海。
新潟ってジェラート屋が多いんだよね。寒いのに!
ーー愛子さんにとっては、ジェラートってイタリアで突発的に出会ったわけじゃないのね!
そうね、すでにジェラートというものになじみがあったのかもしれない。なめらかというよりはあっさりした、ひと昔前のね。
他にも、《ジェラテリア レガーロ》は温泉に行く途中にあって、大学生になって帰省すると友だちと行ったりしてたよ。
《ジェラテリアレガーロ》
イタリアのジェラートと愛子さん
ーーイタリアに行くときも、ジェラートのことは意識してた?
そのころ「仕事として飲食店」みたいな頭はまったくなかったな。
……けどね、もしも大学を卒業したときに就活してたとしたら、ハーゲンダッツに就職したかった! アイスの開発とか良いよね、なんて話を友だちとしてた。飲食店経営って頭はなかったけど、振り返ってみればあったんですね。
私、子どものときの初めての「将来の夢」がパン屋さんだったの。節目節目に、確かに食べ物が関わってるんですね。肉は好きでも作りたい、とはならなかったけれど、パンとか、ジェラートとかは、どこかしら好きで、作る方に関わる感じがあったのかもしれない。
ーー今だからこそ言える、愛子さんにとっての「アイス」と「ジェラート」の違いって?
ジェラートは素材の味や香りを感じられるもので、アイスはもっと濃厚でミルク感を楽しむものなのかなと私の中では思ってる。
たとえば同じピスタチオを作っても、アイスクリームのピスタチオって「ピスタチオの味のするアイスクリーム」って感じで、ジェラートのピスタチオって「ピスタチオ」を食べている感じがする。
提供温度の違いもあるんだよね。味や香りって温度が高い方が感じるんだけど、ジェラートの方がアイスクリームよりも高い温度で提供するから味や温度を感じやすい。
一方でアイスクリームの良さもある。それは、家庭の冷凍庫の−18℃から出してすぐ食べられるところ。SANTiとして、アイスクリームでの表現にも今後チャレンジしたいな。
ーー愛子さんは、イタリアで一日ずっとジェラートを食べ歩いていた時期があるんですよね! 愛子さんの好きなお店、気になります!
ローマにある《NEVE DI LATTE》。ここが私の理想のジェラート。
▲neve di latteのジェラート(愛子さん提供写真)
イタリアって甘くて濃厚な店がほとんどなんだけど、ここはナチュラルな素材感をすごく大事にしていた。素材の味を感じて、甘さも控えめで、ねばってなくて。ここを私は無意識の中で目指しているから、いわゆる「SANTiのジェラート」って、いわゆる「イタリアのメジャーどころのジェラート」とはちょっと違う。
あともう1つ、イタリアで好きなお店があった!同じくローマの《Stefino》。
ここはオーガニックやヴィーガンもやってるの。そしてつぼ型ショーケース。
この2つの店舗を合わせたのが、今のSANTiかも!
▲ジェラートを選ぶ(愛子さん提供写真)
イタリアで食べてたときも、私が好きな店って大通り沿いの観光客向けじゃない店の方だった。そういうところのジェラートの盛り方は「ツノ」じゃなかったの。マルっとした盛り。その方が、クラフト感も感じられるなあ、かわいらしいし……と思って、今のSANTiのカップの盛り方になった。
▲ツノが立たない、SANTiのジェラート(PHOTO by YUKA KASAYA)
おいしいジェラート
ーー愛子さんがジェラート屋さんに初めて入るときに「ここはおいしそう!」とみてわかるポイントって?
まず、ショーケースのコンディションを見る!
ポツェッティ(注:つぼ型のショーケース・中身が見えない)にしてる時点で気をつかってるのかなっていうのがひとつ、私の中では思う。
ジェラートが見えているならそのお店が何に気をつかっているのかわかる。(ジェラートの)表面がデロデロになっているのとか、汚くなっているのを見ると、ケアしてないんじゃないかなと思ったり。
大切なものだと思ってたら、ショーケースをガシャガシャにしたりしないよね。
▲SANTiのポツェッティ(PHOTO by 松本純)
SANTiではポツェッティを使っているけど、ポツェッティにするか、初めは悩んだんですよ。鎌倉で、中身が見えないってどうなんだろうと思った。でもどうせお店は奥まってるし、それならクオリティ重視でしょって言って、今のポツェッティに決まりました。「わかる人は見るよ、クオリティ!」というマチコさん(注:鎌倉・Vicoloのご店主)からの後押しもあって。
「ジェラートって牛以外の作り手が登場するよね!」
ーー生産者さんや素材に目が向くようになったのは?
ジェラート屋をできるかも、と思ってイタリアで勉強したのは、旅の前半戦だったんですよ。
そのあとも「ジェラートジェラート」と思いながら、先進国も途上国も、世界中を旅し続けた。すると旅の中で、行く土地土地で感じることがあった。
まずは、地球環境のこと。
たとえば、資本主義中心の、大量生産大量消費大量廃棄という経済の流れ。
それに、食の安全性という観点。
旅の間お金がなくて土地土地で自炊していったんだよね。
先進国ではいろんな物が手に入るけど、いろんなもの(添加物など)が入ってる。逆に途上国の田舎とかいくと、種類は少ないけど、その土地でとれたその土地で育つもの、農薬も使っていないものを食べていて。そっちの方が体調がすごく良い。美味しいも美味しいし、体調がいいの!
そういうのを「ジェラート修行後」の旅をしながら感じて、ジェラートを作るんだったら、自分たちが社会の課題と感じていることを、小さいながらも込められるんじゃないかと感じたの。
子どもたちやみんなに食べていただくことを考えると安全なこともとても大切。
最初のパッションは「おいしい」だから、「おいしい」を犠牲にするのは私の中で違うことだけど、できる範囲で、食の安全も取り入れられたらいいかな。
ジェラートの素材は、日本に帰ってきてから手に入るものは日本で探すことにして、旅の間はカカオならカカオの生産地に行ったり、コーヒーの農園に行ったり、海外でもいろいろなところでいいものを探してた。
SANTiと愛子さん
ーーSANTiって愛子さんにとってどんな存在?
最初はSANTi=自分という感じ。褒められると、嬉しいのと同時に気恥ずかしさもあって。今は、ほかのひとにSANTiを褒められたら嬉しい。
▲2019年のGelato World Tour日本選手権2位に。2018年にGELATERIA SANTiが
オープンして、1年4ヶ月での快挙だった。(愛子さん提供写真)
SANTiでいっしょに働いてくれるみんなは、同僚でもあるし友だちでもある。いっしょにいると、「こんな考え方があるんだ〜」と思うことばかりだったな。
取材後記
ベビーカーを押しながら、海に近い公園で一時間ほどおはなしをしました。
愛子さんがジェラートに、SANTiに込めた思いが、みんなとおいしくお店で楽しめるようになって、3年半。そのずっと前から、愛子さんと、ひととおいしいものとの思い出はひとつひとつ重ねられてきた。ざっくばらんにおしゃべりする中からもそれがにじみ出て、とてもあたたかい取材の時間でした。
▶︎今回の思い出フレーバー:ジェラテリアPopoloの「マスカルポーネ」
愛子さん高校時代の思い出のジェラート。
SANTiで言うとすれば、「Crema di Tiramisu」に近いフレーバーかも。
▶︎TOP PHOTO by YUKA KASAYA
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GELATERIA SANTi
神奈川県鎌倉市御成町2−14
SANTi×ひと written by akico
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